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凛の提案で、自分と凛の二人で少し街に出る。

この街に来て何回も歩いたこの通りは、いつでも人はまばらで、ルイカミナやヤマトの大通りとは全然違った。


「…なぁ、ルウェ」

「ん?何?」

「………」

「………」


こんな調子で、話は進まない。

何か言いたいことがあるのかな。

分かんないけど。


「…ルウェさま」

「あ、薫。どうしたの?」

「…いえ。すみません。お邪魔しましたね」

「ううん、別に。ね、凛?」

「………」


何も言わずに、コクリと頷いただけで。

でも、薫は、ちょっと窺うように凛を見て。


「いえ。本当に、大したことではないので。ただ、悠奈がちゃんと提案を伝えられたかが気になりまして。…どうでしたか?」

「えっ?うーん…。なんか、度忘れしちゃったみたいで、みんなに聞いてくるって言ったまま、まだ帰ってきてないんだぞ」

「はぁ…。やはりそうですか…。私が家に帰りましたら、七宝や琥珀と一緒に昼寝をしていたのです。度忘れしたのを聞きに行って、話してるうちに眠たくなったんでしょう。本当に、困った子ですね…」

「いつも通りなんだぞ」

「まあ、それもそうですが…」

「あんまり怒ってあげないで」

「いえ。怒るつもりなんてありませんよ。ただ、ちょっとお説教が必要だなと思いまして」

「…どう違うの?」

「怒るというのは、不快感や嫌悪感を露にすることで、心理的に相手を追い詰めることを言います。まあ、これは私の解釈ですが。心理的な威圧や圧迫的な態度によって、してはならないことを、相手に印象付けます。次に、お説教というのは、言葉によって相手に言い聞かせることを言います。論理的に相手を説くことで、納得させた上で正しい振る舞いを教え込みます。感情的な怒りに対して、論理的なお説教。怒ると、相手も刺激して怒りを伝染させ、逆効果となることもあります。しかし、言葉がまだ分からない幼児や、強く印象付けたいときには、効果を発揮します。そして、お説教は、冷静に相手を説くので、喧嘩に発展することは、なかなかありません。しかし、長くなりすぎると相手もほとんど聞いてませんし、言葉を選ばないとただ相手を傷付けるだけになります。ということで、使い方は難しいですが、納得させることが出来れば効果は高いです。まあ、誰かを怒ったり、お説教したりというのは、なかなかに難しいことなんですよ」

「ふぅん…」


お説教は長くなっちゃいけないけど、説明は長くなっていいのかな。

薫が説明好きなのは知ってるけど…。


「あっ、す、すみません…。つい、長々と喋ってしまいまして…」

「うん。本当に」

「すみません…。では、私は帰ります」

「うん」

「………」

「どうしたの?」

「…いえ。では、また」


そして、薫は音もなく消えていって。

…何を言おうとしたのかな。

ちょっと気になるけど。


「…ルウェ」

「ん?何?」

「薫とは長いのか?」

「んー。まあまあかな。一番最初に契約したのは悠奈なんだけど」

「ふぅん…」

「その次が七宝で、次が薫。それから琥珀で、最後に愛」

「いっぱいいるんだな」

「そうだね」

「………」

「凛は、寂しい?」

「寂しい…」

「そっか」

「でも、リュウは言ってた。それでいいのかって」

「うん」

「私は、いつも考えすぎるんだ」

「考えることはいいことなんだぞ」

「でも、ずっと考えて、余計なことまで考えて、今回のこれみたいになってしまう…。それは、いいことなのか?」

「いろんなことを考えるのは、悪いことじゃない。でも、嫌なことばっかり考えて、塞ぎ込むのは悪いだと思うんだぞ」

「うん…」

「それで、ずっと考えてて、どう思ったの?」

「…私は、自分の寂しいことしか考えてなかった。周りが見えてなかったんだ。それで、塞ぎ込んで、それがみんなも寂しがらせてるなんて思ってなかった。でも、リュウに言われてやっと分かった」

「うん」

「…ごめん、ルウェ。出発まで、もうほとんど時間は残ってないかもしれないのに、一日くらい無駄にしてしまった」

「それはいいんだぞ、別に。凛が気付いてくれたんだったら」

「過ぎた時間は返ってこないんだ…。みんなとの大切な時間を、無駄に過ごしてしまった…」

「無駄じゃないよ。凛は、それで前に進んだんでしょ?全然無駄じゃないよ」

「………」

「後悔したって仕方ないんだよ。そりゃ、反省はするべきだけど。凛が言った通り、過ぎた時間は返ってこない。でも、それで後ろを向いてたって、何にもならないんだよ。また時間を無駄にするだけ」

「…そうだな」

「ね。だから、もう過ぎた時間のことは考えないで」

「…うん。分かった」


それから、凛はニッコリと笑って。

…やっと見れたんだぞ。

ずっと、待ってた。


「それにしても、ルウェはすごいな。リュウみたいだ」

「リュウはホントにすごいと思うけど、今の自分が言ったことって、自分が姉さまに言われたことのそのままだから。だから、全然すごくないんだぞ」

「そうか?でも、私にとっては、ルウェの言葉だから」

「うーん…。いまいち複雑なんだぞ…」

「まあ、いいじゃないか。それより、姉さまって誰だ?」

「姉さまは姉さまなんだぞ。誰って言われても、上手く説明出来ないけど…」

「なんだ?なんでだ?」

「んー…。じゃあ、雪葉って、凛にとっての何?」

「えっ?うーん…。お姉ちゃん…でもあるし、友達…でもあるし、んー…。説明しにくい」

「それと一緒だよ」

「なるほどな…。まあ、大切な人ってことだな」

「うん。そうだね」


それが、たぶん一番ピッタリ。

言葉では説明しにくいけど。


「そうだ、ルウェ」

「ん?」

「知り合いのおっちゃんがやってる、美味しい甘味処があるんだ。怪我してからは、持ってきてもらうばっかりだったからな。一緒に行ってみよう」

「うん。どこにあるの?」

「次の角を、右に曲がってくれ」

「うん。分かった」


それから、凛の指示通りに、甘味処まで行く。

凛の好きな甘味って、どんななんだろ。

楽しみなんだぞ。

…それに、よかった。

ちゃんと、元気になってくれたみたいだから。

あとでまた、みんなに報せておかないとね。

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