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川原の広場まで戻ってくると、雪葉と凛と那由多が待っていた。

三人で、何か楽しそうに話をしていて。


「あっ、帰ってきた」

「でも、なんであっちから来るんだ?」

「さあ?」

「まあいいじゃない。お帰りなさい」

「ただいま、なんだぞ」

「なんで、山の方から帰ってきたんだ?」

「ちょっと、山登りしてたから」

「なんだ、それは。…まあ、別にいいけど」

「明日香お姉ちゃん。訓練の続きはするの?」

「えっ?うーん…。せめてリュウがいてくれたら、効果的な訓練が出来るんだけど…」

「そっか…」

「なんて話してるの?」

「リュウがいてくれたら、効果的な訓練が出来るんだって」

「ルウェじゃダメなの?」

「えっ、自分?」

「ダメなわけじゃないけど、三人だと私が訓練に参加しないといけないから、あんまり効率はよくならないんだよ…」

「ルウェと明日香お姉ちゃんと私の三人だと、効率的な訓練が出来ないんだって」

「教える側の明日香が訓練に参加しないといけないから?」

「たぶん」

「そうだな。少し離れた場所から客観的に物事を見るというのは大切なことだ。まあ、主観的な訓練も必要だがな」

「あ、ぎんたろー。お前、今までどこに行ってたんだ」

「すまないな。少し、散歩をしに」

「そういうことは先に言え」

「うむ。今度からはそうしよう」

「まったく…」


銀太郎は一度凛の肩に泊まってから、こっちに飛んでくる。

それから、低い声をより一層低くして。


「別れは辛いだろうが、乗り越えることが出来れば、必ずお前の力になる。今回は一時的なもののようだが、あまり気は落とすなよ」

「うん。ありがと、なんだぞ。でも、大丈夫だから」

「そうか。それなら、余計なお世話だったな」

「何をコソコソ話してるんだ」

「む?いや、少しな」

「ふぅん…?」

「そういえば、望の話って何だったの?よかったら聞かせてくれない?」

「いいよ。あのね、一緒に旅してたお兄ちゃんが、旅団の大きな仕事に行っちゃって、しばらく一緒に旅が出来ないようになったんだ。その話」

「えっ?じゃあ、そのお兄ちゃんって、もう出発しちゃうんじゃないの?旅団の仕事って、結構急なものも多いって聞くし…」

「明日の朝なんだって。でも、まだ準備とかがあるから、ゆっくりしてこいって。また夜になったら会えるんだし、今は雪葉や凛たちと一緒にいたいな」

「でも…」

「いいじゃないか。私たちだって、いつかは別れなくちゃいけないんだ。そのお兄ちゃんとかいうやつがいいって言ってるんなら、私はルウェとゆっくり話がしたい」

「それは…」

「だいたい、帰ったって、お兄ちゃんとかいうやつは、仕事に行く準備に忙しいんだろ。ルウェの言う通り、準備が終わった夜に、また話せばいいんだ。ルウェもそれでいいんだろ?」

「うん」

「な、ゆきねぇ。ゆきねぇも、ルウェたちとゆっくり話したいんじゃないのか?」

「それは、そうだけど…」

「じゃあ、決まりだな。ルウェ、こっちに座ってくれ。話しにくい」

「あ、うん」


まだ何か言いたそうにしてる雪葉の手も引いて、凛の隣に座る。

そうなれば、雪葉も座るしかなくて。

三人で並んで座った向かい側に、明日香と那由多が座った。

銀太郎は、凛の肩に。


「白と黒だな」

「そうだね」

「明日香お姉ちゃんもアスカのはずなのに、なんで白いのかな?」

「………」

「色のことなんていいじゃないか。明日香は明日香だろ。那由多は那由多だし。それでいい」

「そうだけど…。明日香お姉ちゃんは、何か分からないの?」

「………」

「そっか…」

「聖獣の種族は、基本は母性遺伝であるが、ごく稀に父親の性質を遺伝してくることがある、と聞いたことがあるな。私が実際に見たわけでもないし、もはや伝説や迷信と呼ばれる域にあることではあるのだが」

「でも、本当にあるんだとしたら、明日香お姉ちゃんのお父さんはルウェとか、白い毛の種族だったりするってこと?」

「そうだな。母親はアスカだろうが…」

「何言ってるんだ。ルウェは女だし、毛も白くないぞ」

「違うよ、凛。聖獣にもルウェって種族がいるんだよ。光の聖獣で、真っ白な毛をした狼なんだよ。明日香お姉ちゃんみたいにね」

「む?それって、悠奈とかいうやつか?」

「あっ、そうそう。悠奈の種族はルウェだね」

「なんだ、ややこしいな…」

「うん。悠奈も、最初はルウェって呼んでたから、自分とごちゃごちゃになって。だから、ややこしいから、名前を付けたんだ」

「ふぅん…」

「まあ、ややこしくなくても名前は付けた方がいいと思うけどね。呼びやすいし。私はアスカだから、明日香お姉ちゃんとごっちゃになるけど」

「うん」

「それで?明日香は、お父さんとかお母さんのことは覚えてるのか?」

「………」

「あんまり覚えてないんだって。でも、お母さんは綺麗な黒い毛並のアスカだったって」

「明日香も孤児なのか?」

「………」

「それも分からないって。でも、気付いたらこっちの世界に来てて、一人で旅をしてたって」

「一人で?旅?」

「…ワゥ」

「聖獣の知識のある斡旋者とか、優しい旅人とかと旅をすることもあったんだけど、やっぱり苦労したんだって。こっちの世界の狼と違って成長もゆっくりだし、それに…」

「…それに?」

「…ううん。なんでもない」

「……?」


凛は首を傾げるけど、たぶん、明日香が言ってたのは、聖獣たちは自分たち人間よりもずっと長生きするってことだと思う。

普通の狼が何歳まで生きるかは知らないけど、いつまでもなかなか大きくならないで、すごく長生きの狼がいたら、何も知らない人ならどういう反応をするんだろう。

自分にはそれは分からないけど、明日香はそれで哀しい思いをしてきたのかもしれない。

…それに、長生きなのは、那由多や銀太郎にも言えることで。

那由多が言わなかったのは、だからなのかな。


「那由多」

「えっ…?」

「お前が何を隠してるのかは知らないけど、きっと、それはいつか来る哀しみだろうと思う」

「………」

「でもな、逃げてちゃダメだ。いつかは来るんだから。それを乗り越えないと、那由多はいつまでも弱いままだぞ」

「凛…」

「今とは言わない。乗り越える覚悟が出来たら、私たちにも話してくれないか?那由多が乗り越えないといけないことは、私やゆきねぇやルウェも乗り越えないといけないことだろ?苦難はみんなで分けあったら軽くなるものだ。だから、な?」

「…うん、分かった」

「うん」


凛は分かってたのかな。

那由多が言い掛けてたこと。

…でも、どっちにしても、別れっていうのは必ずやってくるものだから。

凛の言う通り、乗り越えなくちゃいけないことだから。

今の、自分も。

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