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露風の言った通り、キトラの目が見えなかったのは一時的なもので、だんだんと見えてくるようになってきたみたい。

起き上がることはまだ出来ないみたいだけど、喋るのは大丈夫なようで。


「お前はどこから来たんだ?」

「黄昏の世界だよ。見方によっては暁の世界だけど。まあ、どっちかなんてどうでもいいよ」

「ふぅん」

「では、暁の子というのは?」

「私たちのどっちでも、黄昏の子であるし、暁の子であるってことだよ。本当は、その名前は聖獣とか影の間での呼び方でしかないんだけど」

「そうか」

「第三勢力ってわけだね。私たちは、影ってのは知らないけど」

「影は、ルウェが愛って子と誓約してるの」

「セイヤク?なんだ、それは。契約の間違いじゃないのか」

「誓約は、私たちで言うところの契約と同じだ。ルクエンさまが仰っておられた。扉が開かれたということで、影との交流も増えるであろうから、私も少し調べたんだが」

「ふぅん…。ていうか、ルウェって、本当にいろんな子と知り合いなんだね。聖獣とはたくさん契約してるし、影の子とも誓約してるし、黄昏の子とも知り合いだし…」

「非常に稀なことではあるが、そういう者がいないわけでもない。まあ、私も、あと一人しか知らないのだが」

「えぇ…。銀太郎が知らないんじゃ、他の誰も知らないよ…」

「そう言える歳になってしまったな。しかし、私の知らないところで、誰か他にもいるやもしれぬ。世界は広いのだから」

「それはそうだけどさぁ…」


雪葉はため息をついて。

…あと一人って誰だろ。

よくみんなが言ってる、吉野って人かな。


「ところで、なんか一人増えてない?」

「何ゆうてんの、雪葉姉ちゃん」

「んー?あれ?気のせいかな…」

「怖いこと言わんとってぇな…」

「妖怪だな」

「よ、妖怪…?」

「ふと気が付くと、いつの間にか隣にいて、おかしいなと思ってると消えている。ただそれだけだが、人間が不思議がってるのを小バカにして笑ってるという妖怪がいるそうだ」

「えぇ…。てか、凛、よう知っとるねぇ」

「私は小バカにされたくないからな。私が知ってるのを見て、地団駄でも踏んでるだろう」

「凛ってさ、昔っから妖怪とかお化けとか好きだよね」

「妖怪は面白いからな。一度会ってみたいものだ」

「妖怪というのは、今、凛が言ったように、小さな悪戯をして人間などを小バカにしているようなものが大半だ。会っても幻滅するだけやもしれぬな」

「ぎんたろーは夢がないな」

「事実を述べたまでだ。まあ、ごく一部ではあるが、凛が会いたいと夢見ているであろう強大な妖怪はいることはいる。そんな者に会うことは、まずないが。そういった者は、誰も立ち入らないような場所、あるいは、聖域と呼ばれるような場所にいるものだ」

「私は必ず冒険家になって、そんな妖怪と会うぞ。決めた」

「安直な…」

「ゆきねぇも来るか?」

「嫌だよ…。私は、強大な妖怪なんかに会いたくないし…」

「格好いいじゃないか。なんで嫌なんだ」

「危険を冒してまで妖怪には会いたくないし、そもそも、強大な妖怪なんてすごく凶暴かもしれないじゃない」

「力を持つ者は、分別も弁えているものだ。そうでなければ、力を上手く操ることすら出来ないからな。浅慮の者が力を得られるのは、人間くらいのものだ」

「権力のことを言ってるの?」

「それもあるが、たとえば腕力なども、筋肉を鍛えさえすれば手に入れることが出来る。しかし、筋肉を鍛えることに頭を使うことは絶対に必要というわけではないだろう。なまじ力だけを持ってしまい、周囲に害を与える者は少なくないだろう?」

「そういう人って、いつかは淘汰されるんじゃないの?もっと強くて分別のある人とかにさ」

「そうだ。それが自然だが、半端者が世に出てしまうということはまずないのだよ、人間以外はな。未熟であることはあるが、半端であることはない。半端では生きていけない。力を持つのなら、それを操るための頭脳も合わせ持たないといけないのだ。だから、力を持つ者ほど、危険は少ないと言えるかもしれないな」

「ふぅん…。でも、やっぱりいいよ…。怖いのは怖いし…」


雪葉は、興味がないといった風に手を振って。

でも、凛は全然聞いてないみたいだった。


「とりあえず、妖怪の話から離れて…」

「何か落ちてくるの」

「えっ?」


リュウが指を差してる方…上を見ると、確かに何かが落ちてきてるみたいだった。

黒くて、大きい何か。


「明日香、那由多」

「うん」「えっ?」

「私に任せなさい」

「ぎんたろーに何が出来るんだ?」

「暗雲」


銀太郎が何かを呟くと、急に木や草がざわついて、広場の上が曇りだす。

それがなんでかは分からないけど、黒くて大きい何かの落ちてくる速さも、それと一緒にゆっくりになって。

地面に落ちてくる頃には、雨が少し降っていた。

だから、砂埃もそんなに上がらないで。


「何これ」

「さあな」

「龍、かな。巨大な」

「そうだな」

「ていうか、今、何したの?」

「急激な上昇気流を作ったのだ。龍は、風を上手く受けたり流したり出来る身体の構造をしているからな。上昇気流で空気の緩衝材を作ったというわけだ」

「ちなみに、露風たちは何をしようとしてたの?」

「同じことだ。私たちの場合は、気流ではなく水だが」

「ふぅん…」

「ゆきねぇ。もっと別に聞くことはあると思うぞ」

「いいんだよ、もう…。何か変なことばかりが起こるのは、最近の流行りみたいだから…」

「そうか。ならいい」

「凛。変に納得しちゃったら、大切なことが聞けないの」

「おぉ、そうだ。こいつは何なんだ?キトラよりでかいぞ」

「キトラすらも比じゃないじゃん…。大きいというか、もはや巨大だよ…。さっきも言ったような気がするけど…」

「そうだな。チョーキョーダイだ」

「超兄弟…?あ、ちょっと。危ないよ」


凛は早速、龍の方へ車椅子を進めていって。

自分とリュウも、それについていく。

…空から降ってきた龍は、広場がいっぱいいっぱいになるほど大きくて、頭だけでもリュウの背丈と同じくらいだった。

二本の真っ直ぐな角が後ろに伸びていて、ところどころに傷が付いている。


「生きてるのか?」

「息はしてるの」

「でかい龍だ」

「うん」

「身体は黒いのに、たてがみは白いな。なんでだ?」

「そういう龍だからじゃないの?」

「わたしは、鱗龍なのに、たてがみがあることが不思議なの」

「そうだな。意味がよく分からんが」

「………」

「あまり不用意に近付くな。怪我をしている者は、気が荒くなっていることが多い。まあ、暴れる気力も体力もないだろうが」

「あ、露風。こいつ、怪我してるみたいなんだ。治療してやってくれ」

「…虫の息だな。何かは知らんが、聖獣ではないことは確かだ。出来る限りのことはやってみるが、上手く効くかは分からない。腹から背へ抜ける、巨大な刀で刺したような傷もあるし、もう何日も何も食べていないのか、痩せ細って骨と皮だけになっている。回復するまで体力が保つかどうかも分からない。キトラのときとは違って、状況は最悪だ」

「キトラは最悪じゃなかったのか?」

「瀕死ではあったが、治す傷をちゃんと治せば、危機は免れられるというようなものだった。…それが、長たちの判断なのだろうが」

「そうか。ところで、ここのデコのところの切れ目は何なんだ。触っていいのか?」

「三つ目の龍なのだろう。絶対に触るな」

「三つ目?目が三つあるのか?」

「そうだ。とにかく今は、この者には何でも脅威となり得る。お前の汚い手で目を触られたら、感染症でも起こして失明しかねない」

「そうか。じゃあ、やめとこう」

「凛の手は汚いの」

「何言ってるんだ、リュウ」

「………」


しばらくすると明日香と那由多もやってきて、ついでに雪葉とエルもビクビクしながら来た。

銀太郎は、何かいろいろ見て回って、調べてるみたいだったけど。

…また何か忘れてる気がする。

この龍のこと?

それとも、別のこと?

どれだけ考えても分かりそうになかったけど。

でも、きっと、すごく大切なことだと思う。

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