272
「それにしても、意外とあっさりだったよね、サン」
「えっ?うん。…意外?」
「だってさ、ユタナんときだって、あんなに寂しがってたのに」
「絶対に笑顔で送り出すって決めてたんでしょ?そう言ってたし。今回だって、寂しかったはずだよ。でも、サンは芯の強い子だから」
「うん。だから、全然意外じゃないんだぞ」
「…そっか。なぁんだ。サンを信じてなかったのは、もしかして私だけ?」
「信じてなかったの?」
「ん?いやぁ…やっぱり信じてたかな」
「えぇ、どっち?」
「信じてた!じゃあ、信じてた!」
「じゃあって何よ、じゃあって」
「もう!赦して!」
「あはは。赦してほしいなら、サンに謝ってきたら?」
「もう無理だよ!」
「あちゃあ、そりゃ残念」
「もう!」
なんかナナヤ、いいようにあしらわれてるんだぞ。
…まあ、切っ掛けを作ったのもナナヤだけど。
「しっかし、何か起こらないかなぁ」
「何も起こらんのが一番や。面倒事はもう充分」
「でもさ、せっかく旅に出てるんだから、冒険のひとつやふたつくらい、やりたいじゃない」
「やりとぉないわ。お前だけでやっとれ」
「つれないなぁ。旅と言えば冒険!これ、鉄則ね」
「小説の読みすぎや、アホ」
「えぇ…」
「読まないよりはマシでしょ」
「あぁ?オレはしっかり読んどるぞ」
「何を?」
「本や、本!何言い出すねん、ビックリするわ…」
「えぇ~。何を読んだの?」
「いろいろ」
「いろいろって…怪しいなぁ…」
「ふん。お前らの知らん題挙げても、どうせ疑うだけやろ」
「当たり前じゃない」
「そんなやつらにゆうても、なんの証明にもならんやん」
「まあ、そうなのかな」
「余計な体力は使わん主義でな。無駄やと分かってるのに、そんなこと言わんわ」
「えぇ~。何か知ってるかもしれないじゃない」
「ふん。まあ、学のないやつと思われても一向に構わんし」
「なぁんだ、つまんないの」
望はそう言って口を尖らせて。
…お兄ちゃん、どんな本を読んでるのかな。
姉さまとどっちが多く読んでるんだろ。
姉さまも、たくさん読んでるし。
二人で話をしたら、たぶん面白いんだぞ。
「はぁ…。なんにせよ、面白いこと、起きないかなぁ」
「起きやんでよろしい」
「あ。あそこ」
「えっ?」
「何かいるの」
「はぁ?お前、ナナヤ、呼び寄せんなよ」
「呼び寄せてなんかないよ。向こうから勝手にやってきたんでしょ?」
「いや、喧嘩してる場合じゃないでしょ…」
「何なのかな、あれ」
「ちょっと見てくるの」
「あ、自分も」
「二人とも!危ないから!」
「あーあ、聞いてないよ」
リュウと二人で、それに近付いていく。
近付くにつれて分かってくること。
白に黒の縞模様。
毛皮っぽい。
というか、動物っぽい。
そして、その動物っぽい何かのところに到着。
「虎…かな」
「そうだね」
「なんでこんなところにいるのかな」
「うーん…。分かんないの…」
「うん…」
「おーい、二人とも。どうだった?」
「なんか、虎っぽいの」
「虎?なんでこんなところにいるの?」
「あれじゃないの、もしかして。聖獣」
「あー…。その可能性は大いにありやな…」
「でも、なんでこんなところで行き倒れてるの?」
「知らんがな…」
「ねぇねぇ、属性は何なのかな」
「はぁ?んー…。雷…かな、この色は。しかし、なんや、その希望に満ち満ちた目は…」
「雷?ホント?やった!だけど、なんで分かったの?」
「聖獣の目や。お前は知らんかもしれんけど、オレら斡旋者は聖獣と契約出来んでも、聖獣の目ゆうて、各人の属性の色を見分ける聖獣の力を借りることが出来る。それで、こいつの色を見ただけや。あとな、こいつとお前の属性が適合するからゆうて、こいつと契約出来るかは分からんぞ。こいつが誰かと契約してても無理やし、お前がよくてもこいつが拒否したら契約出来んし。てか、お前、雷斗と契約したんやろ?」
「そうだけどさぁ」
「はぁ…。お前の器がどれくらいあるかは知らんけどな、聖獣二人以上と契約するんは、なかなか難しいぞ?」
「大丈夫大丈夫。なんとかなるって」
「お前のその自信がどっから湧いてくるんかが、一番の疑問やわ…」
「いやぁ、それほどでもぉ」
「褒めてへんわ」
「それより、なんでここに倒れてるのか聞くのが先だと思うの」
「これ、聞けるの?」
「死んでるんとちゃう?」
「もう!縁起でもないこと言わないの!」
「へいへい。まあ、しかし、誰か呼んできた方がええんとちゃう?少なくともオレは、聖獣の病気とかその辺は知らんで」
「そうだね。知ってても、お兄ちゃんに診てもらうことはないけど。やっぱりカイトかな?」
「呼ぶ必要はない。ここにいる」
「あ、カイト。聞いてた?」
「ああ。どれ。少し見せてみろ」
「この子だよ」
「ふむ…」
カイトは、ぐったりとしてる白虎をひっくり返したりして、いろいろ見てるみたいだった。
それから、しばらくして、何か考えるように目を瞑って。
「ふむ…。どうやら、存在する力が足りていないらしい。契約をしている様子もないし、ここには雷の龍脈もないしな。どうして、ここにいるのかが不思議なくらいだ」
「えっ。じゃあ、どうしたら…」
「とりあえず、元の世界に返してやるのが一番手っ取り早いだろう。私が連れて帰ろうと思うが、異議はないな?」
「はい!はい!」
「なんだ、ナナヤ」
「私が契約してあげたいです!」
「それは無理だ。契約には、こいつの準備も必要だろう?」
「あ、そっか…」
「では、いいな?」
「うん…」
「回復したら、また報せる。そのときに、二人でどうするか決めればいい」
「はぁい…」
ナナヤが返事したのを確認すると、カイトは白虎と一緒に消えてしまって。
…何だったのかな、あの虎。
なんで、ここにいたんだろ。
うーん…。




