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「ルウェ、起きて」
「んぅ…。何…?」
「朝だよ」
「うん…。でも、まだ早いみたいだし、眠い…」
「ダメだよ!ちょっと来てほしいの!」
「うーん…」
まだ夜も明けてないみたいなのに、なんで…。
愛に手を引っ張られたので、仕方なく身体を起こして。
「こっちだよ!」
「待って…。まだ着替えてない…」
「いいよ、そんなの!早く!」
「うーん…。どこに行くの…?」
「とりあえず、ついてきて!」
「うん…」
愛は先々と走っていく。
自分は、それについていくのもいっぱいいっぱい。
どこを走ってるかも分からないまま、ずっと愛についていって。
それから、どれくらい走ったか分からないけど、愛がやっと止まった。
「見て!ここ!」
「何…?」
「祭壇だよ!誓約の儀の!」
「……?何それ…?」
「お兄ちゃんがね、ここでなら誓約が出来るかもしれないって」
「セイヤク…?」
「うん!」
「うーん…。全然分かんないよ…」
「契約だよ!聖獣で言うところの!」
「あぁ、契約…。でも、なんで…?眠たいし…」
「お兄ちゃんが、ルウェなら影の素質を持ってるから、誓約出来るかもしれないって…」
「ふぅん…」
「…わたしと誓約するの、嫌?」
「嫌じゃないけど…。こんな朝早くにしないといけないの…?」
「えっ?それは…知らないけど…」
「契約のときも、両方ともかなり体力を使ったし、セイヤクもしっかり休んで万全の態勢で挑む方がいいんだぞ…。一回もやったことないから分からないけど…」
「う、うん…。そう…だね…。ごめん…」
「いいんだぞ、そんなの…。ふぁ…。じゃあ、またあとで…。お休み…」
「お休み…」
その辺に適当に寝転がって目を瞑る。
…愛、こんなに朝早くから呼びに来て、相当楽しみだったのかな。
そうだとしたら、ちょっと悪いこと言っちゃったかな…。
でも、こんなに眠たかったら、上手く出来ないかもしれないし…。
自分ね方こそごめんね、愛…。
目が覚めると、いつもの部屋だった。
やっぱり、さっきのは影の世界だったのかな。
とりあえず、伸びをして布団を出る。
「ルウェさま。おはようございます」
「あ、薫。おはよ、なんだぞ」
「今朝、どちらに行かれていたのですか?影の世界ですか?」
「うん。なんでかは知らないけど」
「ルウェさまは、いつもそうですからね」
「うん」
「体質的に、境界が弛いのでしょうか…」
「体質なの?」
「生まれ持ったもの、でしょうか。正確に言えば」
「ふぅん…」
「それで、向こうでは何かなさっていたのですか?」
「んー…。愛が、セイヤクとか言って、なんかサイダンってところに連れていってくれて…」
「誓約?祭壇?ふむ…。何のことなんでしょうね?」
「シフとかなら知ってるかな」
「さあ…。どうでしょうか…。なにぶん、影との交流がなかったので…」
「そっか…」
「しかし、クノさまやシフさま含め、長老さま方なら、もしかしたら何か知ってるかもしれません。少し聞いてきますね」
「うん、よろしく。行ってらっしゃい」
「行ってきます」
そして薫は、静かに消えていった。
…そういえば、セイヤクは契約みたいなものだって、愛から聞いてたんだった。
言い忘れたけど…まあ、大丈夫だよね。
もう一度、伸びをして。
望と明日香は、もういなかった。
(………)
「あっ」
(お、おはよ…)
「おはよ、なんだぞ」
(………)
「どうしたの?」
(ひ、久しぶり…)
「うん。久しぶり。元気になったんだね」
(うん…。ル、ルウェのお陰…)
「そんなことないよ。琥珀も頑張ったんでしょ?」
(………)
「今日は、ずっとこっちにいるの?」
(うん…。まあ…)
「そっか。じゃあ、とりあえず、朝ごはんにしよっか」
(うん…)
琥珀、どうしたのかな。
なんか緊張してるみたい。
あ、それとも、まだ身体の調子が悪いのかな…。
「大丈夫?」
(えっ?あ…うん…)
「無理しちゃダメなんだぞ」
(うん…。大丈夫だから…)
「そう?」
琥珀は小さく頷くと、開けっ放しになってた部屋の出入口から出ていってしまった。
…大丈夫なら、それでいいけど。
ちょっと心配。
朝ごはんを食べて広場に出ると、もうほとんど何も残ってなかった。
あるのは、たくさんのお酒の樽と、飾りも何もなくなって寂しくなったダシくらいで。
「あ、ルウェ」
「ハク。今から何があるの?」
「えっ?もう何もないよ。今からは、本格的に打ち上げをするんだ」
「…まだ朝だよ?」
「うん。正式には終祭の儀だから、後夜祭とは違って夜じゃなくても始めるんだよ。片付けが済み次第、ね」
「ふぅん…」
「なんかちょっと変だけど、嬉しいよね」
「うん。それで、サンは?」
「ユタナと一緒に神社に行ったよ。ボクは断ったんだけど…」
「なんで?シフがいるから?」
「ち、違うけど…」
「そうなの?」
「そ、そうだよ。…ところでさ、そっちのちっちゃいのは?」
「琥珀だよ。琥珀、この子はハクっていってね、聖獣なんだよ」
(…よろしく)
「うん、よろしくね」
(………)
「どうしたの?」
(なんで、変化なんて使ってるの?)
「えっ?なんでって…こっちの方が、みんなとも遊べるし…」
(ふぅん…。そっか)
「うん…」
「琥珀。そんな喧嘩腰みたいな言い方しちゃダメなんだぞ」
(あ…。ごめんなさい…)
「ううん…。いいけど…。怒ってるんじゃないんだよね?」
(うん…。ごめんなさい…)
「琥珀、ちょっと病み上がりだから…」
「そうなんだ。あんまり無理しちゃダメだよ」
(うん…。ありがと)
「えへへ。どういたしまして」
二人はニッコリと笑って。
うん。
とりあえず、仲直りかな。
喧嘩もしてないんだけど。
まあ、あんまり不機嫌な喋り方はダメだよね。
喧嘩してなくても喧嘩っぽくなっちゃうし。
自分も気を付けないと。




