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「氷の気質?何それ?」

「よく分からないが、私やサンには大きな気質があるらしい。私のは特に大きいらしいが…」

「ふぅん。それで、何?」

「氷の気質は珍しくて、このあたりには滅多にいないそうだ」

「ふぅん…。まあ、お母さんもお父さんも、結構寒いところの生まれだしねぇ。それが関係してるのかもしれないね」

「…それで、ハクと契約を結ぶことになって」

「えっ、契約?規約はちゃんと読んだの?」

「そういう契約じゃないんだ」

「じゃあ、どういう契約なのよ」

「えっ?えっと…力を貸してもらう代わりに、住む場所を提供するとかなんとか…」

「何それ。契約書は?」

「そんなんあらへん。聖獣との契約ゆうんは、まあ口約束みたいなもんやし」

「あ、お帰りなさい」

「ただいま帰りました」


ちょうど、望とお兄ちゃんが帰ってきた。

これで、夕飯まであとはリュウとナナヤだけ。


「何の話をしてたんですか?」

「いやね、契約を結ぶとか、氷の気質がどうとか言うからさ」

「あぁ、契約ですか」

「知ってるの、望ちゃん?」

「はい。でも、お兄ちゃんの方が詳しいと思います」

「ふぅん。それで、どういう契約なの?」

「聖獣ゆうんは精神的な存在らしくて、オレらが普通にこうやってここに存在出来るようには存在出来んねん」

「なるほど、よく分からない」

「聖獣自体に存在する力はなくて、オレらに認識されて初めて、実体を得て存在することが出来るってことらしいわ」

「…まあ、とにかく、危ない契約じゃないのね?」

「諦めんなよ。しかしまあ、危ないねやったらオレも斡旋してへんわ」

「斡旋?そんな制度があるの?」

「まあな。斡旋者か契約者の紹介がないと、まず契約は出来ん。聖獣の存在を知ってるやつがそんだけ少ないってことやけど」

「結局、セイジュウって何なのさ?」

「聖獣は聖獣や。そういう生き物。オレらとは違う世界の住人やねんけどな」

「ふぅん…。やっぱり、よく分からないなぁ」

「…百聞は一見にしかず。望かルウェ、実際に見せたれよ」

「えっ?二人も契約してるの?」

「はい。…カイトは嫌がってるから、ルウェ、お願い出来る?」

「うん」


四人に聞いてみる。

すると、一人が応えて。

さっきの如月と同じように、ゆっくりと影が現れて、それが少しずつはっきりとしてくる。


「お呼びでしょうか、ルウェさま」

「うん」

「わっ、おっきな龍」

「えっ?」

「でや。これが聖獣や」

「今、どこから出てきたの?」

「どこからと言われましても…。申し訳ありませんが、向こうの世界からとしか説明のしようがないですね…」

「ふぅん。なんで喋れるの?」

「それは、あなたがなぜ喋れるのかを聞いているのと同様です。…ルウェさま、どういったご用件なのでしょうか」

「シャルに、聖獣の存在を信じさせるために出てきてもらったんや」

「はぁ、そうですか」

「もうええで、帰っても。デカくて邪魔やし」

「は、はぁ…」

「いいよいいよ。ちょっと狭いけど、せっかく来たんだし。ゆっくりしていきなよ」

「ありがとうございます」

「で、信じる気になったか?」

「まあ、ちょっとね」

「なんや、それは…」

「人は、今までの非日常を、そう易々とは受け入れられないものなんだよ」

「はぁ、そうでっか」


お兄ちゃんは肩を竦めて。

それを見て、シャルは笑っていた。

…シャルなら絶対、信じてくれるんだぞ。

薫のことも、ハクのことも。

みんなのことも。



少し外に出る。

貰った薬もなくなったけど、今日はちゃんと眠れる気がする。

ユゥクお兄ちゃんのお陰。


「夜風が気持ちいいね」

「うん」

「まあ、湯冷めしないうちに帰ろっか」

「うん」

「…ツカサとマオ、元気にしてるかな」

「昨日会ったんじゃないの?」

「うん、まあ。でも、迎えに来てくれた分隊と今日発つって言ってたから」

「どこに?」

「ベラニクを通ってヤマトに行くんだって」

「ふぅん。じゃあ、自分たちとは逆回りなんだぞ」

「そうだねぇ」


でも、ナナヤはあんまり気にしてない様子で。

のんびりと夜空を見ている。


「それにしても、不思議だよね、聖獣って。薫もそうだけどさ」

「不思議なのか?」

「不思議じゃない?」

「んー…」

「あはは、まあいいや。でも、いいなぁ。私も聖獣と契約してみたいよ」

「薫とかに聞いてみたら?」

「そうだね。また今度聞いてみるよ」

「うん」


広場の樹の前に来る。

もう屋台はほとんど出来ていて。

ナナヤが根元のところに座ったから、自分も座る。


「私ね、たこ焼きの担当なんだ」

「ふぅん」

「望とリュウは焼きそばなんだけどね」

「望、昨日失敗してたんだぞ」

「あ、聞いたよ。真っ黒のお煎餅になったんだって?」

「うん」

「水をケチるなんて、旅人らしいよね」

「そうなの?」

「うん。旅の途中では、なかなか補給出来ないしね」

「ふぅん…」

「でも、太っ腹だよね。お祭りの前に、こんな大々的に練習させてもらえるなんて」

「うん。ヤゥトは、一日前だけだった」

「それだけ、たくさんの人が来るってことなのかな」

「分かんない」

「そうだよね。でもまあ、ルイカミナも近いし、たくさん来るだろうなぁ」


ナナヤはまた上を見る。

でも、今度は葉っぱと枝しか見えない。


「もし」

「えっ?」

「サンという子を知らないだろうか」

「誰?」

「これは失礼」


樹の後ろの方から、薄い灰色の大きな狼が出てきた。

薫と同じくらいの、本当に大きな狼。


「私は"零下の氷剣"シフと呼ばれている。ハクを受け入れてくれた者を探しているのだが」

「サンは、今は寝てるんだぞ」

「そうか。では、日を改めることとしよう」

「シフ」

「ん?どうした」

「氷の龍脈が弱ってるってどういうことなの?」

「私にも分からない。とにかく、今は龍脈が乱れている。何もなければよいのだが」

「…シフが、この世界を守りたいと思う理由は何なの?」

「ははは。質問が多いのだな」

「ごめんなさい…」

「謝ることはない。知りたいと思うのは、聡明であることの証だ」

「……?」

「お前は将来、大物になるのかもな」


シフは、大きな舌で顔を舐めてくれた。

ちょっと生臭いけど、温かくて。

…ソウメイって何なのかな。


「私がこの世界を守りたいと思うのは、大切な約束があるからだ」

「約束?」

「ああ。遠い昔の約束だ」

「犬姫さまとの?」

「よく知っているのだな。…そうだ。吉野との、約束だ」

「………」

「どうだ。もう質問はないか?」

「うん。今は」

「そうか。では、私は帰ることにするよ」

「またね」

「…ああ。また会おう」


シフはそのまま、たくさんの氷の粒を散らして帰っていった。

…吉野って、犬姫さまのことなのかな。


「ルウェ、起きて」

「ぅん…。ん?」

「ごめんね。眠たかったんだよね」

「ううん。シフに会ってた」

「シフ?」

「うん」

「…まあ、もう帰ろっか」

「うん」


ナナヤに手を引いてもらって立ち上がる。

土を払って、家に向かって歩いていく。

…ハクは、いろんなところに行きたいって言ってた。

でも、この村も大好きだって言ってた。

サンはどうしてハクと契約したのかな。

ユタナより体力も少ないし、大変だろうと聞かされていても。

どうしてハクもサンを選んだのかな。

これからいろんなところへ旅に出るユタナより、まだこの村に留まるサンを選んだ。

シフの言ってた約束。

それと、何か関係がある気がする。

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