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「寂しくない?」

「寂しいよ」

「そっか」

「でも、哀しい顔してたら、お姉ちゃんも哀しいもんね」

「…うん」

「だから、笑顔で。旅の門出を祝うときの基本でしょ?」

「うん、そうだね」

「それはいい心掛けだ。しかし、哀しみを溜め込むのは心にも身体にも毒だ。溢れるときは、自然に任せて涙を流せばいい」

「うん…分かってる。でも、まだ泣いちゃダメだもんね」

「…そうか」


サンはニッコリと笑うと、空を見上げる。

…まだ泣いちゃダメって。

そうだよね。

まだ。


「あ、そうだ。ルウェはさ、誰にも手紙は書かなかったの?」

「えっ?うん、書かなかったけど。なんで?」

「さっき、ユンディナの郵便屋さんが来て、手紙を集めてったんだよ。そのときに、望お姉ちゃんが手紙を出してたからさ」

「ふぅん」

「誰にってのは教えてくれなかったんだけど。ルウェは知ってる?」

「うん、知ってるよ」

「えぇ、誰なの?」

「聞いて分かるかな」

「分からなくてもいいよ」

「…サン。他人の手紙の宛名はあまり無闇に聞くものじゃない」

「だって、気になるじゃん」

「気になってもダメだ。たとえば、お前が恋文を書いてたとして、それを誰かに知られたりしたらどう思うんだ」

「えっ?望、恋文を書いてたの?」

「話を逸らすな」

「むぅ…。恋文はイヤ、かな…」

「そうだろう」

「でもさ、望は恋文を書いてたの?」

「お前な…。恋文であろうとなかろうと同じだ」

「いいじゃん。気になるじゃん」

「では、今度、サンが恋文を書くようなことがあれば、村中に報せることとしよう」

「何さ、そこまで言ってないでしょ」

「同じことだ。守られるべき秘密というのは、誰しも持ってるだろうに。望が話さなかったなら、話したくない内容なんだろう」

「でも、ルウェは知ってるんでしょ?」

「望が手紙を書いてるところに一緒にいたから…。内容までは知らないよ」

「そら見ろ。お前だけだ、そんな下世話なことを言ってるのは」

「もう…。五月蝿いなぁ、シフは…」

「それで結構だ」

「何よ…」


サンは大きなため息をついて。

…そんなに知りたかったのかな。

それほどでもない?


「あーあ。シフがいたら、女の子っぽい会話も出来やしない」

「そうか。悪かったな」

「ホントだよ…。圭太郎、早く帰ってこないかな…」

「あいつが帰ってきたところで、お前にとっては五月蝿いやつが増えるだけだろ」

「そうかなぁ…」

「ハクはどうしたんだ。朝は来てたけど」

「知らないよ。向こうに帰ってるんじゃないの?こっちには帰ってきてないし」

「ふむ。そうかもしれんな」

「はぁ…。それにしても、暇だなぁ…」

「ユタナの手伝いでもしてきたらどうなんだ」

「手伝うって言ったらさ、お姉ちゃんがダメだって」

「それなら仕方ないな」

「なんでなのかなぁ…。私だって、お姉ちゃんの手伝い、出来るのに…」

「ユタナはそう思わなかったか、もしくは、手伝わせたくない理由があったんだろう」

「手伝わせたくない理由?何それ」

「さあな。それはユタナに聞かないと分からないだろうが」

「えぇ…。分かんないなら、思わせ振りなこと言わないでよ…」

「すまないな。だが、少しは希望が持てるだろう?」

「はぁ…。これで、ただ手伝ってほしくなかっただけだったら立ち直れないよ…」

「そうなのか?私は、お前は割と能天気に構えているものだと思っていたが」

「褒めてるつもりなの?」

「まあな」

「全然褒めてないっての…」

「捉え方の違いだな」

「絶対違う!」

「まあいいじゃないか。そう目くじらを立てることもあるまい」

「何さ、シフのバカ!」


サンはそう怒鳴ると、拝殿の屋根の上に飛んでいってしまった。

…シフ、サンを怒らせちゃったんだぞ。

大丈夫かな…。


「お姫さまの扱いには慣れてるつもりだったんだがな」

「わざとなんでしょ?」

「ふむ。見破られていたか?」

「シフ、なんかちょっと楽しそうだったから」

「そうか。それは不覚だったな」

「でも、なんで?」

「いやな…」

「……?」

「本当に懐かしいかんじがするよ」

「吉野?」

「ああ。面影をお前に重ねるのは失礼だということは分かっているが…」

「前も、そんなこと言ってたね」

「ん?そうだったか?」

「うん」

「そうか…。年を取ってくると、昔を思い出すばかりでいけないな…」

「けど、何回でも思い出したいくらい、楽しい思い出だったんでしょ?」

「ああ、楽しかった。吉野がいて、恵那がいて、みんながいて…」

「ふぅん」

「でも、今も楽しいよ。お前がいて、サンもいて。あの頃に退けを取らないくらいだ」

「えへへ。そうかな」

「だから、申し訳なくもある。お前を、何度も吉野と重ねてしまって」

「シフ、吉野のこと、好きだったんでしょ?」

「…ああ」

「じゃあ、別にいいよ。好きな人と同じように見てもらえるのって、嬉しいもん」

「…同じように、か」

「うん」

「同じようにではないさ」

「えっ?」

「お前はお前、吉野は吉野だ」


そう言って、ほっぺたを舐めてくれる。

…今のってどういう意味なのかな。

ちょっと分からなかったけど。

でも、嬉しい。

たぶん、そんな気持ち。

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