表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
214/537

214

「それでさ、月人だから持っていけって」

「ふぅん」

「それ、本当は私たちの分なんだからね」

「そうか」

「感謝してよ!」

「そうだな」


圭太郎はサンを軽くあしらって。

また焼きそばを食べ始める。


「ん?ハク、どうしたんだ。食欲がないのか?」

「ううん…」

「そうか?早く食べないと、サンに取られるぞ」

「取らないよ!」

「お前な、何回耳元で叫ぶなと言わせたら気が済むんだ」

「百億万回」

「百億万回が何回か分かってるのか?」

「百兆回」

「なんだ、知ってるのか」

「それくらい知ってるもん」

「そうか。サンはなかなか出来る子らしい」


圭太郎がサンの頭をワシワシと撫でると、サンは嫌そうに払いのけて。

それから、あっかんべーをする。


「それよりだ、ハク。本当に大丈夫なのか?」

「………」

「ハク?」

「…圭太郎さん」

「えっ?」


急に顔を上げて圭太郎をジッと見つめる。

その様子に、圭太郎は少しどぎまぎして。


「シフさまのこと、嫌いにならないで」

「は?あ、え?」

「シフさま、圭太郎さんのことが嫌いなわけじゃないの。だから…だから…」

「…ずっと友達でいてくれって?」

「うん…」

「心配しなくても大丈夫だ。あれくらいで仲違いするなら、とっくの昔に縁も切れてるよ」

「ホントに…?」

「ああ。シフとは生まれたときからの付き合いだからな」

「そうなの?」

「まあ、俺自身は知らないけどな。母さんによく聞かされたよ。俺はシフさまの加護の下、生まれてきたんだ~って」

「ふぅん…」

「俺の出産にずっと立ち合ってたらしい。母さんは信心深いし、いつも感謝してたよ」

「圭太郎のお母さんって、毎日お参りしてるもんね」

「ああ。家が神社でよかった、神社に嫁いでよかったって、いつでも言ってるしな」

「圭太郎はどう思ってるの?」

「ん?シフのことか?」

「ううん。シフさまだけじゃなくて、神社とかのことも」

「そうだな…。昔からずっと身近にあったせいで、特別どうってことはないよ。母さんみたいなことを思っていたら、シフと喧嘩も出来ないしな」

「自分の神社の神さまくらい、敬ってあげてもいいんじゃないの?」

「じゃあ、サンは、アルヴィンのことを敬えと言われて敬えるか?」

「それは…。アル、敬うところなんてないし…」

「俺とシフの関係もそうだよ。敬うとか敬わないとかそういうものじゃなくて。歳はかなり離れてるけどな。兄弟のように、近くにいる存在なんだよ」

「ふぅん…。でも、じゃあ、シフ自身のせいで、圭太郎は信心深くならなかったってこと?」

「ははは。まあ、そうだな」


圭太郎は笑いながら焼きそばを食べて。

…自分たちの二倍くらいはあるのに、自分たちと同じくらいの割合で減っていく。

なんか、ちょっと不思議。


「それにしても、圭太郎って立ち直りが早いよね」

「まあな」

「どうやって立ち直ってるの?」

「ん?どうだろうな。部屋に入る頃には、もう怒ってた気持ちも忘れてて、しばらく妙子のことを考えてたらどうでもよくなるんだよ」

「妙子お姉ちゃんの力なんだね」

「まあ、そうだな」

「圭太郎は、妙子お姉ちゃんのことが好きなのか?」

「ああ」

「ルウェ。圭太郎に対して、それは愚問だよ。圭太郎は、この村一番の愛妻家なんだから」

「アイサイカ…?」

「うん」

「愛妻家といえば、アルヴィンのところもじゃないか」

「あぁ、アルはダメだよ。皐月お姉ちゃんがグイグイ引っ張ってるだけだもん」

「そうか?俺には、ちょうどいいかんじの夫婦に見えるけどな」

「皐月お姉ちゃんの努力の賜物だよ」

「そうか。ところで、今月末だっけか。皐月は」

「うん」

「何が?」

「子供が生まれるんだよ。赤ちゃん!」

「ふぅん…?」

「これで、サンも叔母さんということだな」

「お、おばさん…」

「男の子?女の子?」

「まだ分かんないよ。生まれてないんだし」

「あ、そっか」

「皐月はサンと同じくらい祭り好きだからな。あんまり興奮させないようにしないと」

「私の方が圧倒的に好きだけどね。もう遅かったりして」

「そうなってないことを祈るよ」


圭太郎とサンは、焼きそばをすすりながら何か真剣な顔をして頷き合う。

…皐月ってどんな人なのかな。

アルのお嫁さん?

また会ってみたいな。


「…ひとつ、聞いてもいい?」

「何?」

「なんで、サンは圭太郎さんのことだけは呼び捨てなの?アルヴィンさんはお兄さんだし、いいとしても…」

「細かいこと、気にするんだね」

「ご、ごめん…」

「細かくないだろ。それに、ハクも謝る必要はない。まあ、サンに呼び捨てされる理由は知らないが、サンはだいたいアルヴィンに近い歳の男は呼び捨てにするな。ハクは聞いたことないかもしれないけど」

「だって、アルが呼び捨てだもん。他の人もそうしないと、不公平でしょ?」

「そんなことを考えて、呼び捨てにしてるのか?」

「ううん」

「…まあ、そういうことだよ。こいつが呼び捨てにする理由なんてない。そう呼びたいから呼んでるだけなんだよ」

「ふぅん…」

「ハクも、俺のことを呼び捨てにしたければしてもいいんだぞ」

「うん…。また考えとく」

「ははは。そうか」


呼び捨てにする理由はない。

まあ、そうかもしれない。

自分も同じだし。

でも、圭太郎に関しては、サンが呼び捨てにしてたからってのもあるのかな。

一口、焼きそばを食べて、首を傾げてみる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ