20
「夏月!右!」
「よっと」
「うっ…」
「龍兵!下りた!」
「了解!」
「くそっ…!」
「回れ回れ!」
「逃がさないよぉ」
「はっ…はっ…」
「行ったぞ!」
「やぁ!」
「うわぁ!」
「捕まえたんだぞ!」
「よっしゃぁ!」
これで五人目。
"当たり"の交代なんだぞ。
「広場に戻ろう」
「こうたい~」
「もう五人捕まえたのかよ…」
「へへっ、余裕だぜ」
「よゆう~」
「はぁ…。そんなかんじはしてたんだよな…」
「連携の勝利だね」
「おぅ!」
連携。
みんなと協力して捕まえたんだ。
そう思うと、なんだか嬉しくて。
「あ、わらってる~」
「うん!」
「へへっ」「ふふふ」
みんな楽しく笑顔で。
それが一番だよね!
「おーい。捕まったか~?」
「おぅ」
「じゃあ、交代だね」
「鉢巻きを」
「うん」
髪紐の代わりにしていた鉢巻きをほどいて、次の"当たり"に渡す。
「んー」
「……?」
「へへっ。結ばない方が、やっぱり可愛いなって思ってさ」
「か、可愛い…」
「おぅ。俺は、結ばない方が好きだぜ」
「……!」
こ、これからは、絶対に結ばないんだぞ!
自分との約束!
「準備良いな」
「うん」「いいよ~」
「よし、交代だ!」
みんな、一瞬でどこかへ散っていく。
自分も早く…
「ルウェ、一人で大丈夫か?」
「うん。大丈夫になってきたみたい」
「へへっ、そりゃ良かった。じゃあ、お互いに頑張ろうぜ」
「うん!」
そして、祐輔は幹を伝って上へ。
…自分は下に行こうかな。
うん、それが良い。
「ルウェ、頑張ってね」
「うん。ありがと」
「初心者だからといって、手は抜かないから」
「望むところなんだぞ」
「行ってらっしゃい」
「行ってきます!」
幹に絡み付いた蔦を頼りに下へ。
うぅ…やっぱり怖い…。
鷹…鷹になるんだぞ…。
途中の太い枝のところにあった、大きな穴の一番奥でうずくまっていると
「誰かいないかな~」
誰かの声が近付いてきた。
ここにいたら捕まる…!
音や声を頼りに、その誰かが木の裏に回ったときを狙って穴から飛び出す。
とにかく、前へ進む。
もちろん枝は細くなっていって。
「あっ!ルウェ、め~っけた!」
「うぅ…」
あの枝に…。
と、跳べるかな…。
ううん…跳べるんだぞ…!
"当たり"のときは出来てたんだもん!
祐輔もいたけど…。
「やぁっ!」
意を決して、隣の木の枝に跳び移る。
距離は短くて、ほとんど跨ぐくらいだったんだけど。
「あっ!ルウェ!」
「え…?」
気付いたときには、元いた枝は遥か遠くにあって。
気持ちの悪い浮遊感と、景色が流れていってるのを見て、落ちてるんだと分かった。
「……!」
「"風"!ルウェ、"風"!」
ない。
ないんだぞ。
"風"が。
"風"…!
「はぁっ!」
「……!」
何が起きたのか、一瞬分からなかった。
でも、次の瞬間、目の前にいたのは…
「祐輔!」
「………」
枝のひとつに着地し、ゆっくりと下ろしてくれて。
「大丈夫か?」
「う、うん」
「良かったぁ」
そう言って、優しく抱き締めてくれる。
祐輔はとても温かくて。
でも、自分はもっと火照っているのが分かった。
嬉しいのと恥ずかしいのと、あと…
「うっ…うぅ…怖かった…」
「うん。ごめんな」
「うぅ…うえぇ…」
「大丈夫。今は俺がついてるから」
「うん…うん…」
強く、強く。
この震えが消えるまで。
結局、祐輔と一緒に行動することになった。
「ほら。こっちに来てみな」
「うぅ…」
「大丈夫。怖くないから」
「うん…」
思い切って、祐輔のいる枝に跳ぶ。
着地の直前、さっきの記憶が蘇る。
「よっと」
「はぁ…はぁ…」
「へへっ、頑張ったな」
「うん…!」
でも、その記憶は、祐輔の乱暴な撫で方に掻き消されて。
「よし、次に行こう」
「うん!」
次第に、ひとつの恐怖はたくさんの楽しさ、嬉しさに埋もれていって。
「…ごめんな」
「何が?」
「まだ高いところが怖いってことに気付いてあげられなくて…」
「ううん。あのときは、本当に怖いって思ってなかったんだ」
「なんで?」
「…ふふ、内緒なんだぞ」
「えぇ…気になるなぁ…」
「ふふふ」
やっぱりそう。
祐輔がいるから、怖くないんだ。
高いところも、枝を跳び移るのも。
なんでなのかな。
祐輔といると、優しい気持ちになれる。
ほんわり温かい。
「ん?どうした?」
「えへへ、なんでもないんだぞ」
「へへっ、そうか」
何か分からないけど、嬉しいから。
その嬉しさを祐輔と一緒に感じていたいから。
だから、抱き締めた。