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「よいしょ…っと」

「ありがと、なんだぞ」

「うん。…サン、いる?」

「どうだろ。シャルは、ここだって言ってたよね」

「うん」


少し見て回る。

上を見てみたり、下を覗いてみたり。

それから、裏側に回ってみると、大きな穴があって。

ここかな?


「サン、サン」

「………」

「サン」

「いた?」

「うん、いるよ」


広場の大きな樹、真ん中より少し上の方の穴の中に、サンはいた。

横になって、何か考えてるみたいだった。


「サン。戻ろ?」

「…イヤ」

「なんで…」

「佐兵衛が悪いんだもん」

「サン…」

「だって、楽しみに取っておいたおやつを食べたんだよ?佐兵衛と一緒に食べたかったのに…一人で食べて…」

「仕方ないよ。佐兵衛お兄ちゃんも知らなかったんでしょ?」

「でも…」


サンは暗い顔のままで、さらに丸くなる。

どうしようかな…。

と、リュウが穴の中に入っていって。


「サン。とりあえず起きるの」

「………」

「寝転んでても、何もいい方向には行かないよ」

「起きてても一緒だもん…」

「ううん。起きて動いて。それから、もう一回考えるの」

「何をしても、何も変わらないもん…」

「やってないことの結果がどうなるかなんて分からないの。サンは、自分の妄想に取り憑かれているだけなの」

「…妄想?」

「おやつを勝手に食べられたときに、すごく怒って。佐兵衛が悪いわけじゃないって分かってるのに、ずっと許さないで。そのせいで、佐兵衛がサンのこと、嫌いになっちゃったんじゃないかって、思ってるんじゃないの?」

「………」

「わたしも、同じようなことがあったの。遙お姉ちゃんと一緒に内緒で買ったお菓子を、桐華お姉ちゃんが見つけてきて勝手に食べて。あとでビックリさせようと思ってたのに」

「………」

「それで、わたしはすごく怒ったの。桐華お姉ちゃんも何度も謝ってくれたし、遙お姉ちゃんももういいでしょって言ってくれて。でも、すごく怒って長引かせたから、なかなか仲直りする切っ掛けを見つけられなくて。でもね、あるときに、カルアお兄ちゃんが言ってくれたんだ。ずっと許さないで、一番傷付いてるのは、わたし自身なんじゃないかって。わたしは、反発したんだけど。サンと同じく」

「反発なんて…」

「それから、少し一緒に散歩に行こうって。散歩してる間、カルアお兄ちゃんは何も喋らなかったけど。でも、身体を動かしながらまた考えてると、もうどうでもよくなって。それで、気付いたの。いつでも、そのことを考えてるときは、ジッと座ったり、今のサンみたいに横になりながらだったから。だから、そのせいなんだなって」

「…私も、同じ?」

「うん。そうやって寝転んでるのがダメなの。ほら、お祭りの準備、しに行くの」

「………」

「サン、行こうよ。リュウの言う通りにしてみれば、何か変わるかもしれないよ。ここでジッとしてても何も変わらないのは、そうなんだし」

「………」

「ね?」

「…分かった。やってみる」

「うん」

「でも、佐兵衛とは一緒にやらないからね」

「うん。それは、わたしから言っておくの」

「…ありがと」

「ううん、いいの。それに、サンは大切な仕事もあるみたいだし」

「あっ、そうだ!月人だったんだ!」

「…ツキトって何なの?」

「えっ?えっと…なんだっけ…」

「………」

「ゆ、勇作おじさんに聞いたら分かるもん!」

「自分の役割くらい、覚えててほしいんだぞ…」

「………」

「まあ、とりあえず、ここから降りるの」

「うん」


サンは穴から出てきて、枝を蹴って飛び上がる。

自分もリュウに掴まって、降ろしてもらう。

…降りたら、まずは勇作おじさんに話を聞かなくちゃ。

身体を動かす前に。

気になるから。



勇作おじさんは、作り掛けの屋台の上で大声で何かを言っていたから、すぐに分かった。

何かの部品を持ってくるように言ってるみたいだけど。


「勇作おじさん!」

「ん?おぉ、サンか。どうした」

「あのね、月人のことを聞こうと思って」

「…この前に説明したじゃねぇか」

「忘れちゃったの。それに、ルウェとリュウも聞きたいって」

「はぁ…。仕方ねぇな…。おい!お前!ちょっと頼むぞ!」

「ほいほい…。まったく、人使いの荒いおっさんや…」

「一言多いぞ」

「すんませんねぇ」

「お兄ちゃん、頑張ってね」

「おぅ、ルウェにリュウやんけ。任せとけ」

「んじゃまあ、話すとするか。ここじゃ邪魔だし、あの樹のところまで行こう」

「うん」


それから、来た道を戻っていく。

樹の根元に着いて、みんなが適当に座ったのを確認すると、勇作おじさんは話し始める。


「月人より、まずは屋台巡視からだな。屋台巡視ってのは、今でこそ雑用もこなしているが、もともとは祭りを取り仕切る役目だったんだ。名前も、屋台巡視じゃなくて、月守だった」

「月ばっかりなの」

「おぉ、そうか。お前らは知らないよな。ここの祭りは、月に祈りを捧げる祭りなんだ。そうだ、ルウェはヤゥトから来たんだよな?」

「うん」

「あそこの、白き獣の伝説に似たものが、ここにもあるんだ。詳しくは、祭りのときに村長が話してくれると思うが」

「ふぅん」

「でだ。月守は、月に守ると書くんだが、祈りを捧げるこの祭りを必ず成功させる任を負うんだ。そういう意味では、屋台巡視は重大な役割を担っているということだな」

「うん」

「そして、なんとも古めかしいとは思うが、この月守は卜占という方法で決められる」

「ボクセン?」

「ああ。まあ、詳しいやり方は省くが、古代の占いの一種だ。それでまあ、十人から十三人の間で選ばれる。今年は、占い師によると、何か不思議な結果が出たみたいで、外からの応援も呼んでの準備になったんだが。それで、お前たちが来てからもう一度占うと、ルウェが選ばれたということだ」

「ふぅん…」

「まあ、月守に関してはこれくらいだな。本題の月人だが、月人は月に人と書いて、選ばれた月守からさらに選ばれた、月へ祈りを捧げる主体なんだ。つまり、サン。お前は、祭りの一番大事なところにいるってわけだな」

「えぇ~…」

「えぇ~じゃねぇよ。まあ、こっちも、なんか占いで不都合があったとかなかったとかだったが、占いに使った触媒が古くなっていたせいだと分かって、新しいのに替えてからもう一度やると、サンだったというわけだ」

「替えなくてよかったのに…」

「何言ってんだ。月人がいなくちゃ、祭りも始まらないんだよ」

「うぅ…」

「とまあ、そんなかんじだな。それぞれの役割の背景とか、祭りの目的とかは、さっき言った通り当日に村長から話してもらえるから、それに任せるとしようか」

「うん」

「よし。じゃあ、祭りを成功させるためにも、一所懸命準備しようじゃないか」

「はぁい」


立ち上がって、砂をはたいて。

月守に月人。

どっちも大切な役割だから。

お祭りは、絶対に成功させるんだぞ。

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