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「ふむ…。そういえば、あいつもそうだったな」
「あいつ?」
「吉野だよ。あいつも境界が弛かったらしく、事あるごとにいろんな世界に行ってたようだ」
「ふぅん…」
「でも、ルウェ、いきなりいなくなるんだもん。私、すっごく心配したんだからね」
「ご、ごめん…」
「サン。こういう類いのものは自分では制御出来ないものだ。このことについて、ルウェを責めたところで仕方あるまい」
「分かってるし、別に責めてなんか…」
「寂しかったんだよね、サンは」
「ち、違うよ!本当に、心配してただけなんだから!」
「はいはい。分かってる分かってる」
「もう!」
「…まあ、それは置いておこう。それでだ、ルウェ。今日はいつ発つんだ?」
「えっ?昼くらい…かな」
「なんだ。決まっていないのか?」
「んー…。聞いてないだけかな…」
「そうか。だが、それが今のところ一番大切なことだろうに。ほら、聞いてこい」
「…聞かなくていいよ」
「えっ?」
「だから、聞かなくていいって!」
「…サン。駄々こねちゃダメだよ。ルウェだって、ルウェの予定があるんだからさ」
「だって、だって、せっかく友達になれたのに!お祭りも、月人も、一緒にやって、すっごく楽しかったのに!」
「サン…」
「ヤだもん…。ルウェ、旅なんかやめて、ずっとこの村にいればいいんだよ…。そしたら、こんな寂しい思いなんてしなくていいんだよ…」
「サン。聞き分けのないことを言うな」
「ハクだって!シフだって!ルウェがいなくなったら寂しいでしょ?寂しいよね?」
「………」
「…私はどうだろうな。お前たちより遥かに長い時間を生きている。出逢いも別れも、お前たちの何倍も経験している。そういう意味では、それらにも鈍感になってるかもしれんな」
「………。もう知らないよ…。もう知らない!」
そのまま、サンはどこかへ飛んでいってしまって。
サン…。
「ハク。行ってやれ」
「えっ…。でも…」
「今は、ルウェと少し距離をおいた方がいいだろう。まずはお前が行って、宥めてやるんだ」
「は、はい…。分かりました…」
ハクは、シフに言われた通りに駆けていって。
どこに行くのかな。
ハクはサンと契約してるから分かるけど、自分はついていかないと分からないし…。
だけど、まあ、圭太郎の家かな。
一番近いし…。
「それでルウェは、その間に今日の日程を聞いてこい」
「………」
「…サンにはちゃんと言い聞かせてから、お前の下へ向かわせる。すまないな、最後まで迷惑を掛けてしまって」
「ううん…。でも、自分もサンと話がしたいんだぞ…」
「ああ。分かってる。だが、今はそのときではないと、私は思う」
「…そうなのかな」
「どう思うかは人それぞれだ。しかし、心が落ち着かない今、その動揺のもとであるお前と、また接触するのは得策ではないと思うのだがな」
「………」
「すまないな、最後の最後に。お前も悩んでるだろうに」
「ううん…。じゃあ、分かった…。望に聞いてくる…」
「………」
シフに手を振ってから、拝殿の階段を降りて、道を村へと戻っていく。
…ちょっと、納得がいかないけど。
でも、シフがそう言うんだったら仕方ないのかな…。
「よぅ、どうした。浮かない顔だな。…サンか?」
「うん…」
「すまないな。あいつ、どうせまた癇癪を起こしたんだろ?」
「カンシャク…?」
「駄々をこねて、また俺の家に行ったりしてるんだろ?」
「そう…だと思う…」
「俺がちゃんと言い聞かせておくから。お前は、行くところがあるんだろ?」
「えっと…。望に今日の予定を聞いてこいって…」
「…どうせ、シフに言われたんだろ?今は、会うべきじゃないとか言ってさ」
「分かるの?」
「分かるよ。あいつとの付き合いも長いからな。まあ、サンと話をしたいのも分かるけど、シフの言うことはだいたい合ってるから。伊達に長生きしてないみたいだしな。とりあえずは従っておいた方がいいと思うぞ」
「そうなのかな…」
「たまに間違ってるときもあるけどな。そこはご愛嬌だ。でも、今日はお前たちが出発する日だろ?サンはどうせ、ずっとここにいてほしいとかゴネてるんだろ」
「うん…」
「はぁ…。本当にあいつは…。しかしまあ、それだったら、俺もやっぱり落ち着くまで会わない方がいいと思うぞ」
「そうかな…」
「ああ。心を乱す要因が近くにあれば、落ち着かないのは必至だからな。まあ、そうじゃないときもあるが、今回はそういうものじゃないと思う」
「………」
「…迷惑掛けるな」
「ううん…」
「落ち着いたら家に帰すから。…それまで、出発せずに待っていてやってくれよ」
「…うん、分かってる。ありがと」
「いいってことよ。それに、礼を言うのはこっちだ」
「えっ、どういうこと?」
「いや。なんでもない」
そう言われると、ちょっと気になるけど…。
でも、圭太郎は軽く手を振ると、自分の家の方へ歩いていってしまった。
…まだ会わない方がいいって。
シフも、圭太郎も…。
それが正しいって、今は信じるしかないけど。
「………」
…でも、圭太郎はなんでここにいたのかな。
拝殿に向かう途中、みたいなかんじだったけど。
違うのかな。
まあ、とりあえず、そうとなったら、家に帰っとくしかないし。
サン…。
待ってるからね…。




