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「なんで、俺が獲物役なんだよ」

「いいじゃん。薫、暇なんでしょ?」

「暇でもないけど…」

「いいじゃんいいじゃん。ちょっとした息抜きにさ」

「はぁ…。本当に、姉さんは…」

「何よ」

「でも、自分の雷に感電するなんて、姉さんらしいね」

「普通なら大丈夫なの。今回は、水浸しにされたから…」

「はいはい」

「薫は、雷なんてミジンコほども効かないからいいだろうけどさ。辛いんだよ?痛いんだよ?」

「水浸しにされたら、さすがに無理だよ。それに、そう言ってられるだけいいじゃないか。もし明日香とか那由多に当たってたら、大変なことになってただろ」

「それはそうかもしれないけどさぁ」

「だいたい、姉さんはいつも考えが甘すぎるんだよ。いちおう年長者なんだからさ、もっとみんなに気を配って、事故や怪我のないようにしないと。まったく、姉さんが事故や怪我の原因を作ってどうするんだよ」

「五月蝿いなぁ、薫は相変わらず。怪我したのは私だけなんだから、もういいじゃない」

「そういう態度がダメだって言ってるんだよ」

「…ねぇ、いつになったら終わるの?」

「雷斗。これは大事な話なんだ。もし、雷斗が姉さんの雷に撃たれてたらどうするんだって話をしてるんだ」

「俺、撃たれてないし…」

「結果として撃たれていないだけで、もし撃たれていたら、そこで寝そべってる、あるいは、真っ黒焦げになってたのは雷斗や他のみんなかもしれないんだぞ?」

「むぅ…」

「でも、薫が話してたら、もう一生始まらないんだぞ」

「ル、ルウェさま…。しかしですね…」

「じゃあ、いつになったら終わるの?」

「そうだそうだ」

「蓮華お姉ちゃんは便乗しちゃダメでしょ…」

「えー。だってぇ」

「薫。いつ終わらせるの?」

「ル、ルウェさま…」

「自分の名前を呼ぶだけじゃ、何も分からないんだぞ」

「こ、これは、大切な話ですので…」

「大切な話ってことは分かるけど、こっちに来てからずっと、そればっかりじゃない。みんなで遊びたい…訓練したいって言ってるのに、これじゃ全然何も出来ないんだぞ」

「そうだそうだ」

「だから、蓮華お姉ちゃん…」

「いいじゃん。たまには薫に言い返してやりたいのよ」

「言い返せてないし…。どっちがお姉ちゃんだかお兄ちゃんだか分からないね…」

「一番分からないのは、ルウェと薫の力関係じゃない?薫ってば、完全にルウェの尻に敷かれちゃってさぁ」

「尻に敷かれてるって言うのかな、これは…。どちらかと言えば、主従関係じゃないの?」

「でもさ、私はナナヤにはヘコヘコしないよ」

「それは蓮華お姉ちゃんの考え方でしょ?それに、さっきは、かなり手酷くやられてたみたいだったけど?」

「うっ…。あれは違うよ…。ナナヤが無理矢理…。そ、それじゃあさ、那由多は雪葉と契約したら、ヘコヘコするわけ?」

「そんなの分からないよ。だけど、契約した人がみんな、主従関係になるわけじゃないんじゃないの?友達関係とか、いろいろあるじゃない」

「親子関係とか?」

「親子まで行くかどうかは分からないけど、でも、いろんな関係があるってことでしょ?」

「はぁ…。まあ、そうかもね…」

「なんで、そんなどうでもいいかんじなのよ」

「なんか、もうどうでもよくなってきたからだよ」

「蓮華お姉ちゃんから始めた話でしょ?」

「そうだっけ?」

「もう…」

「話は終わったか?」

「薫も、いつ話を終わらせるの?」

「ルウェさま…。今回ばかりは、言わせてください…。姉さんは、本当に毎回こんなことばかりしていて…」

「なんで、みんなで楽しく遊ぼうって言ってるだけなのに、それを邪魔するの?」

「邪魔など…。ですから、これは大切な話ですので…」

「蓮華は、今日はもう走れなくて、代わりに薫にやってほしいって言ってるんでしょ?蓮華のやることが心配なんだったら、今はもう心配することはないじゃない。年長者としてどうこうって言うんだったら、今、一番年長者の薫が、それをやればいいんだよ。口で言う前に、自分で行動してみせたらどうなの?注意なんて、訓練が終わってからだって出来るじゃない」

「うっ…。確かに、仰る通りかもしれませんが…」

「しれませんがじゃないの。今日は、もうこの話はこれでおしまい。みんなで一緒に狩りの訓練をしようよ」

「は、はぁ…」

「文句があるなら、帰っていいよ」

「い、いえ…。申し訳ありません…」

「うん。じゃあ、薫が獲物役ね」

「はい…。分かりました…」

「おぉ。薫を言いくるめちゃったよ」

「なんか、強力な権限を使って、無理矢理抑え込んだかんじもしないでもないけど…」

「いいのいいの、見た目なんて。薫が言い負かされたってことが一番大事!」

「それって、ただ単に蓮華お姉ちゃんの満足のためだけなんじゃないの?」

「そんなことは五分五厘ない!」

「残りの四分五厘は?」

「それで、明日香は相変わらず監督でいいの?」

「あっ!話を逸らした!」

「………」

「そうだね。薫じゃ、私のようにはいかないだろうしね。凶暴だし」

「姉さんの方がよっぽど凶暴じゃないか…」

「何のことやら。それで、ルウェは?」

「自分は、横で見張ってようかな。薫が悪さしないように」

「ル、ルウェさま…」

「あはは。悪さしないようにだって」

「姉さん!」

「とりあえず、みんなのところに戻ってるんだぞ」

「うん。私の活躍、見ててよね」

「蓮華も来るの」

「えぇ…」

「えぇじゃないだろ。何が活躍だよ。痛みもまだ残ってるくせに」

「はいはい。じゃあ、邪魔な年寄りは退散しますかね。あー、どっこいしょ。まったく、近頃の若い者ときたら…」

「蓮華お姉ちゃんにも跳ね返ってくると思うけどな、それ…」

「しかも、自業自得だ」

「くっ…。雷斗のくせに生意気なっ…」

「ふん。事実だろ」

「いつか、雷斗だって感電するんだからね」

「しないよ。蓮華ほどバカじゃないもん」

「ふん」

「痛っ!ビリッときた!」

「まあ、まだまだチビっこの雷斗には、地味な静電気がお似合いかもね」

「なんだと!」

「姉さんは子供相手に本気にならない。雷斗も、挑発するようなことは言わない。まったく、なんでこんなに手間が掛かるんだよ」

「へいへい」

「蓮華が悪いんだよ!」

「どっちも悪い」

「うぅ…」

「ホントに、まったく…」「じゃあ、戻ろっか、蓮華」

「まあ、そうだね。みんなで楽しみなさいな」

「バカ蓮華!」

「こらっ、雷斗!」

「負け虎の遠吠えが聞こえるなぁ」

「痛っ!またビリッてきた!」

「虎って遠吠えするの?」

「はぁ…。ルウェさま、姉さんをよろしくお願いします…」

「うん。向こうにはナナヤもいるしね」

「あっ!ナナヤだよ、ナナヤ!私をいじめるんだ!痛いって言ってるのに、まだ筋肉が伸びないところを揉んだりして!」

「いじめられるくらいで、ちょうどいいんじゃないかな、姉さんは…」

「バカ蓮華なんて、ナナヤにボコボコにされろ!」

「雷斗。またそんなことを言うのか」

「痛っ!めっちゃビリビリきた!」

「まったく…」

「あはは…。まあ、賑やかだね…」

「………」

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