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武具とお金は、とりあえず一緒に置いてあった袋にしまい。
狼の姉さまの言う通り、広場へ行った。
高く昇った月は、広場を明るく照らしていて。
「あ…」
「来たか」
「うん」
「すまなかったな。別れを言う時間もあげられなくて…」
「いいんだ。みんなにいろいろ貰えたし…」
「…ほら、こっちに来い」
言われるまま、狼の姉さまのところまで行く。
狼の姉さまはこっちに振り向いて、探るように手を伸ばす。
「自分はここにいるよ」
その手を掴むと、狼の姉さまは優しく引き寄せて、抱き締めてくれた。
喉の奥が苦かったけど、もう決めたから。
狼の姉さまと約束したから、泣かなかった。
「…ありがとう」
「狼の姉さまにお礼を言われるようなこと、自分はしてないんだぞ」
「…そうかもな」
もう一度、強く抱き締めると、狼の姉さまは離れて
「ここで待つんだ。夜が明けるまでに、次にするべきことが見えてくる。そして、そこからはルウェの思う通りに進むんだ。ときどき立ち止まってもいい。でも、真っ直ぐ前だけを見て。後ろを振り返っちゃダメだ」
「約束…狼の姉さまとの約束…」
「ああ。約束。増える一方で申し訳ないんだが」
「ううん。自分、嬉しいんだ。狼の姉さまと約束出来るの」
「ふふ、そうか。じゃあ、もうひとつ、約束してくれるか?」
「うん!」
「…家族の温かさを忘れないこと。風華やセト、葛葉はもちろん、村の人たちやこれから出会う仲間たちの温かさも」
「家族の温かさを忘れない」
「そうだ。じゃあ、今まで約束したこと、もう一回繰り返してくれるか?」
「うん。心を強く持つ。もう泣かない。真っ直ぐ前へ進む。家族の温かさを忘れない。だよね!狼の姉さ…ま…」
狼の姉さまはどこにもいなかった。
前にも後ろにも。
右にも左にも。
…でも、また会えるような気がした。
約束を守っていれば、必ずまた会えるんだ。
ぅん…。
ん…?
「あれ…?」
寝てたのかな…。
空はまだ暗くて、綺麗な星が見えていた。
そうだ、セトの袋は…。
「………」
「………」
「ウゥ…」
「あぅ…」
足下を見ると、白い狼が袋をくわえていて、目が合うと唸り始めた。
「は、離すんだぞ!これは…これは大切なものだから!」
「ウゥ…」
「離せ…!離せぇ!」
「明日香。離しなさい」
「………」
「だ、誰!?」
声のした方を見ると、黒い狼がいた。
狼の姉さまとは違う、でも、同じ空気。
「ごめんね。怪我、してない?」
「う、うん…」
「………」
「うぅ…」
「大丈夫だよ。普段は大人しい子だから。今は、お腹が空いて気が立ってるだけ」
「………」
白い狼はこっちをチラリと見て、森の奥へ戻っていった。
「はぁ…」
「ごめんね。怖がらせちゃって」
「ううん…」
「あなた、お名前は?」
「…ルウェ」
「ふぅん。ルウェ」
黒い狼は、ゆっくりと近付いてきて…
「……!」
「私は望。よろしくね」
「の、望…」
「あれ?こういうのは初めてだった?」
「う、うん…」
望は、くっつけていた額を離して、決まりが悪そうに笑う。
「ルウェから狼の匂いがしたから、知ってるのかと思っちゃった…」
「きっと、狼の姉さまの匂いなんだぞ!」
「狼の姉さま?」
「うん!いっぱい、約束したんだ!」
「へぇ~」
「心を強く持つ。もう泣かない。真っ直ぐ前へ進む。家族の温かさを忘れない。この四つ!」
「そっか。その約束、ちゃんと守らないとね」
「うん!」
約束…。
また狼の姉さまに会うための…。
また村に帰るための…。
「そういえば、ルウェはなんでここにいるの?」
「狼の姉さまに言われたんだ。ここで待ってたら、やることが分かるって」
「ふぅん…」
「あっ!」
「な、何?」
「望!」
「え…?」
「きっと、望のことなんだぞ!」
「そ、そうなの?」
きっと…ううん、絶対そう!
望!
「そうだ!望は、これからどうするんだ?」
「予定はないけど…」
「どういうこと?」
「私、明日香と一緒に旅から旅の生活をしてるの」
「ふぅん…?」
「だから、どこに行くとか、そんなのは決まってないんだ」
「自分、望に付いていくんだぞ!」
「え、えぇ…。決断、速いんだね…」
「うん!」
「…分かったよ。じゃあ、一緒に行こっか」
「よろしく!望!」
「うん。よろしくね、ルウェ」
望…望…。
新しい家族、なんだぞ。
この温かさ…忘れない…。
…早速、旅の道連れが決定しました。
ルウェって、決断が素早いんですね。
その真っ直ぐなところ、羨ましいです。




