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「そら、昼ごはんだ。食え」

「いただきま~す」

「ふん、現金なものだな。さっきまで臍を曲げて、屋根の上にいたくせに」

「五月蝿い、シフ」

「姫がお怒りだぞ」

「そのようだな」

「どうするんだよ」

「どうしようもないが」

「ねぇ、これって圭太郎が作ったの?」

「そうだけど」

「こんなに料理上手かったっけ?」

「失礼なやつだな、お前は」

「圭太郎って、もっとガサツかと思ったのに。この繊細な味付けとか、盛り付け方とかさ」

「そりゃどうも。お前に味付けの違いが分かるかどうかは別として」

「もしかして、妙子お姉ちゃんの作り置きとかじゃないの?」

「疑り深いやつだな。違うっての。だいたい、味付けの違いが分かるなら、俺の料理と妙子の料理の違いも分かるだろ」

「ふぅん。変なの」

「何が変なんだよ」

「何がって、なんとなく」

「なんだよ、それは…」

「いいじゃん、別に」

「………」


圭太郎は呆れ顔で。

…なんとなく変っていうのが、なんとなく変なんだぞ。


「食べ終わったら、お前らは一旦帰れ」

「えっ、なんで?」

「なんでじゃないだろ。ユタナの見送りがあるんだろ?」

「そうだけど…。まだ早いよ」

「お前、逃げるつもりなのか?」

「逃げてないもん!」

「でもお前、そのままじゃ、またここに来て泣く羽目になるぞ?」

「泣いてないもん…」

「覚えてないのか、ユタナがいなくなったときのこと?」

「泣いてないもん!」

「まあ、ユタナの出発には遅れないことだな」

「遅れないもん…」

「そうか。それならいい」

「………」


サンは箸を置いて。

それから、ジッと俯いて。

…何を考えてるのかな。

ユタナが前にいなくなったときって、家出したときだよね。

そのときは、やっぱり泣いたんだ。


「あのときは、連日ここに来て泣いていたものだった」

「そうだったな。一通目の手紙が来るまでは。五月蝿くて仕方なかった」

「今にしてみれば、全て懐かしい思い出…か」

「本人はどうか知らないけどな」

「………」

「まあ、神社はそういうところだからな。誰かの願いや悩みを、どこかにいる神さまが聞いている。泣いているのも、笑っているのも、いつも神さまが見てくれている」

「サンがそういうことを思って、ここに来ていたかどうかは知らないがな」

「思ってなかったんじゃないか?お前がいるってことも知らなかったんだろ?」

「………」

「あ、おい!」


サンは立ち上がって、拝殿の階段を降りていってしまった。

シフと圭太郎も、それをただ見送るだけで。

大丈夫なのかな…。


「行ったぞ」

「行ったな」

「ルウェ。あとで、様子だけ見にいってやってくれないか。圭太郎の家にいると思うから」

「うん、分かったけど…」

「あいつはあれくらいでちょうどいいんだよ。そうでないと、別れが寂しくなってユタナの見送りに行かないで、また後悔して泣くことになる」

「うん…」

「あいつ自身でも分かっているはずだ。今日を逃せば、絶対に後悔するってな。あいつは、ユタナのことが一番好きだから」

「幼少期に慕っていた姉が家出をして、つい先日に帰ってきた。サンの心は、その幼少の頃にまで遡っているんだ。別れに屈しない強い心と、別れをただ別れとしか捉えられない弱い心が拮抗しているのだろう。どちらが勝つかは、最終的にはサンに任せるしかないのだが、私たちにも出来ることはある」

「強い心が勝つために?」

「そうだ。強い心が勝ち、サンに後悔のない別れをさせるために。分かるか?」

「うーん…。そうじゃないよって教えてあげる…?」

「そうだな。誰かの先導も必要だろう」

「それは俺たちでやる。任せろ。サンの扱いには慣れてる」

「その代わり、お前に頼みたいことがある」

「何?」

「…それは、ルウェ自身が考えることだ。頼み事をしたいと言いながら、お前に放り投げてしまうのは忍びない。だが、これはお前にしか考えられないことなんだ」

「自分しか、考えられない…?」

「ああ。ルウェのやるべきことは、ルウェ自身で考えてくれ。…あいつが、明るい笑顔でいられるように。よろしく頼む」

「…うん」


なんか、すごく難しいことを頼まれた気がする。

でも、答えはすぐそこにある気もする。

どうしたらいいのかは分からないけど。

でも、どうにかしないといけないことなんだ。

サンのためにも…。


「まあ、あいつもしばらくは俺の家から動かないだろうから。昼ごはんもゆっくり食べろ」

「うん…。でも、サン、あんまり食べてない…」

「心配するな。あいつはあいつで、腹が減れば何か食べるだろ。家に余りもあるし。だから、気にしないで食べろよ」

「うん…分かった」

「まったく。今日は、大変な一日だな」

「ふん。よく言う」


でも、やっぱり気になる。

ホントにちゃんと食べてたらいいんだけど…。

…それより大変なのは、自分がサンにしてあげられることを、自分で考えること。

サンに会うまでに考えておいた方がいいのかな…。

まあ、その場で考えるよりはいいよね…。

うーん…。

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