233
「あー…。やだなぁ…。お祭りの片付けなんて…」
「去年も一昨年もずっと前も言ってたな。口より手を動かせ」
「面倒くさい~…」
「片付けるまでが祭りだ。つべこべ言うな」
「うへぇ…」
サンはのっそりと立ち上がって、ダラダラと歩き始める。
広場の屋台はもう半分くらい片付いていたけど、屋台に使った材木とかは、まだ端の方にたくさん積み上げてあった。
「はぁ…。お祭り、終わっちゃった…」
「だから、まだ終わってないって言ってるだろ。キビキビ働け」
「はぁ…」
「サン。とりあえず、ダシの方に行こうよ。行けって言われたし」
「ルウェは、お祭りが終わって寂しくないの?」
「えっ?うーん…。ちょっと寂しいけど…」
「ちょっとだけ?」
「ちょっとだけ」
「なんで?なんで、ちょっとだけ?」
「だって、楽しいことはお祭りだけじゃないし…」
「そうだけどさぁ…。お祭りが一番楽しいことだし…」
「そうかな…。お祭りと同じくらい楽しいことは、いっぱいあると思うよ?」
「はぁ…」
サンは、またため息をついて。
…そこまでお祭りが好きなのかな。
お祭りは、確かに楽しいけど…。
「ルウェ、サン」
「あ、愛」
「おはよ」
「おはよ、なんだぞ」
「あれ?サン、どうしちゃったの?」
「お祭りが終わって、寂しいんだって」
「ふぅん」
「愛も、片付けの手伝いに来てくれたの?」
「まあ、そうかな。ホントは、二人に会いに来たんだけど」
「そうなの?」
「うん。お兄ちゃんも、行っていいって言ってくれたし」
「流?」
「うん」
「流?何それ、誰?」
「わたしのお兄ちゃん。影の長をしてるんだよ~」
「ふぅん…。はぁ…」
「なんでため息なんてつくのよ」
「だって、お祭りも終わっちゃったし…」
「お兄ちゃんの話とは全然関係ないじゃない」
「私には関係あるし…」
「サンにしか関係ないじゃない」
「はぁ…」
「もう…。毎年こうなのかな?」
「そうなんじゃない?」
「はぁ…」
「ため息つかないでよ。わたしたちまで暗い気分になるでしょ」
「そんなの、どうでもいいし…」
「…どうしよっか」
「どうしよっか?」
まあ、解決する方法はだいたい分かるけど…。
どこにいるか分からないし…。
「あらぁ。こんなところでお喋りかしらぁ?」
「あ、お姉ちゃん」
「お姉ちゃん?」
「うん、お姉ちゃん」
「あら?その子はたぶん初めましてねぇ?お友達?」
「うん。愛だよ」
「へぇ、愛ちゃん。よろしくねぇ」
「は、はいっ」
「うふふ。緊張屋さんなのかしら?」
「………」
「可愛い。うちに来てほしいくらいだわぁ」
「あ、あの…」
「クーア旅団よ。入団したくなったら、ご一報を」
「は、はい…」
「タルニアさま。こんなところにいらっしゃったのですか?」
「どこにいようと、私の勝手でしょう?」
「そうですが…。そちらは?」
「愛ちゃんっていうそうよ。クーア旅団に招待してたところ」
「そうですか。入団するかしないかはさておいて、どうぞよろしくお願いします」
「よ、よろしく…」
「どうされました?」
「愛ちゃんは緊張屋さんなのよね?」
「………」
「そうでしたか。配慮が足りず、申し訳ありませぬ。では、タルニアさま。行きましょうか」
「そうねぇ。じゃあ、お三方。またあとで会いましょう」
「うん。…あ」
「どうしたのかしら?」
「ユタナは?」
「ユタナちゃん?そうねぇ…。山車の片付けに回ってるんじゃない?私たちのところにはいなかったし、ここにもいないみたいだし」
「うん、分かった。ありがと」
「お役に立てて嬉しいわぁ。じゃあ、如月。行きましょうか」
「はい」
「またあとでね~」
「はぁい」
お姉ちゃんはニッコリと笑って、広場の真ん中へ歩いていった。
如月も、一回こっちを向いてお辞儀しただけで、そのままお姉ちゃんについていって。
…愛が影だとか、そういうことは言わなかったけど、なんでなのかな。
気付いてなかったとか…?
「あの狐さん…」
「うん。聖獣だよ」
「わたしのこと、気付かなかったのかな?」
「どうなんだろ。でも、何も言ってこなかったし」
「うん…」
「どうしたの?」
「ううん、なんでもないけど…。わたし、そんなに影らしくないのかな…」
「どういうこと?」
「たぶん、お兄ちゃんとかがこっちに来たら、聖獣もみんな、影だって分かると思うんだ。でも、わたしは、全然気付かれなかったし…」
「如月、わざとだったのかもしれないよ?自分たちと一緒にいたから、愛は悪い影じゃないって分かってくれたのかも」
「そうかな…」
「あとで、如月に聞いてみようよ」
「うん…」
お祭りが終わって元気がなくなったサン。
如月に影だって言ってもらえなくて元気がなくなった愛。
サンはともかく、愛はちょっと複雑なのかな…。
聖獣と影はあんまり仲良くないみたいだけど、気付いてもらえないのも寂しいって…。
でも、如月が本当に気付いてなくて、愛が影だと知った途端に態度が変わることだってあるかもしれないし…。
「はぁ…」
「はぁ…」
「………」
まあでも、聖獣のみんなと愛とは喧嘩させないんだぞ。
それは、絶対に。




