表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
252/537

252

「………」

「あのね、琥珀…」

「………」

「怒ってるよね…?」

「………」

「昨日は…ごめんなさい…。自分、琥珀に酷いこと言って…」

「………」

「えっと…。琥珀に会ったこと、みんなに会ったこと、なかったことになればいいなんて思ってないんだぞ…。みんな、自分の大切な思い出だもん…。その…昨日は…こんなの言い訳にしたくないけど、お祭りで疲れてて…。だから、頭の中がゴチャゴチャになって、大切なことを考えられなかった…。でも、今は、ちゃんと思い出せたから…。ごめんなさい…」

「…知ってたよ、そんなこと」

「えっ…?」

「私だって、それくらい知ってた。ルウェが、お祭りで疲れてたってことも。でも、急にだったから…。聞きたくなかったから…。だから、本当のことを考えないで、今そこにあった事実だけを見て、逃げちゃった…。私の方こそ、ルウェに酷いことをしちゃった…。私の方こそ、ごめんなさい…」

「………」


…琥珀だって、悩んでた。

自分と同じように。

怒ってたんじゃなくて…悩んでたんだ。


「私…ルウェに赦してもらえるか、怖くて…。だから、なかなか来られなかった…。自分から行かないといけないのに、薫お兄ちゃんに頼って連れてきてもらって…」

「そんなの、本当は自分が悪いんだし、自分が琥珀に謝りにいかないといけなかったのに…」

「ううん…」

「まあ、喧嘩の原因がどちらにあるにせよ、二人とも謝ってるんだ。不毛な原因探しはやめて、仲直りしてお開きでいいんじゃないのか?」

「えっ、誰…?」

「あ、流」

「流?」

「よぅ。そっちのは初めましてだな。俺は、影の長をやってる流って者だ。よろしくな」

「影…?何?」

「ふむ?聖獣なのに、影を知らないのか?」

「琥珀は、つい最近に聖獣になったから」

「あぁ。なるほどな。そっちか」

「…どっち?」

「どっちでもいいだろ、この際。それより、だ。お前、薫の居場所は分かるか?」

「えっ?分かるけど…」

「じゃあ、ちょっと教えてくれないか?」

「いいけど、なんで?」

「用事があるんだよ。聖獣の世界や影の世界で会うのは、何かと都合が悪いからな」

「そっか」

「それで、どこにいるんだ?」

「ちょっと待ってて」


少し目を瞑って、薫に呼び掛けてみる。

近くにはいるはずだけど…。

と、思った通り、すぐに後ろから足音が聞こえてきて。


「お呼びでしょうか、ルウェさま」

「あ、喋っていいの?」

「…今は周りに誰もいません。私も、外では一切喋らないというわけでもありませんので」

「知ってるけど」

「………。それで、何の用ですか。琥珀とは仲直り出来ましたか?」

「えっ?」

「うん。出来たよ。ルウェも謝ってくれたし、私もちゃんと謝れた」

「そうですか。それは何よりです」

「おい、薫」

「はい…あ、流…」

「長らく俺を無視するとは、いい度胸だな」

「影が薄いんじゃないか?」

「ふん。面白くないな」

「それで?何か用なのか?」

「ああ。ちょっとな」

「何なんだ?ここで話せるのか?」

「聞かれて困ることでもない。…クノは、なかなか出張ってこれないんだろ?」

「そうだな。クノさまは聖獣の長であるし…。そういえば、お前こそ影の長だろ。こんなところにいてもいいのか?」

「ふん。聖獣の長は知らないけど、影の長は暇なもんだ。あそこにいたって、やることなんざ何もないよ。愛は、今は母さんに看てもらってるし…」

「あ、そうだ。愛は?大丈夫なの?」

「ん?まあな。今はまだ動けないが、明日明後日には回復するだろうよ。ルウェの力を貰って、前より元気になってるくらいだ」

「そう…。よかった」

「俺はビックリしてるけどな。愛はまだ未熟とはいえ、影よりも力の強い人間がいるなんて」

「ルウェさまは、たくさんの聖獣と契約なさっているから。それでなくとも、もともと強い力を持っているし」

「ふぅん。まあ、愛は元気にしてるから安心しろ」

「うん」


よかった。

愛、ちゃんと元気にしてるんだね。


「それでだ。クノが出てこれないなら、お前に連絡係を頼みたいんだ。俺たちが聖獣の世界に行ったり、お前たちが影の世界に来たりするのは、まだ早いだろうし…。この世界でお前と話し合って、クノに報告する。お前にとっては二度手間だろうが…」

「いいよ、そんなの。気にするな。まあ、うん、分かった。一度、クノさまに報告して聞いてみるけど、たぶん許可してくれるだろ」

「そうか、ありがとう。じゃあ、よろしく頼んだぞ」

「ああ」


薫が頷いたのを確認すると、流は少し空を見上げて。

それから、周りを見渡す。


「美しいな、この世界も」

「来たことはなかったのか?」

「いや…。ガキの頃に、親父の言い付けを守らずに、こっちに来たこともあった。最近は来なくなったけど。それでも、愛の話はよく聞いてたよ」

「そうか」

「昔と変わらないな…。いや、変わるところは変わっているけど」

「どこが変わったの?」

「人に活気があるな。今は誰も見えないけど。昔は、自然や災害に怯えてた印象が強かった」

「変わってないところは?」

「口で言うのは難しいが、空気というか、雰囲気というか。そういうのは変わってないな」

「ふぅん」

「変わらない…。変わってほしくない…」

「…うん」


自分たちが生きてる、今このときが一番良いかどうかは分からないけど。

でも、自分はこの世界が好きだから。

…これはずっと変わってほしくないんだぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ