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「なんだ、お前ら。来てたのか」

「あ、お邪魔しております」

「参拝か?」

「はい。今はシフさまと話していたのですが」

「そうか。誰か参拝に来たか?」

「いえ。私たちが来てからは誰も」

「ふぅん。まあ、ゆっくりしていけ」

「はい。お言葉に甘えさせていただきます」


圭太郎は階段を上がってきて、シフの隣に座る。

それから、退屈そうに周りを見回して。


「はぁ…」

「ふん。妙子がいないと寂しいか?」

「まあな」

「妙子お姉ちゃん、どうしたの?」

「ルイカミナに行ってるんだよ。友達と買い物に行くんだってさ」

「ふぅん」

「ここの住人は、何をするにもルイカミナだな」

「仕方ないだろ。この村には店もそんなにないんだから。だいたい、ここだってルイカミナの一部じゃないか」

「ふむ。そういえば、そうだったな」

「ここ、ルイカミナなのか?」

「正確に言えば、ルイカミナの属村だけど。まあ、ほとんどルイカミナだな」

「ゾクソン…?」

「小さな村や集落がなくなってしまわないように、近くの大きな街が支援するという制度です。先々代ルクレィ王の時代、隣国の戦の煽りを受けて、多くの小さな村が財政難等に陥り、比較的豊かだった大きな街への合併や支援を要請したことが発端でした。もちろん、それらの街もそこまで余裕があるとは言えなかったので、なかなか上手くいきませんでした。しかし先々代は、合併によって小さな村の歴史や文化がなくなってしまうことを危惧し、この制度を定めたのです。小さな村の支援をすれば、税の優遇をしてもらえるというものなのですが。税収が少なくなるのは国も辛いところで、かなり苦しい決断だったようです。しかし、特にルイカミナやヤマトのような商業都市は、力を入れて支援したそうですよ。そして、税の待遇をしてもらったことで、商業都市は元の隆盛を取り戻し、それどころか前よりも豊かになり、さらに他の村の支援へ手を伸ばすことが出来た、というわけです。まあ、税の優遇にも限度はありますが、支援しているということは、それだけでその街の名誉になります。名誉は信用に繋がり、商売も円滑になります。今では、ルクレィの小村は全て、どこかしらの大きな街に支援してもらって、保護してもらっているんですよ」

「えっ?よく分かんない」

「え、あ…。そ、そうですか…」

「ははは。せっかく詳しく説明したのに、分かんないなら仕方ないな」

「まあ、とにかく。先々代のお陰でこの村は守られ、今もここにあるということだな。さっきの説明にひとつ付け加えるとすれば、最初はいろいろと問題もあったが、今ではほとんど解消されているということだろう」

「ふぅん…」


クノお兄ちゃんの説明はよく分かんなかったけど。

でも、センセンダイって人が、すごく大切なことをしたってのは分かった。

センセンダイがこの村を守ってくれたから今があるんだって、シフも言ってるし。


「でも、クノがそんなに説明好きだとは思わなかったな」

「せ、説明好きというわけでは…」

「そうか?まあ、俺は分かりやすかったよ」

「どうも…」

「そう気落ちするなよ」

「してないです…」

「ははは。まあいいや」


しばらく、圭太郎は笑っていた。

クノお兄ちゃんは、ずっと下を向いてたけど。

うーん…。

自分のせい…なのかな。



誰も来ない。

来るのは、鳥か犬くらいで。


「稼ぎ時なんだよ、祭りのときが。あの三日だけで、一年の四割くらいの収入があるんだ。残り四割が年末年始で、普段の稼ぎは二割しかないんだけど」

「あれだけ人が来ますもんね」

「ああ。だから、御守りとか御札だって、徹夜して作るんだよ」

「作っておいたものを使ったりしないんですか?」

「そういうのもあるけど、普段がこんなだから、まあ…あんまり在庫はないんだ」

「へぇ…」

「祭りと年末年始だな。ルイカミナとかからもいっぱいくるし」

「ルイカミナには神社がありませんからね」

「そうなんだよ。商売繁盛の神さまでも招いたらいいのにさ」

「なかなかそうもいかないだろう。神社を建立するには、まずは神社を建立しようと思う者がいないと無理だ。そして、土地と資金。それらが揃わないことには、無理なんじゃないか?」

「そうだけど…」

「まあ、近くに神社があるのに、あの商売の街がわざわざ建てようと思うかどうかだな」

「はぁ…。ルイカミナに神社が出来たら、うちの経営が成り立たなくなるから困るんだ。ちょっとした冗談に、本気で言い返すなよ…」

「ふん。すまないな、冗談と本気も聞き分けられなくて」

「絶対わざとだな…」

「そうかもしれないな」


圭太郎はため息をついて。

シフは、そっぽを向いている。

と、階段の方から足音がして。


「あっ、圭太郎」

「あぁ?なんだ、サンかよ…」

「おはよ~」

「今日は寝坊か?」

「えへへ…」

「まったく…。ユタナは来てないんだな」

「うん。出発の準備があるからって。でも、終わったら来るって言ってたよ」

「そうか」

「あとね、タルニアお姉ちゃんが、クノお兄ちゃんのこと、呼んでたよ」

「はい、そうですか。わざわざありがとうございます」

「ううん。ついでだし」

「いえ。ありがとうございます。…では、失礼しますね」

「また来いよ」

「はい。また来ます」


クノお兄ちゃんは、立ち上がってお辞儀をすると、帰っていった。

代わりに、サンが自分の隣に座って。


「えへへ。ルウェも、神社が好きになってきた?」

「んー、まあまあかな」

「えぇ~、何それ」

「分かんないけど」

「あはは、そっか」


なんか、サン、機嫌いいな。

ユタナが出発するの、あんまり寂しくないのかな。

まあ、送ってもらうときは笑顔がいいよね。

サンも、たぶん、そう思ってるんだぞ。

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