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とりあえず、銀太郎と露風とキトラだけが広場に残って、みんなで街に戻る。

龍のことは気になったけど、今は何も出来ないし…。

昼ごはんを食べて、明日の準備もしないといけないし。


「帰ったときには目が覚めてるかな。早く三つ目を見たい」

「それは無理だと思うの」

「まあ、そんな焦りぃな。今は、ちゃんと峠越えられるように祈っとこ」

「そうだね」

「…あ、もう宿か。じゃあ、私たちはうちで食べてくるから。またあとでね」

「うん。また」


凛と雪葉は、そのまま真っ直ぐ家に向かっていって。

それを見送ってから、自分たちも宿に入る。

玄関のところで、もう美味しそうな匂いがしていた。


「ええ匂いやなぁ。今日のお昼ごはんは何やろ。お好み焼き?」

「焼きそばだと思うの」

「焼きそば?なんでそんなん分かるん?」

「そんな匂いなの」

「タレの匂いでゆうてんねやったら、お好み焼きかもしれんやん」

「お好み焼きのタレと、焼きそばのタレは違うの」

「えぇ…。うちはおんなじのん使って作ったりするけどなぁ…」

「全然通じゃないの」

「えぇ…」


廊下を進んでいって、居間に出る。

そしたら、ちょうど望とナナヤがお昼を食べてるところで。


「あ、お帰り」

「ただいま」

「翔、あと三つ追加ねー」

「はいよ」

「ほら。焼きそばだったの」

「焼きそば?昼ごはん?」

「うん」

「なんで分かるん?うちは全然やのに…」

「だから、匂いが違うの」

「はぁ…。もっと勉強します…」

「何の話?」

「リュウは、タレの匂いで焼きそばかお好み焼きか分かるんだって」

「ふぅん。まあ、とりあえず座りなよ」

「うん」


ナナヤに言われて、椅子に座る。

二人のお皿を見ると、望の焼きそばはナナヤの二倍くらいあるみたいだった。

もとから多いのか、ナナヤが食べるのが速いのかは分からないけど。


「まあ、焼きそばのタレとお好み焼きのタレって、結構違うらしいからねぇ。私は、そんな、嗅ぎ分けるなんで出来ないけど。望は出来る?」

「どうだろ。あんまり意識したことないかな。一緒に作って食べることもないし、お祭りなんかだと他のいろんな匂いも混じってるし」

「お祭りといえば、たこ焼きもタレを掛けるよね。あれも違うの?」

「違うの」

「ふぅん。なんか、通ってかんじだね」

「うん」


リュウは、なんだか少し誇らしげだった。

ナナヤはそんなつもりで言ったわけじゃなさそうだけど。


「それで、今日もあの広場に行ってきたの?」

「うん」

「凛たちは?」

「いたよ」

「そっか。黄昏の子は?」

「大丈夫だったよ。キトラって名前で」

「へぇ、キトラか。なんか、村の名前であったよね」

「うん、あるね。ここからはちょっと遠いけど」

「何か関係あるかもしれないって言ってたんだぞ」

「そうなんだ。それで、今日は何してたの?」

「キトラの話を聞いて、あと、空から大きな龍が落ちてきて」

「龍?またそんな…。最近、そんなことばっかりだね」

「ほら、出来たぞ。焼きそば三つ」

「あ、翔。ありがと」

「それより、龍が空から落ちてきたって?」

「盗み聞きは感心しないなぁ」

「何言ってんだよ。こんなところで話してて」

「黒くて、たてがみは白くて、三つも目がある龍なんだぞ」

「三つ目の龍か。俺のいた孤児院周辺の伝説にも出てくるな」

「翔って、どこにいたの?」

「ずっと北の方だよ。伝説によれば、その龍は、四つの国を統べていたんだけど、誰だかに永遠に封じられた…とかだったかな」

「いかにも伝説ってかんじだねぇ」

「でも、私も本で読んだことあるよ。話を聞いて思い出したけど。四つの国の王だった三つ目の龍はとても欲張りで、周りの国も自分のものにしようと攻め込みました。しかし、最初はどんどん攻めていたのですが、途中からは上手くいかず、最後には英雄によって異世界へ永遠に封じられて、自分の四つの国も失ってしまいました。とかだったかな。伝説というか、子供向けのお伽話だね」

「んー…。そんなだったかな…」

「まあ、同じような伝説は各地にあるでしょ。内容も少しずつ変わっててさ。あるところでは英雄だと言われていても、別のところでは極悪人とか言われてたり。あるひとつの伝説がもとになってたとしても、その地方の人たちの受け止め方の違いなんだと思うよ」

「そうかな…」

「子供への教訓を含ませたりするために、わざと大袈裟に言ったり、脚色したりもするんじゃないかな。あと、人間の方が悪いようなときでも、そんなのは認めないとかで変えられてる可能性はあるし」

「俺は、そんなのは納得出来ないな。間違ったことは間違っていると、ちゃんと教えていかないといけないと思う」

「それは翔の考え方でしょ。大抵の人間は、自分が間違ってると認めたくなかったり、いい格好をしたいと思って、ねじ曲げたりするんじゃないかな」

「…間違ってるよ、それ自体が」

「そうだね」


あの龍は、欲張りで悪い龍なんかじゃない。

それは確かなんだぞ。

伝説に出てた龍とあの龍が同じ龍だとは言えないし。

それに、きっと違う。

欲張りな三つ目の龍がいたとしても、あの龍とは違う龍なんだぞ。


「ルウェ。焼きそば、冷めちゃうよ」

「あ、うん…」

「大丈夫なの、ルウェ」

「えっ?」

「あの龍は、そんな悪い龍じゃないって考えてたんでしょ?」

「うん…」

「ルウェがそう信じてあげてたら、きっと大丈夫なの」

「そうそう。伝説は伝説でしかないんだしね」

「うん…。ありがと、なんだぞ」

「お礼なんて言わなくていいの」

「まあ、またあとで、龍の様子も見にいきますか。ね、翔」

「俺は雑用がまだまだ残ってる」

「なんだ。つまんない」

「ふん。どうも」


そう言って、翔は厨房へと戻っていった。

…翔と行けないのは残念だけど。

でも、望とナナヤにも見せてあげたい。

そしたら、悪い龍なんかじゃなくて、優しい龍だってことが分かるから。

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