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サンとハクが望と自分の部屋に寝てるから、今日はシャルと一緒に寝ることになって。

上の部屋の二つ分くらいの広さで、四人か五人くらいは眠れそうな畳の部屋だった。


「これでいい?」

「うん。ありがと、なんだぞ」

「どういたしまして」

「うん」

「それで、それはどうしたの?」

「シフに貰ったんだぞ」

「シフ?」

「うん」

「誰なの?」

「氷の司」

「んー…。もうちょっと具体的に」

「灰掛かった白の大きな狼なんだぞ。ハクが奉公をしてて…」

「狼?狼って、明日香みたいな?」

「うん」

「ふぅん…」


シャルは裁縫箱を仕舞うと、また自分の前に座って。

革の紐に通ったふたつの輪っかをジッと見る。


「年代物だねぇ。いつくらいのだろ」

「ずっと前のだと思う」

「うん。まあ、それはそうなんだけど」

「吉野って人のだよ」

「吉野?」

「犬姫って呼ばれてるんだって」

「犬姫?三名将の?」

「んー。よく分からないけど、たぶんそうだと思う」

「三名将って言ったら、ほとんど伝説の人だよ。実在したかどうかも怪しいのに…」

「でも、ここに本当にあるんだから」

「そうだよね…。本当にいたのかな…」

「シフがいたって言うんだから、いたんじゃないの?」

「うん。でも、そのシフっていうのも怪しいし…」

「むぅ…。シャルは疑り深いんだぞ…」

「やっぱり、自分の目で見てみないと信じられないしねぇ…」

「自分の目で見たからといって、本当にそれを信じられるのか?」

「えっ?」


冷たい風が部屋の中に吹いて、氷の粒を散らしながらシフが現れる。

シャルは、一瞬、何が起こったのか分からなかったみたいで。

しばらくキョトンとしたあと、急に動き出した。


「えっ、何?また昨日の聖獣っていうやつなの?」

「うん。シフなんだぞ」

「この狼が?」

「うん、そうだよ」

「ふぅん…」

「ふむ。いい革紐に結わえてもらったのだな」

「うん」

「…あなた、これをルウェにあげたの?」

「ああ。そうだが」

「今、三名将の犬姫から貰ったものだって話をしてたんだけど…」

「その通りだが。これは吉野と私が契約を結んだときの依代として、こっちは吉野と我が妻のときのものだ」

「我が妻?夫婦ってこと?聖獣も結婚するの?」

「結婚もすれば、子を成すこともある。お前たち人間もそうであろう。なんら不思議なことではないはずだが」

「そうかもしれないけど…。でも…やっぱり不思議だよ」

「ふむ。お前はまだ、私たち聖獣のこと自体を信じられていないのではないか?」

「そう…だね。これが夢とも限らないし…」

「夢じゃないんだぞ」

「ふむ。しかし、夢でないことの証明は難しい。非日常的な何かが起こったとしても、それが夢であれば、何も問題はないからな。そのときは、次の目覚めを待てばいいだけだ。いつ目覚めるかは分からないが」

「…そうやって考えてるうちに、なんだかどうでもよくなっちゃうんだよね。何が現実で、何が夢なのか。まあ私は、はっきりと夢だと分かるまでは、どれだけ今までの現実を覆されようとも、現実だって思うことにしてるよ」

「それが一番現実的かもな」

「あはは。そうかもね」


シャルとシフは、二人で笑い合う。

自分には、どういうことかは分からないけど…。


「それで?この年代物の輪っかは何なのかしら?」

「八咫鏡の一部だ。周りを装飾していたものを取って、依代にしてくれた」

「八咫鏡?三種の神器の?実在するの?」

「まあな。今は、こちらの世界で保管されている。非常に危険な代物なんでな」

「そりゃ、百年大戦を一年で治めたって伝説があるくらいだしねぇ…」

「実際に神器を使ったのは、最後の三ヶ月だけだ。それまでは、いろいろと準備があって…」

「三ヶ月!?もっとすごいよ!」

「疲弊していたのだよ、永き戦に。人間も、聖獣も。神器の力で以てせずとも、そのうちに、どちらも消滅して戦は終わっただろうな」

「ふぅん…」

「でも、消滅なんて…イヤなんだぞ…」

「ああ。だから、三人の力で止めたのだ。不毛な戦いを」

「………」


でも、そんなのって哀しすぎるんだぞ。

なんで…なんで、争うのかな。


「………」

「………」

「はいは~い。じゃあ、暗い話はここまでよ。ルウェ、もう遅いから寝ましょうか」

「うん…」

「そんな顔しないの。どう?シフも一緒に寝る?」

「いや。私はただ、ハクの様子を見に来ただけで…」

「そんなこと言わないの。ちょっと狭いけど、我慢してね」

「ふむ…」


シャルはシフを強引に言いくるめて。

手早く布団を敷いていく。

座ってても頭が天井に付きそうなシフは、そのシャルの邪魔にならないように、忙しく前足を上げたり下げたりして。


「嫌な空気は寝て飛ばす。これが一番だよ」

「寝て飛ぶの?」

「飛ぶ飛ぶ。すごく飛ぶ」

「どういう理論なんだ…」

「細かいことは気にしない。それに、理論じゃなくて経験則だよ」

「………」

「あ、今ちょっと呆れたでしょ」

「いや、そんなことはないが…」

「じゃあ、いいんだけど」

「ふむ…」

「どうしたの?」

「誰かと一緒に寝るというのは久しぶりでな…」

「ハクとは寝てなかったのか?」

「夜に急用が出来て立ったりすることもあるから、起こさないようにと寝床は別にして…」

「えっ、そんなのダメだよ!ハクって、あの小さい子でしょ?ああいう年頃の子は、まだまだ親の温もりが必要なんだよ!」

「す、すまない…」

「ホントにもう…。分かってるの?」

「分かってるはいるのだが…」

「だが、何よ」

「い、いや…」


なんだか変なかんじ。

シフの方がずっと歳上なのに。

…でも、なんだか面白い。

本当の家族みたいで。

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