表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
334/537

334

「はぁ…」

「ほら、もう…。またため息ついて…」

「だって、のぞみに酷いこと、言ったのかもしれないんだぞ?」

「だから、そんなことないって」

「自責の念に駆られるのは分かるが、後ろ向きに考えても、何も前に進まないぞ」

「じゃあ、何を考えたらいいんだ」

「過ぎた話は仕方ない。いくら考えようとも、出てしまった結果は変わらない。それなら、どうしたら解決出来るかを考えればよいのではないか?仲直りする方法を」

「のぞみはきっと赦してくれない…」

「それは、やってみないと分からないだろう。やる前から結論付けてしまうのは、一番やってはいけないことだ」

「………」


凛はジッと黙って、そっぽを向いてしまった。

銀太郎も、それ以上は何も言うことはなくて。


「………」

「はぁ、はぁ…」

「それにしても元気だねぇ、あの二人は」

(那由多お姉ちゃんは、バテバテだよ?)

「それはそうだけど…」

「………」

「えっ…?ま、まだ行けるもん…」

「…ワゥ」

「うぅ…。分かったよ…」

「なんだろ」

「休憩だと思うんだぞ」

「まあ、うん」


二人が、こっちに向かって歩いてくる。

那由多は、木陰に着くなり、またぐったりと横になって。

強がってたけど、やっぱり疲れてたんだ。


「はぁ、はぁ…」

「お疲れさま」

「厳しいんだもん、明日香お姉ちゃん…」

「そうだねぇ」

「でも、楽しい」

「そっか。よかったよかった」

「………」


雪葉に撫でてもらって、那由多は満足そうにため息をつく。

明日香は那由多の横に座って、川の方を見ていた。

たまに、那由多の顔を尻尾で叩いてるけど。


「明日香、それ、楽しい?」

「………」


そう聞くと、こっちを向いて、首を傾げる。

それから、また川の方に顔を戻して。


「何かやってたの?」

「うん。遊んでた」

「明日香が?」

「うん」

「へぇ。意外だなぁ。何してたの?」

「えっ?それは…」

「………」

「あはは」

「わっ、何?那由多が壊れた」

「あはは。ううん、違うよ。明日香お姉ちゃんにね、コツを教えてもらったら、なんかすごく上達した気になるんだ。まだまだなんだけど。でも、それを思い出したら、嬉しくなって」

「ふぅん…。なんか、走り回ってたようにしか見えなかったけど…」

「全然違うよ。…全然知らなかった。あんなに楽に走る方法があるなんて」

「お父さんとかお母さんには教わらなかったの?」

「えっ…。む、無理だよ、お父さんとお母さんには…」

「なんで?」

「…雪葉」

「え?何?」

「………」

「那由多」

「うん…」

「…そうか。では、雪葉。お前に、ちゃんと話しておこうと思う。契約してからの方がいいと思ったのだが…ちょうどいい機会だ」

「うん…」


今までとは雰囲気が変わる。

何か、真剣な話なんだと思うけど。

明日香も、いつの間にかこっちに向いて座っていて。


「…那由多は孤児だ。カタラの集落のひとつで育てている。私の集落ではないのだがな」

「孤児?」

「そうだ。…棄てられたのだよ、親に」

「えっ…。棄て子ってこと…?」

「そのようなものだ。私たちカタラは、そういう子たちを保護し、育てる活動を行っている。…そして、ある日、集落の前に棄てられていた赤子が、那由多だったというわけだ」

「そんな…」

「………」

「他にも狼の孤児はいるにはいるが、みんな、同じ孤児なのでな…。教えるべき親もおらずに育ったために、本来教わるべきことを教わることもなく、今まで来た」

「違うもん、それは!」


那由多が、疲れているだろうに、身体を起こして声を張り上げる。

明日香がすぐに抑えたけど、那由多は興奮しているみたいで。


「ボクは、いっぱい教わってきた…。村のみんなに…家族のみんなに…。生みの親は知らないけど、育ての親…お父さんもお母さんもいるもん…。何も教わってないことなんてない…。いっぱい、いっぱい、教えてもらったんだもん…」

「………」

「だから、そんな言い方はしないで…」

「…すまなかったな」

「なんで、謝るのよ…」

「………」

「ふん。同じじゃないか、私たちも」

「えっ…?」


ずっと黙っていた凛が、話し始める。

しっかりとした目で、那由多を見つめて。


「私たちだって孤児だ。私は、戦で親が死んだらしいが。でも、同じだ」

「凛…?」

「なゆた。なんで、そんなに哀しい目をするんだ?村のみんなに、家族のみんなに、いっぱい、いっぱい教えてもらったんだったら、それでいいじゃないか。私だって、ゆきねぇにも、いっとうにも、りゅーまにも、他のみんなにだって、たくさんのことを教わった。親…生みの親にしか教えてもらえないことだって、もしかしたらあるかもしれないけど、でも、私には、そんなの必要なかった。みんなに教えてもらった、大切なことがいっぱいあるから。なゆたも、そうなんじゃないのか?」

「うん…」

「じゃあ、そんな顔をするな。親がいないことなんて、ちっちゃいことじゃないか。私たちには、私たちにしか分からないことが、たくさんあるんだ。他の誰にも分からないそれを、素直に喜ぶんだ」

「…うん。分かった」


頷くと、那由多の表情が穏やかになって。

落ち着いたみたい。

明日香も、またいつの間にか、川の方に向かって座っていた。


「ふん。まったく、手間の掛かる狼だ」

「ご、ごめんなさい…」

「ふふふ。凛ってば、いい格好しいだもんね」

「どういう意味だ、ゆきねぇ」

「どういう意味かなぁ」

「………」

「…でも、格好よかったよ、凛」

「う…むぅ…」


雪葉に撫でられて、少し照れてるみたい。

ほっぺたを赤くして、そっぽを向いてしまう。

…でも、格好よかったのは本当だから。

自分たちにしか分からないこと。

それを知ってることを、素直に喜べばいい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ