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山を登っていると、高い壁に突き当たった。


「進めない」

「こっからは羽根生やして飛んでいくねん」

「え?羽根が生えるのか?」

「ああ。この薬、飲んだらな」


そして、懐から小さな瓶を取り出して渡してくれた。

中には黒くて丸い薬がいっぱい入っていて。


「もう…。嘘を教えないでください」

「嘘なの?」

「これは胃腸薬。お腹が痛くなったときとかに飲むの」

「羽根が生える薬は?」

「そんなのないの」

「………」

「"疾風"」


お兄ちゃんがそう唱えると、急に身体が軽くなって地面から足が離れた。


「わわっ!」

「ちょっ、あんま動くな!」

「うわっ!」


落ちて尻餅をつきそうになったところに、明日香が割り込んできてくれて。

お兄ちゃんを見ると、汗をかいて息もあがっていた。


「術式が使えるんですね」

「召致かて術式やん…」

「そういえばそうですね」

「はぁ、しんど」

「召致のときは平気そうだったのに」

「あれは維持する必要がないからな」

「術式…」

「なんや、興味あるんか?」

「"疾風"」


姉さまと葛葉に借りた力を、もう一度思い出して使ってみる。

身体は浮かなかったけど、小さなつむじ風が起きた。


「へぇ~。ルウェも使えるんだ~」

「なかなか筋がええな」

(素質もそうだけど、良質な力が助けてる。しかも、ふたつ)

「お前、またいきなり出てきて…」

「葛葉と姉さまの力なんだぞ!」

(へぇ~)


二人の力。

自分を助けてくれている。

胸のあたりが、とても温かかった。


「まあとにかく、空を飛ぶんは鳥に任せとけって話やな。オレらはこの程度が限界や」

「うん。でも、どうするの?登るの?」

(回り道をするんだよ)

「ついでに採掘場や」

「採掘場!」


綺麗な石、見つかるかな。

綺麗なのを見つけて、葛葉や姉さまに持って帰ってあげないといけないな。



壁に沿って進んでいくと、大きな穴がある場所に着いた。


「ん?おぉ、久しぶりじゃのぅ」

「じいさん、まだ生きとったんかい」

「ははは。山の男はなかなか死なんさ。ほで、採掘場に入るんかいの?」

「ああ。こいつらの採掘証明も出したってくれるか?」

「んー?妹かいの?」

「違います」

「嫁か」

「ち、違います!」

「採掘証明は一個につき二千円じゃけ、四千円じゃの」

「ほれ。四千円や」

「ん。確かに。ほれ、チビ。来んかいの」

「うん」


おじいちゃんのところに行くと、サイクツショウメイを首に掛けてくれて。

お兄ちゃんに見せてもらったものと同じものだった。


「可愛いのぅ。うちの孫に負けんくらいじゃ」

「えへへ」

「ほれ、娘さんも」

「ありがとうございます」

「礼はこの男にな。ほして、チビはどこから来たんかの?」

「ヤゥト!」

「ほぅ、ヤゥト。そりゃまた偉かったの。どれ、ご褒美じゃ。こっちの採掘証明もやろう」

「ありがと!」


首に掛けてもらったのは、さっきのと違って、綺麗な銀色の板にヤマトの紋章と何かの文字が彫られたものだった。


「じいさん…それ、正式な採掘証明やろ…。ルウェにやってええんか?」

「ええんじゃ。どうせワシのじゃけ、もう使わんでの」

「おじいちゃんのなの?」

「毎日磨いとるからの。ワシのお古とはいえ、新品同様じゃ。ほで、今からはチビのもんだて、大切にしぃな」

「うん!」

「はっはっ、良い返事じゃあ!」


おじいちゃんは、頭を優しく撫でてくれた。

ゴツゴツしてて、なんだか岩みたいだったけど、それがすごく気持ち良くて。


「ありがとうございます。ルウェのために」

「ええんじゃ。娘さんにやるもんがのうて、すまんのじゃけんど…」

「あぁ、そんなのいいですって」

「おぉ、そうじゃ。昼ごはん、まだじゃろ。鉱山飯食わせちゃろ」

「え、あ。ありがとうございます」

「久しぶりに腕が鳴るのぅ」


そう言って、おじいちゃんは腕捲りをして穴の中へ入っていった。


「さ、オレらも付いていこ」

「あ、はい」


採掘場の前に、お昼ごはん。

高山飯ってどんなのかな。



良い匂いが小さな横穴中に広がる。


「ようこんだけ高熱の火炎岩、見つけてくるわ」

「火炎岩ゆうくらいじゃけぇの。炎のように熱からんかったら、ワシらは火炎岩とは言わん。そんなもん、ぬる岩じゃ」

「…さいでっか」

「ほぅれ、出来たぞ」

「いただきます!」


早速、こんがり焼かれたお肉を食べる。


「ん~」

「美味いじゃろ」

「うん!」「ホント、美味しいです」


何のお肉かは分からないけど、とにかく美味しくて。

ホカホカに炊けたご飯にすごく合っていた。


「最近は万石も万金も採れんようになってのぅ…」

「掘り尽くしたんちゃうんか?」

「そうかもな」

「ヨロズイシ?ヨロズカネ?」

「自然の力を集約した石とか金属のことや。それぞれで様々な自然の力を使えるんやけど、力の大きさはそれの大きさに比例するし、掘り出される量もごくわずか。採掘員がこれの取り合いをして、裁判沙汰になったこともあるくらいや」

「へぇ~」

「売れば億万長者じゃけ、醜い争いが絶えんのじゃ。そういうことでは、出んようになったのはええことかもしらん。ほでも、ヤマトより西の街、あるいはムカラゥとかガルムクでも万石、万金は生活に必要不可欠になってきとる。ヤクゥルとかユールオ、ルイカミナ…あとはヤゥトみたいな、便利な力に頼らん生活にはなかなか戻れんし、手放しには喜べんのだの…」

「ふぅん…」


ヨロズイシ…ヨロズカネ…。

あっても大変だけど、なくても大変。

なんだか複雑なんだぞ…。

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