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ゆっくりお茶菓子を食べる。

横には、焼いたおにぎりも添えてあって。


「美味しいやろ?」

「うん。お昼ごはんもくれたし」

「ふふ、せやなぁ」

「お昼からはどうするの?」

「ん?んー。ほんなら、さっきゆうてた川に行こか。桐華さんも誘て」

「うん」

「…あ、沢庵も美味し」

「そうだね」


黄色い沢庵を食べる。

歯応えもいいし、味もいいし。

姉さまが漬けた沢庵とはまた違う美味しさなんだぞ。


「あ、せや。桐華さんはどこにおるんかなぁ」

「え?知らないけど」

「んー、せやねんなぁ。桐華さんって、結構神出鬼没やさかい…」

「桐華さまなら、先程こちらにいらして、裏でお茶の選定をしていますよ」

「あ、そうなんですか?」

「はい」


さっきの店員さんがいつの間にかやってきてて、丁寧に答えてくれた。

桐華お姉ちゃんが裏にいるなら、話は早いんだぞ。


「お呼びいたしましょうか?」

「あの、選定はいつ頃終わるんでしょうか」

「そうですね…。いつものかんじでいきますと、そう時間は掛かりませんが…」

「ありゃ?ここにいたんだ、彩花」

「桐華さま。ちょうどいいところに」

「ありゃりゃ~?エルとルウェも来てたんだ」

「うん」「はい」

「この子たちが、桐華さまにお話があるそうですよ」

「ふぅん。何?」

「あ、あの…。一緒に、釣りに行きませんか?」

「ん。いいよ~。どうせ暇だったしね」

「ホ、ホントですか!」

「ホントホント。じゃあ、彩花。これ、よろしく頼んじゃっていいかな」

「畏まりました」

「ごめんだけど、代金は遙に貰って。手持ちがないんだ」

「はい。もういただいております」

「あれ?そうなんだ。さっすが遙だね」

「はい。では、桐華さま宛で宿に配達しておきます」

「よろしくね~」


サヤカさんは、桐華お姉ちゃんから何かを受け取って、丁寧にお辞儀をしてから、音もなく奥に戻っていった。

…不思議な人だなって。

なんかよく分からないけど、そんなことを考えていた。


「お昼ごはん?」

「はい。桐華さんも食べますか?」

「んー、ぼくはいいよ。宿を出る前に食べてきたし」

「そうですか…」

「あ、それ、何?」

「蜻蛉玉ですよ。さっき買ったんです」

「へぇ」

「えへへ。ルウェとお揃いなんですよ~」

「そうなんだ。でも、蜻蛉玉って同じものは二つとないから、似てはいても少し違う。お揃いでありながら、唯一無二の蜻蛉玉なんだよね」

「へぇ~。そうなんですか~」

「まあ、遙の受け売りだけどね~。ぼくも昔、遙とお揃いの蜻蛉玉を買ったんだ」

「えっ。じゃあ、今も持ってるんですか?」

「うん。まあ、なくさないように宝物入れに仕舞ってあるんだけど。遙は、御守りに入れて持ち歩いてるみたい」

「はぇ~。そうなんですかぁ。また見せてもらいたいですね」

「うん。見せてくれると思うよ。ぼくのも見せてあげるね」

「えへへ。桐華さんと遙さんの、秘密の蜻蛉玉かぁ」

「じゃあ、自分たちのも、秘密のトンボ玉なんだぞ」

「あ、せやねぇ。ふふふ。秘密の蜻蛉玉かぁ」

「ありゃ?エル?」

「はい。どうしました?」

「さっきの喋り方」

「あぁ。ルウェや望さんたちと喋るときは、もとの喋り方にすることにしたんです。みんな、その方がいいって言ってくれてますし」

「えぇ~。じゃあ、ぼくと話すときも、もとの話し方にしてよ~」

「えぇ…。いいんですか?」

「いいよいいよ、そんなの。むしろ、そっちの方がいいよ」

「そうですか…?ほんなら…」

「えへへ。いいね、なんか」

「うぅ…」


エルは、また恥ずかしそうにしていて。

慣れてきてたみたいだったのに、桐華お姉ちゃんにも使うことになったから、また恥ずかしくなったのかな。

まあ、また慣れてくるよね。


「これ、今日のオススメ?」

「はい」

「煎茶だね。煎茶、好きだっけ?」

「はい、いちおうは」

「そっかぁ。彩花!」

「はい。いかがされましたか?」

「さっきの荷物にさ、オススメの煎茶も入れといて」

「はい。もう梱包済みでございます」

「あぁ、そうなんだ。…って、えぇっ!」

「どうされましたか?」

「なんで、もう梱包してあるの?今頼んだのに!」

「桐華さまが、この子たちの飲んでいるお茶のことを聞いて、それが好きなのだという答えが返ってくれば、そのお茶も注文するということは容易に想像出来ます。まあ、今回の場合、一番難しいのは、この子たちがこのお茶を好きかどうかということですが、エルちゃんはお品書きを見ることもなく、このお茶を選んでいました。好きなお茶がない、あるいは、新しい味に挑戦するといったときはお品書きを見て多少は迷うはずですし、そういったこともなかったので、このお茶が好きなのだと判断しました」

「ほぇ…。なんかよく分からないけど…。相変わらず、すごいね」

「恐れ入ります」

「ん。まあ、分かった。包んでくれてるならいいや。ありがと」

「はい。では」


そして、また音もなく奥へ戻っていって。

…やっぱり、不思議な人なんだぞ。


「いやぁ、ビックリしたねぇ」

「はい。彩花さん、あんなに滑らかに喋ることもあるんですねぇ」

「ぼくは何回か見てきたんだけどね」

「へぇ、そうなんですかぁ?」

「うん」

「でも、それなのにビックリしたの?」

「うっ…。いいじゃんいいじゃん。彩花がペラペラ喋り出すときがいつかなんて、なかなか分からないんだよ…」

「ふぅん」

「うぅ…。ルウェって意外と、言及が厳しいよね…」

「桐華さま。あまり他人に責任を擦り付けるのはどうかと思いますが」

「わっ!ビックリした!い、いきなり後ろに立たないでよ…」

「いえ。ただ普通に奥から出てきただけですが」

「もう…」

「荷物の準備が出来ましたので、配達に行ってまいります。みなさんが、それを食べ終わる頃には戻ってきますので、どうかごゆるりと」

「はいはい…」

「桐華さま。私が留守の間、お店番、よろしくお願いします」

「分かったよ…」

「では、行ってまいります」

「行ってらっしゃい…」


そして、サヤカさんは、また音もなく店から出ていって。

…んー。

やっぱり、不思議な人なんだぞ。

不思議な人。

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