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「おら、お前ら。そんなとこに座り込んでるなら、妙子を手伝って巫女でもやれよ」
「圭太郎がやればいいじゃん」
「俺は男だから巫女は無理だし、そもそも神主としていろいろやってるだろ」
「圭太郎が働いてるところなんて見たことないよ」
「それはお前が見てないだけだ。何もしないなら、そこは邪魔だから別のところに行け」
「ふん。ベーッだ。バカ圭太郎!」
サンは階段から立ち上がると、もう行こうと合図してくる。
だから、ハクと自分も階段から立ち上がり、サンについていって。
「あ、そうだ。おい、ハク」
「えっ?」
「その服、どうしたんだ?」
「えっとね、シフさまに貰ったんだよ。ニカルが作ってくれて」
「ふぅん、そうか」
「えへへ。可愛いでしょ?」
「そうだな。まあ、妙子もお前のために服を作ってやってくれてるらしいから、そっちもよかったら着てみてくれないか?」
「うん、分かった」
「出来上がったら、また届けにいく」
「うん」
「…それだけだ。止めてすまなかったな。じゃあ」
「またね~」
それから圭太郎は、階段を上がって拝殿へ向かっていった。
サンは、ハクが呼び止められたのに気付かなかったのか、もうずっと先に行っていて。
二人で走って追い掛けることにした。
ため息をつきながら、お好み焼きを食べるサン。
皐月は、それをニコニコしながら見ている。
「お祭り、楽しんでる?」
「圭太郎のせいで台無しだよ…」
「あはは、そんなこったろうと思った」
「神社でゆっくり過ごしてたらね、邪魔だからどっか行けって言うんだよ?」
「どうせ、拝殿の階段に座り込んでたんでしょ?そりゃ、圭太郎も怒るよ」
「だって、あそこが一番落ち着くんだもん」
「サンは本当に神社が好きだからねぇ」
「皐月お姉ちゃんだって、神社は好きでしょ?」
「そうさねぇ。サンほどは好きじゃないね」
「はぁ…」
サンは、またため息をついた。
それでも、お好み焼きを食べる手は止めない。
「ねぇ、皐月」
「ん?どうした、ハク?」
「お腹、おっきいね」
「そうなんだよ。昨日食べ過ぎちゃってさぁ」
「えっ?食べ過ぎなの?」
「あはは、嘘だよ。今ね、お腹の中に赤ちゃんがいるんだよ」
「えっ、そうなの?」
「ああ。今月中に生まれる予定なんだけどね」
「ふぅん…」
「ハクも、いい人を見つけて、結婚して、幸せになったら、お腹を大きくすることがあるかもしれないねぇ」
「いい人?」
「うん。自分が大好きで、自分を大好きになってくれる人」
「皐月は誰なの?」
「わたしはアルだよ。サンのお兄ちゃん」
「ふぅん。ボクは誰かな」
「誰だろうね」
ハクは皐月のお腹を撫でて。
それから、ニッコリと笑う。
「皐月は幸せ?」
「幸せだよ」
「…ボクも幸せになれるかな」
「きっとね」
「えへへ。ボクの赤ちゃんか。楽しみだな」
「あはは。赤ちゃんより先に、いい人を見つけないとね」
「うん。大好きな人」
自分は、祐輔かな。
…ずっと会ってないけど、浮気なんてしてないよね。
うん、祐輔なら大丈夫。
「さぁて。それを食べたら、お祭りに戻りなよ。今日で最後でしょ。わたしは行けないからさ、サンたちが楽しんできてよ」
「はぁ…」
「ため息つかないの。圭太郎のこと、そんなに嫌い?」
「嫌い」
「あはは、即答だね。可哀想に」
「圭太郎なんて、五月蝿いし、いつも怒ってるし、嫌い」
「サンが悪さするからでしょ?」
「悪さなんてしてないもん」
「圭太郎に構ってほしいんでしょ?」
「違うもん…」
「ふふふ。まあ、なんでもいいけど、あんまり迷惑掛けちゃダメだよ」
「掛けてない!」
「はいはい」
「掛けてないもん!」
サンは不機嫌そうに皐月を睨み付ける。
でも、皐月はニコニコ笑っていて。
…とりあえず、冷めないうちにお好み焼きを食べないと。
サンとハクと、三人で村の近くの丘へ。
お祭りの騒がしい雰囲気とは少し離れて。
「やっぱり、静かなところっていいよね。お祭りの雰囲気も好きだけどさ」
「うん」
「でも、せっかくのお祭りなのに。勿体ない気がするね」
「んー。騒がしいところから離れて静かなところに行くってのは、お祭りの間にしか出来ないし。いつもは静かだもん」
「そうだけどさ。やっぱり、お祭りのときはお祭りを楽しまないと」
「まあね。ちょっと休憩」
「うん」
ゴロンと寝転がる。
蒼い空が見えた。
スーッと抜けるような。
「…影って何なのかな」
「どうしたの、いきなり?」
「今、たとえば、影が来たらどうする?」
「どうするって、とりあえずは追い返すしかないんじゃない?ボクだって、影がどう出るか待てるほどの力もないし…」
「うん」
「ルウェはどうしたいの?影と仲良くなりたい?」
「仲良くなれるならね」
「まあ、それはそうだけど」
「無理じゃないと思うんだ。仲良くなるのも。でも、ハクとかは別だけどさ、聖獣は影をあんまりよく思ってないでしょ?それが難しいなって」
「うーん…」
影と、聖獣…。
仲良くなれないのかな。
雲が太陽を隠して、影を作る。
光と闇の間。
影って、何なのかな。




