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夕方になると、やっぱりすぐに準備は終わって。
月と何か関係あるのかな?
家に戻ると、美味しそうな匂いがしていて。
「オゥ、サン、ルウェ。お帰りなさい。もうすぐ夕飯だぞ」
「ただいま~」
「あっ、お父さん!」
「サン。今日は帰ってきたよ」
「むぅ…。でも、昨日は帰ってこなかったじゃない」
「反省してます…」
「お姉ちゃんが帰ってきたのに!」
「ん?サン。帰ってきたのか」
「お姉ちゃん!」
ちょうどユタナが入ってきた。
サンはすぐに、ユタナのところに駆け寄っていって。
「今年の月人だって?みんなから聞いたぞ」
「うん!」
「オゥノー…。サンが許してくれないのだが…」
「それは父さんが悪いんだろ?私には、いかんともしがたいよ」
「そうだよ!」
「ははは…。二人とも、お母さんそっくりになってきましたねぇ…」
「親子は似ると言うからな」
ユタナはサンを抱き上げて、頭を撫でる。
サンも嬉しそうに翼をはためかせて。
「そういえば、アルヴィンは?」
「アルは自分の家に帰ってるよ」
「ここは?」
「そうだな。ここもアルの家だ。でも、アルは結婚してるから、自分の家を持ってるんだ」
「結婚したら、家が貰えるのか?」
「まあ、望めばな。村の空き家を貸してもらえる」
「ふぅん…。でも、なんでユタナも知ってるの?」
「住むところは違えど、私もここの村の者だ。それに、前にも言ったと思うけど、手紙のやり取りもしてたからな。村のことは、ある程度知ることが出来たよ」
「ふぅん」
「それにしても、アルが皐月姉さんと結婚するとは思わなかったな」
「お姉ちゃん、昨日も言ってたの」
「ん?そうだったかな」
「うん」
「お父さんは聞いてなかったな」
「………」
「オゥ…。ソーリィ…」
「ふん」
「あーあ。サンを怒らせて。この家じゃ生活出来ないねぇ」
「お、お母さん…」
「ルウェ、サン。みんなを呼んできて。ユタナとお父さんはこっちの手伝い」
「はぁい」「うん」
「じゃあ、行こ」
「うん」
サンと一緒に二階へ。
みんなを呼びに行く。
夕飯も終わって、お風呂にも入って。
部屋で、なんとなく外を見ていた。
「夕方になったら準備を中止するのは、月に準備してる姿を見せないためなんだって」
「え?なんで?」
「月はすごく心配性で、たとえば、夜遅くまでみんながお祭りの準備をしてるのを見ると、哀しくなるんだってさ。自分のために、こんなに働かせてしまって…って」
「ふぅん…」
「まあ、その月がホントにいるかどうかは分からないけど」
「いないの?」
「うーん…。お兄ちゃんは、聖獣だろうって。ルィムナとか」
「ルィムナは…どうなのかな」
「ルウェは知ってるんだったっけ」
「うん」
「どんな人なの?」
「優しい人なんだぞ」
「そっか。じゃあ、本当なのかもね」
「どうなのかな」
「えっ?」
「悠奈もいないし聞けないけど、たぶんルィムナじゃないと思う」
「どうして?」
「んー、分かんない」
「えぇ…」
でも、違う気がする。
なんでだろ。
ちょうど前に見える月を見る。
ルィムナ…じゃない。
もっと、別の…。
「あっ」
「え?」
「誰か、いる」
「どこに?」
「あそこ」
「んー…?」
広場の樹の根元のところに。
誰かが座ってる。
「誰かいる?」
「うん。樹の根元のところ」
「……?」
「いるよ…?」
「目が悪くなったのかな…」
「いないの…?」
「私には、何も見えないよ?」
「えっ…?」
でも…今もいるよ?
樹のところで座ってて…。
「ちょっと行ってくる」
「えっ、どこに?」
「あそこ!」
部屋を出て階段を降りると、サンもちょうど部屋から出てくるところだった。
奥に見えたユタナは、不思議そうな顔をしていて。
「もしかして、ルウェも見えたと言うのか?」
「うん。いたよ」
「いるよね」
「うん」
「はぁ…。仕方ないな。行ってこい」
「ありがと、お姉ちゃん」
サンと一緒に外に出て。
そして、一直線に樹を目指す。
途中、振り返ってみると、望とユタナがこっちを見ていた。
そして、樹のところに着く。
「この辺?」
「うん」
「あっ、いた」
正面から少し横のところに、座っていた。
白い服を着た、女の子。
目を瞑ってて…眠ってるのかな。
「ねぇ、ちょっと」
「サ、サン…。寝てるみたいだし…」
「んぅ…」
「起きて」
「んー…」
目を擦って欠伸をする。
それから、なんとなく面倒くさそうにこっちを見て。
「何…?」
「あなた、誰?」
「ふぁ…」
「ねぇってば!」
「んー…」
「名前は?」
「ハク…」
「ハク?」
「眠たいから寝かせて…。もう寝る時間だし…」
「あっ、ちょっと!なんでこんなところで寝てるの?」
「他に寝る場所がないもん…」
「じゃあ、私の家に来てよ!」
「んー…」
「ね、行こうよ!」
腕を引かれて、嫌そうな顔をするハク。
と、何かに気が付いたかのように、ハッとする。
「も、もしかして、あなたたち、月人…?」
「うん。私はそうだけど」
「えっ!ど、どうしよ…」
「何?」
「またシフさまに怒られる…」
「シフさま…?」
「ね、ね。ボクがここで寝てたこと、シフさまには秘密にしておいてね。お願い!」
「秘密にするって…。だいたい、シフって誰か知らないし…」
「お願い!」
「わ、分かったけど…」
「お願いだよ!じゃあ、またね!」
「え、えぇ…」
サンの手を振りほどいて、ハクはそのまま消えてしまった。
キラキラと光る、何かを散らしながら。
…何これ。
「氷…?冷たい」
「あ、ホントだ」
「…何だったのかな」
「さあ?ハクって言ってたけど」
「うーん…」
「…また会えるよね」
「えっ?…どうだろ」
「会えるよ。絶対」
「う、うん…」
またねって言ってた。
だから、また会える。
…それに、シフっていう人にも会ってみたいし。
どんな人なのかな。
怒ったら怖いのかな。
ハクも怯えてたし…。
でも、ちょっと楽しみ。




