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「四方の陣」

「はい」

「サン、祈祷」

「はぁい」


サンは膝をついて、祈祷を始める。

それから、栄太お兄ちゃんからまた合図が出て、一歩ずつゆっくりと前に進んでいく。


「前の二人と後ろの二人が交互に並んで。注連縄の前で止まる」


指示通りに並んで、注連縄の前で止まる。

栄太お兄ちゃんが注連縄を持って、鉤に掛ける。

次の合図で自分たちも注連縄を持つ。


「圭太郎からの合図で引っ張るからな」

「うん」


圭太郎がいる、道の真ん中の方を見る。

圭太郎は手を挙げて、様子を窺っている。

そして、手を下ろした。


「それ、引っ張れ!」

「よいしょ!腰入れろよ!」


自分も一所懸命に引っ張るけど、向こうの方もすごく引っ張るから、もっともっと引っ張らないといけなくて。

しばらく引っ張り合いが続いたあと、また圭太郎から合図があった。

そしたら、一番後ろにいた栄太お兄ちゃんが楔に注連縄を結んで、しっかりと固定する。


「よし。じゃあ、集合」

「はぁい」

「サン、集合だ」

「祈祷しながら寝てるんじゃないか?」

「寝てない!」

「それなら早くこっちに来い」

「むぅ…」

「圭太郎がまた来て説明すると思うし、みんな分かってると思うけど、今日はルウェもいるから改めて確認しとくよ。今、この道の注連縄張りは終わったけど、次はもうひとつ向こうの道、その次はまた向こうと、全部の大きな道に注連縄を張っていくんだ」

「うん」

「東西南北の四つの区画に分かれてるんだけど、僕たちは南だね。南には五つ道路があるから、昼すぎくらいには終わると思う」

「終わったらどうするの?」

「広場の周りに三重に注連縄を張るんだ」

「ふぅん」

「ちなみに、道の注連縄は神さまの通り道を示すためのもので、広場の周りの注連縄は月人の祈りをちゃんと神さまに届けるためのものだよ」

「そうなの?」

「うん」

「おーい、お前ら。次に行くぞ」

「あれ、圭太郎、説明しないのか?」

「どうせお前がしたんだろ。さっさと終わらせるぞ」

「だってさ。じゃあ、行こうか」

「はぁい」


栄太お兄ちゃんについていく。

サンも、ハクを連れてついてきて。


「ねぇ、ハク。さっき思ったんだけどさ、私の祈祷はシフに届いてるの?」

「届いてると思うよ」

「ホント?」

「たぶん」

「たぶんって…」

「だって、シフさまに聞かないと分かんないし」

「なぁんだ…」

「でも、一所懸命やれば届くと思うよ」

「ふぅん…」

「信じてないの?」

「だって、分かんないって言ったばかりじゃない」

「そりゃそうだけど…」

「でも、一所懸命やってれば、本当に届くと思うんだぞ。一所懸命やれば、絶対にみんなにも伝わるって姉さまも言ってたし」

「姉さま?」

「うん」

「ふぅん。優しいお姉ちゃんなの?」

「優しいけど、怒ったら怖いよ」

「あはは。それはみんなだと思うよ。シフさまだってそうだもん」

「そういえば、今日は帰らなくてもいいの?」

「うん。もうどうせ怒られるんだったら、思いっきり楽しんでからにしようって思って」

「ふぅん…」

「でも、そういえば、なんでみんなには見えないの?」

「ボクは、なんで二人には見えるのかが不思議だよ」

「なんでって言っても、見えるものは見えるもんね?」

「うん」

(姿隠しが不完全なんじゃないの?)

「わっ!金狐!」

「あ、七宝」

「え?七宝?」


急に七宝が出てきた。

七宝は大きな欠伸をすると、トコトコとついてきて。

なぜか、ハクはサンの後ろに隠れて震えてるけど。

サンはサンで、不思議そうな顔で七宝を見ている。


「ねぇ、この狐、どこから出てきたの?」

「どこって…どこ?」

(向こうの世界から)

「向こうの世界…?」

(うん。聖獣が住んでる世界)

「あぁ…。また聖獣か…」

「うん。聖獣だよ」

「うぅ…」

「あれ?どうしたの、ハク?」

「金狐は苦手…。変化も白霧も上手いし…」

(それは赤狐の話でしょ?)

「そうなの?」

(うん)

「でも、あの人も金狐だし…」

(あの人?)

「ねぇ、ハクムって何?変化は聞いたことあるけど…」

(えっ?あぁ、姿隠しだよ。白い霧に隠れるように姿を消すから、そう呼ばれてるんだ)

「ふぅん…」

(でも、クーも練習中だから、あんまり上手く使えないよ)

「えっ、そんなちっちゃいのに、もう白霧を使えるの?」

(むぅ…。ちっちゃいは余計だよ…)

「ご、ごめん…」

「白霧ってどんな術式なの?使ってみてよ。ハクのじゃ分かんないし」

「うぅ…。スミマセン…」

(んー…。練習中だから、あんまり上手く出来ないよ?)

「いいからさ。お願い」

(じゃあ、ちょっとだけ…)


七宝は立ち止まると、目を瞑った。

すると、足下から白い霧が出てきて、七宝を包み込む。

その霧が晴れると、七宝の姿はなくて。


「わっ、ボクより上手い!」

「そうなの?」

「うん!」

(はぁ~…)


大きく息を吐く声が聞こえたかと思うと、七宝がまた出てきた。

身体を震わせてから、もう一度ため息をついて。


(ふぅ…。クーは、姿は消せても維持が出来ないんだ…。まだまだ練習中…。琥珀なら、もっともっと上手いんだけど…)

「あ、そうだ。琥珀、どうしてるの?」

(え?たまに一緒に遊んだりしてるよ)

「そうなの?じゃあ、こっちに来てくれてもいいのに」

(だって、クーたちが起きてる間はルウェは寝てるし、ルウェが起きてる間はクーたちは寝てるし。今日は、如月に起こされたけど…)

「如月?なんで?」

(昼間に寝たりなんかして、主に仕えているという自覚がないのかって言われて…)

「ふぅん…。大変だね」

(うん…。でも、如月は正しいことを言ってるから)

「そっか」

「ねぇ。さっきから琥珀とか如月とか、誰なの?」

「琥珀は自分と契約してる赤狐で、如月はお姉ちゃんと契約してる九尾の金狐だよ」

「契約?」

「うん。契約」

「また私の知らない世界が…」

「あれ?ハク、どうしたの?」

「九尾の金狐…。それに如月って…まさか、あの狐!?」

「わっ、ビックリした」

「ど、どうしよ…。怒られる…」

「ハク?どうしたの?大丈夫?」

「ね、ねぇ、その契約主ってどこにいるの?」

「え?さっき、お姉ちゃんは北の区画にいるって言ってたから…」

「えっ!この村にいるの?」

「まあ…」

「わわっ!じゃあ、またね!」

「え、えぇ?」


そしてハクは、またキラキラ光る氷の粒を残して消えてしまった。

…どうしたんだろ。

如月に怒られるって…。

何かあったのかな。

まあ、またあとで聞いてみよう。


「おーい、どうしたんだ。早く来いよ」

「あ、うん」

(何だったのかな)

「さあ?でも、如月に怯えてたみたいだったよね」

「うん。如月が誰かは知らないけど、何かあったのかな」

(たぶんね)


まあとにかく、みんなが待ってるところに急ぐ。

本当に、何だったんだろ。

ちょっと気になるんだぞ。

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