202
「ここに祈りを捧げ奉らん…」
「よし、引き上げろ」
「はぁい」
「そのまま、そのまま…止めろ」
道のときの何倍も太い注連縄が空中で止まった。
両側を縄で支えてるんだけど。
圭太郎が合図をして、他の場所の確認をする。
確認が終わると、次の合図を送る。
「屋根に結べ」
「はい」
屋台の上に登っていた人が、注連縄の端っこを受け取って、屋根の端にある楔に結ぶ。
それが終わったのを見てから、また合図を送って。
「よし、終わりだ。ご苦労さん」
「はぁ~、やっと終わりだぁ~」
「俺は報告を済ませてくるから、みんなはもう解散してくれていいぞ」
「へーい」
「サンもハクも、よく頑張ったな。ルウェもよかったぞ」
「えへへ」
「じゃあ、行ってくる」
サンのほっぺたを引っ張って、圭太郎はまた報告に行って。
サンはまた怒ってるけど。
「バカ圭太郎!バーカバーカ!」
「ねぇ、サン。圭太郎は、どこに報告に行ってるの?」
「えっ?えっと、月の神さまにだよ」
「そうなの?」
「うん。道の注連縄張りが終わりました、広場の注連縄張りが終わりましたって。他にも、屋台が全部揃いましたとか、材料の調達が出来ましたとか、お祭りに関わることは結構なんでも報告してるみたいだよ」
「ふぅん…」
「圭太郎、この村の神社の神主さんだから」
「えっ、そうなの?」
「うん。あんな無愛想な神主もないけどね」
遠くの方に見える圭太郎の後ろ姿に、あっかんべーをするサン。
それから、また何か文句を言って。
「あっ、そうだ。そういえば、なんでハクの姿がみんなに見えてたのかな」
「え、えっと、それは…」
「氷の龍脈が弱ってきているみたいねぇ」
「あ、タルニアお姉ちゃん」
「サン、今日は祓人だったのか」
「お姉ちゃん!」
「さっき圭太郎から聞いたぞ?よく頑張ってたって」
「うん!」
「あと、いつも通り五月蝿かったって」
「五月蝿くないもん!」
「はは、そうか。まあ、元気なのはいいことだからな」
「うん」
「ねぇ、お姉ちゃん。氷の龍脈が弱ってるって?」
「それは、如月がよく知ってるみたいだけど、ここじゃなんだし、家に戻りましょう」
「う、うん…」
みんなで一緒に帰っていく。
ハクは、また少し蒼褪めたみたいで。
大丈夫なのかな…。
「明日は大山車の飾り付けだな」
「うん。私たちは、どこの班に行くか分かんないけど」
「そうだったな。まあ、どこに行っても頑張るんだぞ」
「うん!」
すぐそこの家に戻って、二階に上がる。
それから、お姉ちゃんとユタナの部屋に入って。
「さぁて、話してもらいましょうか」
お姉ちゃんがそう言うと、スゥーッと影が出てきて、それが如月になった。
…出てくるのにも、光ったり影になったり、いろんな方法があるんだな。
「失礼いたします」
「………」
「早速ですが、本題に入らせていただきます。昼過ぎに"零下の氷剣"シフさまの下に行ってまいりました。そのときに聞いた話なのですが…」
「ええ。続けて」
「最近、龍脈が不安定らしくて…ルウェさまが廃坑で万金を拾われたのは、まだ記憶に新しいことかと思います」
「うん」
「私は知らないよ?」
「サン、今は口を挟まずに少し話を聞くんだ」
「はぁい…」
「万金は地の龍脈が活性化してる例ですが、今回はその逆。氷の龍脈が涸れてきてるんです」
「えっ、じゃあ、ハクは…」
「ええ。もう、この村に来れないかもしれませぬ」
「そんなっ!」
「ハクちゃん、気持ちは分かるけど、もう少し話を聞きましょう?」
「うぅ…」
「シフさまが、つい先日に聖獣の長であるクノさまへ詳しいことを調べる依頼をしたそうです。だから、これからは大々的な調査が入るでしょう。また、それとは別に、シフさまご自身も独自に調査してらっしゃるようで…」
「何か分かったことはあるのかしら?」
「はい。他の龍脈は分かりませぬが、氷の龍脈に関しては、この一ヶ月で急に衰えてきたのは分かっているそうです」
「そう…。龍脈がねぇ…」
「そんな…。じゃあ、ボクは…」
氷の龍脈が弱ってるから、ハクの力も弱ってる。
だから、自分たちやみんなに姿が見えるくらいの白霧しか使えなかった…ってことなのかな。
でも、今日のお昼過ぎにハクが帰ってくるまでは、自分とサンと、あとは七宝以外には見えてなかったのに…。
「しかし、聖獣というのは、この世界とは別の場所に、自分たちの世界があるのだろう?なんで、この世界の龍脈の調査などするんだ?」
「…理由は、私たちそれぞれで違うものを持っているでしょう。興味の探究であったり、なんらかの理由でどうしても知りたかったり。しかし、私たちはみんな、関係の深い隣人の危機を見過ごせないのです。かつて、いろいろあったようですが…それであっても、守りたいんです、この世界を」
「………」
「昔のしがらみを知る者も、私たちの世界でも、もうほとんどいません。今はまだ見極める時期でまだまだかなり限定的ですが、伝承や伝説ではなく、実際に私たちを知る者も、こうして少しずつ増えてきて、そして、良き関係を築いていっております。だから、託そうと思うのです。かつて実現出来なかった夢を、この子たちに。…それは、この世界を守る理由にはならないでしょうか」
「…いや、充分だよ。ありがとう」
「いえ」
「聖獣たちは、私たち…この世界に住む私たちよりも、この世界の住人らしいのだな」
「………」
ユタナは、如月をギュッと抱き締めて。
でも、そのユタナの顔は複雑だった。
(ハク!あったよ!氷の気質が…って、うわっ!?)
「……?」
(わぁ…)
「なんだ、私の顔に何か付いてるのか?」
「そうではありません。…私も気になっていたのですが、あなたは非常に大きな氷の気質を持っているようですね」
「氷の気質?」
「はい」
ユタナは氷の気質を持ってるの?
じゃあ、ハクと契約出来る…のかな?
そうだったら、もしここの氷の龍脈がなくなっても…。




