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でも、なんか変なかんじ。
小さい頃の葛葉と話してるみたいで。
だけど、楽しい。
「せいじゅうさんは、今はいないの?」
「うん。今はいないんだけど…」
「そっか…。ちょっとざんねんかな」
「うん…」
「よぅ。来てたのか」
「あっ、狼の姉さま!」
後ろを振り向くと、狼の姉さまが医療室の入口のところに立っていた。
少しだけニッコリと笑うと、こっちに歩いてきて。
「どうだ、調子は」
「まあまあかな」
「まあまあか。なるほどな」
「何が?」
「ん?いや、なんとなくな」
「ふぅん?」
「風華はどうした?」
「厨房に行くって言ってたんだぞ」
「厨房?もう昼か?」
「ここで食べるから、その準備をしてもらいにだって」
「そうか」
「今日は、もう、お仕事はおわったの?」
「ん?そうだな。葛葉のためだったら、仕事を休んでもいいかな」
「えぇー。ダメだよ、そんなの」
「そうか?」
「ちゃんと、お仕事しないと」
「そうだな。だけど、今日は議会もないし、仕事もないんだ。まったく、優秀な部下を持つと、これだからいけない」
「いつもそんなこと言って。お母さん、うれしいくせに」
「ははは。まあ、そうだな。葛葉には敵わないな」
「もう…」
「葛葉、今、狼の姉さまのこと、お母さんって」
「うん。それがどうしたの?」
「姉さまのことも、お母さんって呼んでたんだぞ」
「うん。だって、葛葉のお母さんだもん」
「そっか…」
「私が、葛葉の母親として相応しいどうかは分からないけどな」
「そんなこと、言わないでほしいかな…」
「ははは。すまないな。冗談だよ」
「じょうだんでも、イヤかな」
「そうヘソを曲げないでくれ。ほら、この前言ってたあれ。なんだったか。あれ、また買ってきてやるからさ」
「おぼえてないのに、どうやって買ってくるの?」
「んー、何だったかな」
「もう…。テヌカ・ヤムルでしょ?」
「あぁ、そうだったな。形は分かるんだけど」
「テヌカ・ヤムルって何?」
「何って、まあ…ぬいぐるみだな」
「ちがうよ!お守りだよ!」
「あー、そうだったか?」
「てきとうなんだから…」
「そういうことには疎いからな…」
「それくらい、ちゃんとおぼえといてよ!」
「はいはい…。すまなかったな…」
「ねぇ、どんなぬいぐるみなの?」
「あ、うん。かわいいんだよ。お母さん」
「ああ。ちょっと待ってろ」
狼の姉さまは立ち上がって、棚の方に向かっていく。
端の方からひとつひとつ見ていってるけど。
「たなには入ってないんだけどな…」
「言わなくていいの?」
「いいよ。どうせ、わざとだし」
「そうなの?」
「うん。それよりさ、ルロゥの話を聞かせてよ」
「えっ?」
「ルロゥのお祭りに行ってきたんでしょ?その話も聞かせてほしいな」
「あ…。うん…」
「お祭りって、どんなことするの?」
「えっと、月人っていうのがいて、月に祈りを捧げるんだ。あ、月っていうのは、ルロゥの神社の神さまなんだけど」
「へぇ」
「自分、月人になって、サンと一緒に祈りを捧げたんだぞ」
「そうなの?」
「うん」
「カッコいい~」
「えへへ、そうかな」
「うん!でも、いいなぁ。葛葉もやってみたい」
「んー。月人になるには、何かの占いで選ばれないといけないんだぞ」
「卜占だな。そら、取ってきたぞ」
狼の姉さまは、何かを葛葉に投げて寄越して。
葛葉はちゃんと受け止めたけど、キッと狼の姉さまを睨んで。
「グレンに何するの!」
「あぁ…。すまない、迂闊だったな」
「グレン?」
「この子の名前」
「ふぅん」
葛葉が見せてくれたのは、白い犬のようなぬいぐるみだった。
真っ直ぐにこっちを見ていて、なんか可愛い。
「ね、可愛いでしょ?」
「うん。グレンって男の子なの?」
「そうだよ。葛葉があぶないときは、たすけてくれるんだ。この子はゆうかんで、やさしい子だから。葛葉の大切なともだちだよ」
「へぇ。そうなんだ。…自分はルウェなんだぞ。よろしくね」
「よろしくって言ってるよ」
「そう?よかった」
「えへへ」
葛葉はグレンを膝の上に置いて。
それから、ゆっくりと頭を撫でる。
「あ、そうだ。それで?サンって誰なの?」
「えっ?サン?サンはね…自分にとって、すごく大切な人だよ」
「ともだち?」
「うん。友達で、大好きな人」
「そっか。そうなんだ」
「うん。さよならなんてしたくないけど、でも、旅だから」
「えっ?」
「あっ…。ううん、こっちの話…」
「そう…?」
「うん…。あ、それでね、祈りを捧げる神さまって、シフのことなんだぞ」
「さっき言ってたせいじゅうさん?」
「うん」
「へぇ、そうなんだ」
「それでね、シフはハクのお世話をしてて…」
「……?どうしたの?」
「ううん…。今日、ここにいる間は、考えないって決めたのに…」
「何を?」
「なんでもない…」
「なんでもないことはないだろ。なんだ。話してみろ」
「今日は、心を休めないといけないから…」
「はぁ…。そういうことか…」
「えっ…?」
「ルウェ。とりあえず、サンのこと、ハクのこと、ルロゥのことを話してみろ。私たちが聞いてやってるから。心を休めることは、今は考えるな」
「うん…。分かった…」
それから、少しずつ話す。
サンのこと。
ハクのこと。
ルロゥであった、いろんなこと。
葛葉と、狼の姉さまが聞いててくれるから。




