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いつもの広場では、もう雪葉と那由多が待っていて。

那由多は、明日香の姿を見つけると、すぐに駆け寄ってきた。


「待ってたよ!」

「………」

「あ、来た来た。おはよ、ルウェ」

「おはよ、雪葉。凛は?」

「今日は寝坊してるみたいね。まあ、起きたら来るだろうから」

「ふぅん…。雪葉は、今日は仕事はないの?」

「えっ?あぁ、うん。今日はお休みだね」

「そっか」

「まあ、お休みならお休みで、家事とかもしないといけないんだけどね。…ナナヤは、今日は来てないの?」

「うん。今日は、リュウが来るよ」

「へぇ、そうなんだ。リュウって可愛いよね」

「そうかな?」

「可愛いよ~。抱き締めたら、すごく柔らかいし」

「そうなの?」

「ルウェも、今度やってみたら?」

「えぇ?うーん…」


リュウって、そんなに柔らかかったかな。

柔らかくないことはないけど…。


「明日香お姉ちゃん、早く!」

「………」

「でもさぁ…」

「…ワゥ」

「分かったよ…」

「明日香と何話してるのかな」

「分からないんだぞ」

「望は分かるんだよね?」

「明日香の声は聞こえるみたい」

「ふぅん。いいよね、そんな力があったらさ」

「うん」


自分も、たまに聞こえるけど。

なんで聞こえるのかは、よく分からない。

でも、明日香の声が聞こえると、それだけでなんか嬉しくなる。


「望に秘訣とか聞いてみよっかなー」

「秘訣なんてあるのかな」

「さあね。でも、ああいう力って、誰しも持ってるものだってよく言うじゃない」

「そうなの?」

「たぶん」

「………」

「まあいいじゃない。そんな力が使えたらいいなぁ」

「…そうだね」


そういえば、朝、何か夢を見た気がする。

どんな夢かもあんまり覚えてないし、なんで今思い出すのかも分からないけど。

でも、その夢に、何かがある気がして。


「どうしたの?」

「今日、何か夢を見た気がする」

「夢かぁ。私はしょっちゅう見るけど、朝になったら忘れてることが多いかな」

「うん。自分も」

「なんかね、夢を思い出すおまじないって聞いたことあるんだけど、忘れちゃったな」

「どんなかんじの?」

「んー。呪文は覚えてるんだけどね。メユタミウヨキって」

「メユタ…?」

「メユタミウヨキ。今日見た夢をひっくり返してあるだけなんだけどね。この呪文を唱えながら、何かをしたら思い出すとかなんとか。まあ、迷信だと思うけど」

「ふぅん…」

「何かやってみる?呪文を唱えるだけでも」

「うん」

「じゃあ、メユタミウヨキ」

「メユタミウヨキ」

「何回か言ってみて」

「メユタミウヨキ、メユタミウヨキ…」


今日見た夢。

メユタミウヨキ。

どんなだっただろ。

もう一度、思い出してみる。


「聞こえる?」

「何が?」

「私の声が」

「私…?まあ、聞こえるよ」

「見える?」

「だから、何が?」

「私の姿が」

「ルウェ?何か変だよ?」

「えっ?あぁ…。今、夢を思い出してた」

「思い出せたの?」

「ううん…。ぼんやりとだけ…」

「ぼんやりとでも思い出せたならいいじゃない。もうちょっと頑張れば、はっきり思い出せるかもしれないよ」

「うん。でも、やっぱりやめとく」

「なんで?」

「覚えてないんだったら、たぶん、今は思い出しちゃいけない夢なんだと思う。なんか、そんな気がするから」

「…そっか。じゃあ、仕方ないね」

「うん。ごめんね」

「謝ることはないよ。ルウェが決めたことなんだし。まあ、ちょっと気になるけど」


そう言って、頭を撫でてくれる。

…思い出しちゃいけない、というか、内緒にしておきたい夢。

自分に何かを聞いてた人が、それを望んでるような気がして。

自分には、まだ見えなかったあの人が。


「ルウェ?」

「えっ?」

「無理して思い出そうとしちゃダメだよ。余計に奥に逃げちゃうからね」

「うん。大丈夫」

「そう?それならいいけど。…それより、あの二人は何してるのかな」

「…穴掘りじゃないの?」

「そうなんだけど…。モグラでもいるのかな」

「聞いてみたら?」

「えぇ…。別にいいよ…」

「でも、狩りの練習はしないのかな」

「待ってるんじゃないの?ほら、二人じゃ出来ないしさ」

「あっ、そうかもしれないんだぞ。ちょっと呼んでみる」

「いいの?」

「何が?」

「みんな、忙しいんじゃないの?」

「忙しかったら、ちゃんと忙しいって言うから」

「そうなんだ」

「寝てたら、何も返事は返ってこないけど」

「そうなんだ…。そんなこと、あるの?」

「悠奈とか七宝とか琥珀は、まだ子供だから、よく寝てるんだって」

「ふぅん。寝る子は育つ、か」

「たぶん。だから、薫しか返事がないときも多いし」

「呼び掛けってさ、どうやるの?」

「えっ?普通に、おーいってかんじで…」

「名前とか呼ぶの?」

「呼ぶときもあるよ」

「でも、ここにいないときはどうするの?聞こえてるの?」

「声に出しても聞こえないと思うけど、みんなのことを思い浮かべながら呼び掛けたら、返事してくれるよ」

「ふぅん…。私にも出来るかな」

「分からないけど」

「まあ、契約してないから無理かな」

「やってみないと分からないんだぞ」

「それもそうだけどさぁ。普通に声を出して呼んでも聞こえるくらい傍にいるのにねぇ」

「試してみようよ」

「えぇ…。なんか恥ずかしいし…」

「無理だったとしても、誰にも聞こえないんだぞ、心の声なんて」

「そうだけどさぁ…」

「もう…。じゃあ、自分がやってみるんだぞ」

「えっ?そ、それなら、私がやるよ」

「どっちなの?」

「うっ…。やりゃいいんでしょ…」

「………」


雪葉は目を瞑って、しばらく静かにしてる。

それから、ゆっくりと目を開けて、広場の向こうにいる那由多の方を見て。


「ほら、ダメじゃない」

「そうかな」

「そうだよ」


と、雪葉が川の方へ目を逸らしたとき、那由多が耳をピンと立てて振り向いた。

それから、明日香に何かを話して、こっちに走ってくる。


「雪葉、呼んだ?」

「えっ?」

「あれ?空耳かな…。明日香お姉ちゃんも、何も聞こえなかったって言ってたし…」

「聞こえたの?」

「あっ、やっぱり、呼んだんだ。でも、なんでボクだけに聞こえたのかな…」

「…念波を飛ばしたんだよ」

「えっ?ネンパって?でも、契約してなくても聞こえるんだね」

「たぶん、雪葉は、そっち方面の力が強いのかもしれないね」

「あ。明日香お姉ちゃん。そっち方面って?」

「術式を使ったり、操ったりする力だよ」

「明日香と何を話してるの?」

「えっ?あぁ。雪葉は、術式を使ったりするのが上手いのかなって」

「そうなの?」

「そうなの、明日香お姉ちゃん?」

「まあ、今のが本当に念波だったらって話。雪葉と那由多の心が通じていて、それでお互いに共鳴しあったんだったら、それは特別な力じゃないけどね」

「ふぅん…」

「ねぇ、なんて?」

「本当にネンパなら術式が上手いってことになるけど、私と雪葉の心が通じていて、お互いに共鳴したんだったら、特別な力じゃないんだって」

「へぇ…。どっちなのかな」

「どっちでもいいんじゃないかな。でも、私は、心が通じ合って共鳴したんだっていう方が素敵だと思うけどね」

「うん。私もそう思う」

「なんてなんて?」

「共鳴しあってるって方が、素敵だと思うって」

「まあ、確かにそうだね。私も、そっちの方がいいかな」

「うん」


二人の心が共鳴しあって。

うん、そっちの方が素敵。

…でも、明日香がなんかそんなことを言うなんて、ちょっと意外かもしれない。

いつも無愛想で無口なのに。

なんか、ちょっと、明日香がいつもより可愛く見えた。

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