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「それ、引っ張れ!」
「よーいしょ!」
しばらく引っ張り合いをして、圭太郎から合図があったのを確認してから楔に結びつける。
ふぅ…。
「集合、集合~」
「はぁい」
いつまでも祈祷を続けてるサンの手を引いて、圭太郎のところに向かう。
七宝もちゃんとついてきて。
「よし、集まったな。…道の注連縄張りはこれで終わりだ。次、他の区画も終わってから広場の注連縄張りに移るから、まあ…しばらく休んでいてくれ」
「よーし、終わり終わり」
「まだ終わってねぇぞ」
「へーい」
「祓人はそのままその格好でいてくれ。詞は回収する」
「えぇっ!」
「お前のはいい。どうせ、俺が作ったやつだし。五月蝿いし」
「五月蝿くないもん!」
「はいはい。とにかく、他のところもそんなに時間は掛からないはずだから、すぐに戻れるようにしておけよ。じゃあ、解散」
圭太郎が手を振ると、みんな思い思いの方へ散っていって。
サンは、詞が書いてある巻物を大事そうに丸めている。
「おぅ、サン。どうだった、念願の祓人はよ?」
「楽しかった!」
「そうか。よかったな」
「うん!」
「広場の詞は道のよりも難しいからな。ゆっくりでいいから、噛まずに言えよ」
「噛まないもん」
「そうか。じゃあ、頼んだぞ」
「うん」
「ケイちゃん」
「分かってる。サン、ルウェ、またあとでな。俺は報告を済ませてくるから」
「うん。またね」
手を振ってから、圭太郎と妙子お姉ちゃんと別れる。
それから、サンと一緒に広場に戻る。
(ねぇ、ハクは戻ってこないのかな)
「どうかな。分からないけど」
(もっとお話したかったな…)
「また来るよ、きっと」
(うん)
「あっ、あれ」
「え?」
サンが指差す方。
広場の樹の根元に、白い服を着た女の子が座っていた。
「ハク!」
「えっ?あ、ルウェにサン」
「早かったね。怒られなかった?」
「う、うん…。如月って人が、シフさまに話してくれて…」
「如月が?どうして?」
「分からないけど…。でも、なんでかは分からないけど、よく考えもしないで怒ってごめんなさいって謝ってくれて…」
「ふぅん…」
「分かったのかな、如月は」
「たぶんね」
「えっ?何の話?」
「さっき、お姉ちゃんに怒られてたんだ。あ、お姉ちゃんっていうのは、契約主なんだけど」
「怒られてた?なんで?」
「分からないけど、ハクがイタズラをするドウキがどうとか…」
「ボクがイタズラをする動機?そりゃ、楽しいからだけど…」
「うん。でも、別の理由があるみたい」
「ふぅん…?自分のことなのに、なんか変なの」
ハクは不思議そうに首を傾げる。
…ハク自身も分からないなんて、じゃあ、ドウキって何なんだろ。
(ねぇ、ハク)
「ん?」
(ハクって、白霧と変化以外にも術式は使えるの?)
「んー。あとは氷牙の術式くらいかな…」
(へぇ~)
「七宝はどうなの?」
(クーは、白霧と変化と…あと、転移が使えるよ)
「へぇ、転移。ボクはまだ練習中で、上手く使えないんだ」
(結構簡単なんだよ。でも、知らない場所に行くときは、かなり難しくなるけど)
「ふぅん。コツとかはあるの?」
(出来るだけ、はっきりと行きたい場所を思い描くことかな。あと、距離が離れるときは、少しずつ中継する方がいいんだよ)
「そうなんだ。ボク、この村から離れたことないから…。もっといろんなところに行って、もっといろんなものを見てこないといけないんだね」
(うん。実際に見てくるのが一番確実だよ)
「えへへ。ありがと、いろいろ教えてくれて」
(ううん。いいの)
「でも、このあたりは、この村にしか氷の龍脈がないから…」
(そっか…。氷の気質を持ってる人も少ないもんね…。あっ)
「え?」
(ルウェなら、持ってるかもしれないよ!)
「え、えぇ…?確かに、いろんな色は見えるけど…」
(ちょっと探してくるね!)
「えっ、あ、七宝?」
そして、七宝はすぐに消えてしまった。
…探してくるって、探せるようなものなのかな。
いろんな色を持ってるなんて、自分では分からないし…。
「そういえば、ハクって変化も使ってるの?」
「うん。本当は灰色の狼だよ」
「ふぅん。なんで変化を使ってるの?」
「えっ?えっと…その方が、こっちのみんなと一緒に遊べるから…。狼って怖いでしょ?」
「そうかな?」
「うん…」
「明日香も怖くないもんね?」
「うん。たぶん、ハクがそう思ってるだけなんだぞ」
「で、でも…」
「おい、お前ら。東の班も帰ってきたし、そろそろ準備しとけよ」
「はぁい」
圭太郎はちょっとだけ頷いて。
それから、ハクの方を見る。
「それで、お前は誰だ?」
「えっ?」
「この子はハクだよ、バカ圭太郎」
「そうか。まあ、祓人の着物を着てるならちょうどいい。広場の注連縄張りを手伝ってくれ」
「う、うん…」
「サンも、抜け出すんじゃないぞ」
「抜け出さないよ!」
「ははは。そりゃ安心だ」
「むぅ…」
圭太郎にガシガシと頭を撫でられて、少し嫌そうな顔をするけど。
それから、またあっかんべーをして、どこかへ飛んでいってしまった。
「じゃあ、全員帰ってきたら、また報せるから。そしたら、広場の南側に来い。さっき戻ってきた道だ。分かるよな」
「うん」
「ハクもよろしくな」
「あ…うん…」
圭太郎は軽く手を振ってから、屋台の間を抜けて広場の向こうに行った。
ハクを見ると、少し蒼褪めていて。
…なんで、ハクの姿が圭太郎にも見えたのかな。
白霧の術式を掛け忘れたのかな…?




