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明日香は四つ足を踏ん張ると、あとを追い掛けてきた那由多をギリギリでかわして、後ろ向きに宙返りをする。

回転も加えて、那由多に尻尾を見せるように着地、そして、また広場の真ん中へ戻って。

息も切れ切れの那由多と違って、明日香の悠々としたその姿は、とても格好よかった。

動いてる量も、那由多よりずっと多いはずなのに。


「………」

「ウゥ…。フゥ、フゥ…」

「………」

「ゥオン…!」

「あーあ。結局、あの二人で楽しんでるね」

「那由多はおいかけっこをして、お前はゆっくりする。当初の希望を同時に叶えられてよかったではないか」

「そうだけどさぁ…」

「それに、お前ではあの動きについてはいけまい?」

「そうだけどさぁ…」

(すっごいね、明日香お姉ちゃん!)

「すごいよねー。それで、七宝はさ、参加したくないの?」

(えっ?うーん…。向こうに行っても、ついていけないもん…)

「まあ、そうだよねー…」

(でも、格好いいなぁ。術式も使わないで、あんなに強いなんて!)

「七宝、術式使えるの?」

(えっ?えっと…。まだ練習中…かな。転移とかは使えるよ。なかなか安定しないけど…)

「へぇ。転移かぁ。便利って聞くけどね。私は、お兄ちゃんに教えてもらった変化くらいしか使えないんだけど…」

(あっ、変化はね、琥珀がすっごく上手なんだ!)

「琥珀?誰、それ」

(ボクの友達!)

「自分と契約してる聖獣の一人なんだぞ」

「ふぅん。…なんかさ、ルウェっていろんな聖獣と契約してるんだね」

(そうだよ!)

「多くの聖獣と契約出来るほど器の大きい者など、そうはいない。出来ても二人が限度だ。それに、七宝のような、まだ小さな力しか持たない者と複数契約というのはよくある話だが、薫のような力の強大な者と契約して、まだ余りある器を持つ者など、私の長い人生の中でもあと一人しか知らない」

「薫って、そんなすごい聖獣だったの?」

「すごいどころではないぞ。私たち聖獣の中でも最も強い力を持つと言われるのが、長老の一人である迅だ」

「ジン?名前?種族?」

「名前だ。疾風迅雷の迅。種族はクノ。見た目は獅子だな」

「ふぅん…。それで、その迅さんがどうかしたの?」

(クノさまはすっごいんだよ!滅多に"星降る夜"から出てこないんだけど…)

「薫は、その最も強大な長老の補佐役を務めている。つまり、薫も尋常でない力の持ち主、というわけだ。普通の者では、器に収まりきらずに、契約すら出来ないだろう」

「ふぅん…。薫って、そんなにすごかったんだ…」

「えぇ…。ルウェがそれを言っちゃう?」

「えっ?なんで?」

「うむ…。まあ、よいではないか」

「いいけどさぁ」


そう言いながら、広場の方に目を戻す。

広場では、まだおいかけっこが続いてて。


「はぁ、はぁ…」

「………」

「うぅ…」

「あ、倒れた」

「倒れたね」

(倒れた)

「………」


パタリと倒れた那由多は、そのままぐったりしている。

真っ先に、一番近い明日香が様子を見に行って。

自分たちも木から降りて、二人のところに行く。


「ふむ…。疲労と身体の過熱だろうな」

「………」

「どうすればいいの?」

「そこの川に連れていって、少しずつ身体を冷やしてやるといい」

「あ、じゃあ、私が連れていくね」

「うむ」

「よいしょっ…と。あぁ、結構熱持ってるね。あと、結構重い…」

「那由多も、まだ成長期であるからな」

「ふぅん…。そうだったんだ…」


雪葉はそのまま、那由多を抱えて川の方に向かう。

自分たちも、それについていって。


「はぁ、重たい…」

「ご苦労であったな。では、少しずつ身体を冷やして、那由多が気が付いたら、少し水を含ませてやるといい」

「はいはい。…あ、そうだ」

「む?」

「お昼、どうする?ここで食べる?」

「自分は、雪葉に任せるんだぞ」

「私も、どこでも構わない」

(ボクも!)

「………」

「そう?じゃあ、ここでのんびり食べよっか。…それでさ、ルウェ。作ってくるからさ、那由多、頼んでもいいかな?」

「うん。いいよ」

「ついでに、那由多に消化のよいものを作ってやるとよい」

「そうなんだけどさ。私、まだ、那由多に何を食べさせていいか分からないから、銀太郎、教えてくれない?」

「それは構わないが…」

「一人で大丈夫だよね、ルウェ」

「うん。銀太郎がいても、何が出来るか分かんないし」

「うっ…。それは確かにそうであるが…」

「さっき言ってた通りでいいんでしょ?ごはん、楽しみにしてるから」

「うん、ごめんね。ありがと。じゃあ、行ってくるね」

「行ってらっしゃい」


そして、雪葉と銀太郎は街に帰っていった。

…見送りはそこそこにして、早速那由多の身体を冷やし始める。


(那由多お姉ちゃん、無理しすぎだよ…)

「楽しかったんじゃないかな、明日香とおいかけっこするのが」

(そうなのかな?)

「………」

「そうだと思うんだぞ」

(うん。そうだといいね)


顔や身体に水を掛けていると、自分もビショビショになってしまって。

でも、それでも、もう少し水を掛けていると、那由多は気が付いたみたいだった。


「うぅ…」

「あ、気付いた?」

「冷たい…」

(気付いたよ、ルウェ!)

「うん。那由多、大丈夫?」

「あ、あれ…?」

「水、飲んで」

「水…」


那由多は川まで這い寄ると、ガブガブと水を飲んで。

ある程度飲むと、また横になる。


「はぁ、はぁ…」

「大丈夫?」

(大丈夫?)

「明日香お姉ちゃん、すごいんだもん…。全然疲れないし…」

(すごかったよね!)

「…地形に合わせて長く走るコツ、逃げるコツ、追い掛けるコツ。なんでも、上手くやる方法というのがあるの。那由多は、それを知らないだけ」

「えぇ…。でも…」

「また教えてあげるよ。七宝とルウェにも、ね」

(やった!ねぇ、ルウェ!明日香お姉ちゃんが、いろんなコツを教えてくれるって!)

「うん。聞いてたんだぞ」

(えっ?あれ?そうなの?)

「うん」

(そっか。嬉しいね!)

「嬉しいね」

「………」


明日香が自分にも分かるように喋ってくれてるのは、なんだか、みんなには秘密みたい。

まあ、いつでも本当の狼みたいにしか話さないから、分からないときがほとんどだけど。

…明日香の方を見ると、また首を傾げて、尻尾をパタリと振った。

あれって、内緒だよって意味なのかな。

ホントに、明日香ってよく分からないんだぞ。

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