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「うふふ。凛、洗ってあげよっか?」

「んなぁ!自分で洗える!やめろ!」

「そう?残念」

「まったく…。油断も隙もないやつだ…」

「えー、いいじゃん。女の子同士なんだし」

「さ、触るな!」


望の手から逃れようと、バタバタと暴れる凛。

でも望は、しっかりと抱き締めて離さない。

…三人で入る宿屋のお風呂は、やっぱりちょっと狭かった。

二人が身体を洗ってるから、自分は湯船に浸かって待機。


「暑苦しい!離せ!」

「えぇ~。凛、可愛いから離したくない~」

「うぅーっ!」

「可愛い可愛い。ナデナデしてあげるね~」

「やーめーろー!」


なんか楽しそう。

でも、あんまり遅くなったら、あとのみんなも遅くなるんだけど…。


「ゴシゴシ」

「やめっ!やめろ!」

「はぁ~。スベスベで綺麗な肌してるね~。日焼けもあんまりしてないし」

「うあぁ!」

「尻尾もツヤツヤだね。お手入れとかしてるの?」

「してないから離せ!」

「してないのに綺麗なのかぁ。いいなぁ。私なんて、旅の途中ではなかなか手入れも出来ないから、傷むばっかりだよ。羨ましいなぁ」

「し、尻尾に触るな!」

「触られるの、嫌い?」

「き、嫌い…じゃないけど…」

「じゃあ、いいよね」

「よくない!」

「スラッと細いんだよね、猫の尻尾って。私のなんて、なんかズングリムックリしてて、ヤなかんじなんだ」

「そ、そんなことないと思う…」

「えっ?」

「のぞみの尻尾は、温かそうだ…」

「えへへ、そうかなぁ。そう言ってもらえると嬉しいよ」

「うむ…」

「でも、いいなぁ。凛の尻尾、ホントに絹みたい」

「は、離せ!」


凛はちょっと抵抗するけど、さっきよりは強くなかった。

なんか、二人でじゃれあってるかんじ。


「ねぇ、ルウェも一緒に洗いっこしようよ」

「えっ?」

「や、やめろ!」

「えぇ~。ちょっと狭いけど、絶対楽しいよ」

「楽しくない!」

「ほら、ここに来なよ」

「うん」


湯船から出て、望が空けてくれた場所に座る。

凛はまた暴れ出してたけど。

…うん。

やっぱり、たくさんで入るお風呂って、楽しいんだぞ。



パタパタと、団扇を扇ぐ音。

あと、顔を真っ赤にして寝転がってる凛。


「うぅ…」

「長風呂やったねぇ」

「うん。望と凛と、洗いっこしてた」

「へぇ~。楽しそうやな」

「た、楽しくない!」

「楽しくなかった?」

「うっ…。楽しくなくはなかったけど…」

「またやろうね」

「イヤだ!」

「えぇ…」

「うぅ…。ル、ルウェとだけならいいぞ…。のぞみはダメだ!」

「あはは。すっかり、ルウェとは仲良しさんやねぇ」

「う、うむ…」


凛の顔が、また赤くなった…ような気がした。

気のせいかな?


「ふぃ~。いいお湯だったの」

「あ、お帰りなさい」

「ただいまなの。凛はどう?」

「見ての通りやでぇ」

「あはは、真っ赤っかの茹でダコさんなの」

「う、うっさい!」

「うん。大声を出せるようなら、大丈夫なの」

「うぅ…」


リュウが凛の頭を撫でるけど、凛はあんまり嫌がらなかった。

望がそんなことをしたら、絶対怒るのに。

なんでなのかな。


「凛は、リュウの言うことやったら素直に聞くねぇ」

「うっさい…」

「力ないなぁ」

「うっさい!」

「あはは。おもろ」

「うぅ~…」


余計に体力を使ったのか、凛は唸るだけだった。

そして、リュウに撫でられるままに。


「しかし、洗いっこで逆上せるて、凛って恥ずかしがり屋さんやねんなぁ」

「ち、違う!」

「凛は、たぶん、望お姉ちゃんが好きだから、ちょっと照れてるの」

「そうなん?」

「のぞみなんて、好きじゃない!」

「ふふ、図星なの。凛は、望お姉ちゃんをお姉ちゃんとして見てるから、照れてるんだよ」

「どういうこと?」

「横並びの友達じゃなくて、歳上のお姉ちゃんとして見てるってこと」

「あぁ、なるほど」

「て、適当なことを言うな!」

「わたしは、友達だもんね。お風呂に入っても、照れないよね~」

「と、友達じゃない…。リュウは…」

「ありゃりゃ。友情にヒビが入ってもうた?」

「リュウはしんゆうだ!にゅいーつみゅにの!」

「…え?何ゆうたん、今?」

「………」


凛は、冷めてきた顔をまた真っ赤にして、そっぽを向いた。

何を言ったのかは分からなかったけど、たぶん凛にとってかなり恥ずかしいと思えることを言ったんだってのは分かった。


「なんてゆうたん、今?」

「唯一無二の親友だって言ってくれたの」

「へぇ~。そりゃまあ、友達とは違うわなぁ」

「えへへ、嬉しいな」

「せやなぁ。でも、なんでそんな仲ええん?」

「わたし、旅団天照にいた頃、この街に来たら絶対にここの孤児院に行ってたから。凛とは、ずっと前からの知り合いだったの」

「へぇ、そうなんや。わたしも、何回か遙さんのお供で孤児院には行ったことあるけど、知らんかったなぁ」

「遙お姉ちゃんは院長さんと話しに行ってるんだし、凛も部屋から出てこないから、会おうと思わなかったら、たぶん会えないと思うの」

「そうなんや…」

「まあ、これからゆっくり仲良くなればいいの。エルも、ルウェも。ね、凛?」

「………」


凛は顔を背けたまま、小さく頷いた。

やっぱり、こういうのは恥ずかしいみたい。

エルは、凛のそんな様子を見て、ニッコリ笑っていた。


「よろしゅうな、凛」

「よろしく、なんだぞ」

「………」

「照れてるの」

「照れてない!」

「あはは」


そう言う割には、こっちを向いた凛の顔は真っ赤だった。

…サンと同じくらいの友達になれそう。

今日、凛を最初に見たとき、そう思ったけど。

うん。

絶対にそうなる。

今は、そう、確信出来る。

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