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寝転がって、空を見る。
ちょっと、薄く雲が掛かってて、太陽の光もやんわりとしていて。
「見ろ、あれ。なんだ、あれは」
「カイトなんだぞ」
「カイト?なんだ、それは」
「聖獣だよ」
「何がキラキラしてるんだ?」
「火の粉じゃないかな」
「燃えてるのか、あいつは」
「燃えてるのかな」
「燃えてるなら、火の鳥だな…」
「そうだね」
様子を見にきてくれたのかな。
しばらくゆっくりと空を回ると、またどこかに飛んでいった。
「あ」
「え?」
「鳥の羽根だ。落ちてくる」
「カイトの?」
「分からない」
凛は、落ちてきた羽根を掴んで、それをじっくり見ている。
羽根は橙色をしていて、角度を変えると、色も微妙に変わった。
「不思議な羽根だな」
「そうだね」
「でも、燃えてない」
「うん」
「…私が貰ってもいいか?」
「うん。凛が取ったんだもん。凛の羽根だよ」
「そうか。ありがとな」
凛は、クルクルと羽根を回して。
すると、火の粉が散った。
…絶対、カイトの羽根なんだぞ。
火の粉は、凛が回してる間はずっと散っていた。
「…なぁ、ルウェ」
「何?」
「今、楽しいか?」
「どういうこと?」
「何もしないで、こうやってぼんやりしてるのは楽しいか?」
「楽しいよ。凛は楽しくないの?」
「楽しくないかどうかは分からんが、暇だ」
「まあ、そりゃ暇だけど」
「こんなことをしてていいのか?時間が、あとどれだけ残ってるかも分からないのに…」
「んー…。自分は、残ってる時間がどうこうじゃなくて、凛といる、今この時間が大切だと思うから。だから、こうやって二人でぼんやり空を眺めてるのも楽しいし、別に無駄な時間とも思わないんだぞ」
「うーん…」
「じゃあ、街に戻る?」
「街に戻って何があるんだ?」
「蓮華とか、いるかもしれないよ」
「イヤだ、それは」
「えぇ…」
「蓮華は五月蝿い。喋りまくるやつは苦手だ」
「嫌いではないんでしょ?」
「んー…。うん…」
「顔、赤いんだぞ」
「うっさい…」
「あはは。じゃあ、薫はどう?」
「あいつは話が退屈だ」
「そうだね」
「否定しないんだな」
「本当の話だもん」
「まあ、そうだな」
「この話聞いたら、薫、ガッカリするだろうけど」
「そうだろうな」
「もしかしたら、聞いてるかもしれないけどね」
「あいつは、どこに出てくるのかよく分からん。いつの間にかいる。蓮華みたいに、電気バチバチとかなら分かるのに」
「薫は、変なところで気を遣うから」
「んー…」
「まあ、真面目だからね」
「うん、そうだな。…それで、あのチビっこいのは何だったんだ?」
「チビっこいの?」
「来てただろ、昨日」
「悠奈のこと?」
「たぶんそうだ」
「悠奈も、聖獣なんだぞ。リュウも昨日言ってたけど」
「ん?そうだったか?」
「えぇ…」
「ん、あぁ、そうだったな。思い出した」
「うん。まあ、聖獣で、でも、まだ子供だから」
「そうか」
「会いたい?」
「いや、いい。あいつも五月蝿そうだ」
「凛は、五月蝿いのは嫌いなの?」
「嫌いではない。苦手なんだ」
「ふぅん…」
「全然違うんだからな、嫌いと苦手は」
「分かってるよ」
「そうか。ならいい」
「でも、なんで苦手なの?」
「私は話をするのは好きだけど、聞くのは嫌いだからだ」
「ふぅん…」
「あ、今、我儘だと思っただろ」
「別に思ってないよ。でも、そう言われてみたら、そうかもしれないんだぞ。自分の話は聞いてほしいのに、他の人の話は聞きたくないなんて」
「うっ…。言わなければよかったな…」
「あはは。まあ、凛らしいと思うよ、たぶん」
「なんだ。私が我儘みたいな言い方だな」
「そんなことないよ」
「うぅ…」
凛は、ちょっと拗ねて、背中を向けてきて。
…でも、自分と話してるときは、ちゃんと聞いてくれるよね。
口ではああ言ってるけど、本当はちゃんと聞けるんだよ、凛は。
たぶん。
「ゆきねぇにいつも怒られる。人の話を聞きなさいって。でも、長々した話なんて、聞いてられないだろ?ゆきねぇの説教もそうだけど。何なんだろうな、あれは。長い話なんて、退屈で退屈で仕方がない」
「あはは…。まあ、何か興味を持てることを探せたら、何かの切っ掛けになって、世界が広がっていくかもしれないよ」
「んー…。興味を持てることか…。何かあるかな…」
「なんでもいいんだよ」
「じゃあ、旅だ。ルウェたちの旅に興味がある」
「そうなの?」
「今考えたが、たぶんそうだと思う」
「ふぅん…」
「しかし、ゆきねぇの説教なんかに、旅の話なんて出てこないぞ」
「それは分からないでしょ?これから出てくるかもしれないし、出てこないかもしれない」
「なんだそりゃ。じゃあ、聞く意味なんてないじゃないか」
「そんなことないでしょ?いつ出てくるか分からないじゃない。だから、話をしっかり聞いて、旅の話が出てきたところで、またその話をしたらいいんだぞ。いつ出てくるか分からないから、話もしっかり聞ける…と思う」
「なんだ、そりゃ。…まあ、面白そうではあるな。しかし、足に履く足袋の話だったらどうするんだ?間違えたら、ちょっと恥ずかしいぞ」
「たぶん間違うことはないと思うよ…」
「そんなの、分からないじゃないか」
「うーん…」
凛って、変なところで頑固だよね。
まあ、それも凛の特徴と言えば特徴かもしれないけど。
…そんな話をしながら、時間はのんびりと過ぎていった。




