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「夏月!右!」

「よっと」

「うっ…」

「龍兵!下りた!」

「了解!」

「くそっ…!」

「回れ回れ!」

「逃がさないよぉ」

「はっ…はっ…」

「行ったぞ!」

「やぁ!」

「うわぁ!」

「捕まえたんだぞ!」

「よっしゃぁ!」


これで五人目。

"当たり"の交代なんだぞ。


「広場に戻ろう」

「こうたい~」

「もう五人捕まえたのかよ…」

「へへっ、余裕だぜ」

「よゆう~」

「はぁ…。そんなかんじはしてたんだよな…」

「連携の勝利だね」

「おぅ!」


連携。

みんなと協力して捕まえたんだ。

そう思うと、なんだか嬉しくて。


「あ、わらってる~」

「うん!」

「へへっ」「ふふふ」


みんな楽しく笑顔で。

それが一番だよね!


「おーい。捕まったか~?」

「おぅ」

「じゃあ、交代だね」

「鉢巻きを」

「うん」


髪紐の代わりにしていた鉢巻きをほどいて、次の"当たり"に渡す。


「んー」

「……?」

「へへっ。結ばない方が、やっぱり可愛いなって思ってさ」

「か、可愛い…」

「おぅ。俺は、結ばない方が好きだぜ」

「……!」


こ、これからは、絶対に結ばないんだぞ!

自分との約束!


「準備良いな」

「うん」「いいよ~」

「よし、交代だ!」


みんな、一瞬でどこかへ散っていく。

自分も早く…


「ルウェ、一人で大丈夫か?」

「うん。大丈夫になってきたみたい」

「へへっ、そりゃ良かった。じゃあ、お互いに頑張ろうぜ」

「うん!」


そして、祐輔は幹を伝って上へ。

…自分は下に行こうかな。

うん、それが良い。


「ルウェ、頑張ってね」

「うん。ありがと」

「初心者だからといって、手は抜かないから」

「望むところなんだぞ」

「行ってらっしゃい」

「行ってきます!」


幹に絡み付いた蔦を頼りに下へ。

うぅ…やっぱり怖い…。

鷹…鷹になるんだぞ…。



途中の太い枝のところにあった、大きな穴の一番奥でうずくまっていると


「誰かいないかな~」


誰かの声が近付いてきた。

ここにいたら捕まる…!

音や声を頼りに、その誰かが木の裏に回ったときを狙って穴から飛び出す。

とにかく、前へ進む。

もちろん枝は細くなっていって。


「あっ!ルウェ、め~っけた!」

「うぅ…」


あの枝に…。

と、跳べるかな…。

ううん…跳べるんだぞ…!

"当たり"のときは出来てたんだもん!

祐輔もいたけど…。


「やぁっ!」


意を決して、隣の木の枝に跳び移る。

距離は短くて、ほとんど跨ぐくらいだったんだけど。


「あっ!ルウェ!」

「え…?」


気付いたときには、元いた枝は遥か遠くにあって。

気持ちの悪い浮遊感と、景色が流れていってるのを見て、落ちてるんだと分かった。


「……!」

「"風"!ルウェ、"風"!」


ない。

ないんだぞ。

"風"が。

"風"…!


「はぁっ!」

「……!」


何が起きたのか、一瞬分からなかった。

でも、次の瞬間、目の前にいたのは…


「祐輔!」

「………」


枝のひとつに着地し、ゆっくりと下ろしてくれて。


「大丈夫か?」

「う、うん」

「良かったぁ」


そう言って、優しく抱き締めてくれる。

祐輔はとても温かくて。

でも、自分はもっと火照っているのが分かった。

嬉しいのと恥ずかしいのと、あと…


「うっ…うぅ…怖かった…」

「うん。ごめんな」

「うぅ…うえぇ…」

「大丈夫。今は俺がついてるから」

「うん…うん…」


強く、強く。

この震えが消えるまで。



結局、祐輔と一緒に行動することになった。


「ほら。こっちに来てみな」

「うぅ…」

「大丈夫。怖くないから」

「うん…」


思い切って、祐輔のいる枝に跳ぶ。

着地の直前、さっきの記憶が蘇る。


「よっと」

「はぁ…はぁ…」

「へへっ、頑張ったな」

「うん…!」


でも、その記憶は、祐輔の乱暴な撫で方に掻き消されて。


「よし、次に行こう」

「うん!」


次第に、ひとつの恐怖はたくさんの楽しさ、嬉しさに埋もれていって。


「…ごめんな」

「何が?」

「まだ高いところが怖いってことに気付いてあげられなくて…」

「ううん。あのときは、本当に怖いって思ってなかったんだ」

「なんで?」

「…ふふ、内緒なんだぞ」

「えぇ…気になるなぁ…」

「ふふふ」


やっぱりそう。

祐輔がいるから、怖くないんだ。

高いところも、枝を跳び移るのも。

なんでなのかな。

祐輔といると、優しい気持ちになれる。

ほんわり温かい。


「ん?どうした?」

「えへへ、なんでもないんだぞ」

「へへっ、そうか」


何か分からないけど、嬉しいから。

その嬉しさを祐輔と一緒に感じていたいから。

だから、抱き締めた。

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