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お昼ごはんも食べ終わって、少し身体も動くようになった。

窓から広場を眺めていると、確かにもう準備はほとんど出来てるみたいで。


「明日はいよいよ祭りだな」

「うん。…月ってシフのことなの?」

「そうだな。私はもともとルウェだったから」

「え?」

「お前のところにもいるのだろう?月の使徒が」

「悠奈?」

「ふむ。ユウナというのか」

「うん」

「その子の姿を思い出してみろ。真っ白な狼だったろう」

「うん」

「私は少し灰掛かっているとはいえ、その子に似てはいないか?」

「うん、そういえば」

「まあ、そういうことだ」

「ふぅん。でも、なんで氷なの?」

「いろいろあるのだよ」

「いろいろ?」

「…吉野はもともとは氷の気質を持っていたのだが、どういうわけか、他にもたくさんの属性を携えていた。お前のようにな」

「ふぅん?」

「私はかつて、月の使徒として吉野に仕えていた。しかし、同じく吉野に仕えていた氷の司が、病弱だったこともあって急逝してしまったのだ。前の司は、才色兼備の灰色の狼であった」

「好きだったの?」

「まあな。…私と先代は夫婦であったからな」

「ふぅん」

「ははは。色恋には、まだ興味はないか」

「そういうわけじゃないけど。今、前のシフの話が出てきたとき、前に吉野って人との大切な約束があるって言ってたときと同じ目をしてたから」

「…よく、見ているのだな」

「姉さまが、誰かとお話しするときは、ちゃんと相手の目を見て話しなさいって言ってたから」

「そうか。…話を戻そうか」

「うん」

「先代が急逝したとき、いたく吉野は哀しんでいた。見ていられなくなるほどな。…もちろん、私も同じだったろう」

「うん」

「しかし、更なる問題は、氷の司の跡取りがいなかったということだった。先代と私の間には子がいなかった。まあ、司は世襲というわけでもないのだが、ハクやニカルの中にも適任の者はまだ育っていなかった」

「でも、なんでシフなの?」

「ああ。吉野はもともと氷の気質であったと言ったな?」

「うん」

「そして、私と先代は夫婦であった。…託されたのだよ、愛する妻から」

「でも、光と氷なんて…」

「ああ。容易いことではなかった。死の間際、先代から最期の形見である氷の気質を受け取り、吉野から足りない分を供給してもらう。口で言えばたったそれだけだが、身体に馴染むまで地獄のような日々を送った。そもそも、属性の転向自体、禁忌であるのに。ルィムナや、聖獣の長である迅とはかなり喧嘩したよ」

「仲直り出来たの?」

「なんとかな。そもそも、向こうが圧倒的に正しいのだ。禁忌である属性の転向までして、先代の跡を継ぐことはない。次代が出てくるまで迅が代理を務めるのだから…ということで」

「ふぅん」

「そういう取り決めもあったのだ。緊急時には司の代理は聖獣の長が務める、という。しかし、私は無理を押し通した。吉野にも、そのことは話さずに。…我が妻の遺言なのだ。私の代わりに、皆の行く末を見守ってくれ、と。聞かないわけにはいくまい…」

「うん」

「そうして、私は氷の司となった。いろいろいざこざはあったが、後悔はしてないよ」

「うん。…でも、なんでそんなことを話してくれたの?」

「似ているのだ、吉野に。まるで生き写しだ」

「ふぅん…」

「だから、話しやすかったのかもしれない」

「吉野も蒼龍だったの?」

「いや、白狼だった」

「それなのに、似てるの?」

「ああ。よく似ている」


大きな舌で舐められる。

相変わらず、ちょっと生臭くて。


「ふむ。そうだな…。少し待っていろ」

「……?」


シフはそのまま、氷の粒を散らして帰っていった。

少し待ってろってことは、すぐに戻ってくるってことかな。

…とりあえず、外を見る。

調理班の火はもう入っていないみたいで、みんなで集まって何かを話してるみたいだった。


「シフさま…。ずっと一緒にいてね…」


ハクが寝言を言ってる。

やっぱり、シフのことが好きなんだな。

…あと、やっぱり寂しいんだ。

ハク…。


「すまない。待たせたな」

「ううん…」

「ん?どうした?」

「ハクがね、寝言を言ってたの」

「ほぅ…」

「シフに、ずっと一緒にいてほしいって」

「そうか…。可哀想なことをしたと思っている。この子一人で奉公をさせてしまって…」

「そうじゃないんだぞ。ハクは、友達が欲しいって言ったんじゃない。シフに、一緒にいてほしいって言ってたんだぞ。そりゃ、友達も欲しいだろうけど…。でも、ハクは、それ以上に、シフのことが大好きなんだぞ」

「…そうか」

「だから、ずっと一緒にいてあげて?忙しいときもあるかもしれないけど…」

「…そうだな。これからは、もっとハクと過ごす時間を作ることにしよう」

「うん」


シフは静かに頷く。

それから、足下に置いてあったものに気付いて。


「そうだ、これだ。ルウェ、これを使ってやってくれないか?」

「何、これ?」

「私が吉野に仕えていたときの依代と、同じく私の妻の依代だ」

「えっ。でも、それって…」

「ああ。吉野の形見だがいいのだ。お前が使ってくれるのであれば」

「うーん…」

「ここに置いておくよ。使ってくれるのであれば、持っていってくれ。使わないのであれば、私に言ってくれ。持って帰るから」

「うん…」


そう言って、シフはまた消えてしまった。

…ふたつの輪っか。

これが何かは分からないけど、でも、シフにとってはすごく大切なもの。

自分が使ってもいいのかな…。

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