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「まあ、それはなんだ。あれだよ。ほら、あれ」
「…全然分かんないんだぞ」
「仕方ないよ、佐兵衛だもん」
「こいつ、生意気だなぁ」
「ベーッだ」
「あぁっ!おい!」
サンはあかんべーをして、どこかに飛んでいってしまった。
佐兵衛お兄ちゃんは、困ったような顔をして。
「まったく…。まだ怒ってるのかよ…」
「何に?」
「ん?この前にな、シャルロットさんに用事があって、サンの家に行くことがあったんだ。それでそのときに、シャルロットさんにお菓子を出してもらったんだけど、それがサンが楽しみに取っておいたやつだったらしいんだよ。それからは、もうさっきみたいな調子だよ」
「ふぅん」
「俺だってシャルロットさんだって、わざとじゃないんだし。…いや、シャルロットさんは分からないけど。でも、何回謝っても許してくれなくてさ。困ってるんだよ」
「コソコソと、何の話をしてるのかな~?」
「おわっ!シャルロットさん!」
「もう、私の噂をしてる暇があるなら、手を動かしてよ」
「へいへい…」
佐兵衛お兄ちゃんは気のない返事をして、またダシの飾り付けを始める。
何かの枝とかを差し込んだりして。
「ところでさ、サンは?」
「どっかに飛んでいきました」
「もう…。まったく、あの子は…」
「いいんじゃないですか?どうせ、俺とルウェは山車の飾り付けをやってますし」
「屋台巡視の任は、しっかりやってもらわないといけないのにねぇ…」
「そういや、サンは月人でしたね」
「そうなんだよねぇ」
「ツキト?」
「ここのお祭りで、一番大切な役割だよ。屋台巡視の中から一人選ばれるんだけど…。まあ、それも大切だけど、今はお祭りの準備が最優先でしょ」
「そうですね」
「んー…。じゃあさ、すぐに連れてくるから、しばらくお願いね」
「はぁい。お任せを~」
「うん」
シャルは頷いて、すぐに翼を広げて飛んでいった。
…サンの飛ぶ速さなんかより、ずっと速いんだぞ。
それとも、サンもあれくらいで飛べるのかな。
「あーあ。しかし、山車の飾り付けなんて地味だよなぁ。俺はもっと派手なのがいいよ。屋台の組み立てとかさ。屋台巡視なんだし」
「でも、これがないとお祭りにならないんでしょ?」
「まあ、そうなんだけど」
「じゃあ、一所懸命やらないと」
「…そうだな。仕事がないよりはマシか」
「うん」
横のところに紐を結んでいく。
結び方はさっき教えてもらったんだけど、やっぱり難しくて。
「あー、微妙に違うな。ここの巻きが一回多いんだよ。巻きは三回だ。分かるか?」
「うん…?」
「ここを、こう…巻くときに、ルウェは四回巻いてるんだ。でも、正しくは三回だ」
「あ、分かった」
「よし」
「でも、佐兵衛お兄ちゃんのも四回になってるよ?」
「え?あ…ホントだ…。細かいことによく気がつくな」
「うん。セトが、姉さまと葛葉はかなり大雑把だって」
「ん?姉弟がいるのか?」
「ううん。家族だよ」
「ふぅん…。家族…。姉さまって、美人か?」
「セトが及第点って言ったら、姉さま、すごく怒ってた」
「及第点か…。そうか…。葛葉ちゃんってのは?」
「分かんない。でも、隣のおばちゃんが、可愛いねって」
「おばちゃんか…。おばちゃん情報か…」
「佐兵衛。ルウェの姉妹まで狙ってんじゃないでしょうね?」
「あ、シャルロットさん。お帰りなさい」
「ただいま。ほら、サンも手伝いなさい」
「はぁい…」
「さすがですね。どこにいたんですか?」
「この子のいくところは、決まって高い場所だからねぇ」
「あ、そうでしたね」
「それで?何の話をしてたのかしら。誤魔化そうとしてるみたいだけど」
「や、やだなぁ。そんなことないですよ…」
「じゃあ、観念して話すことね」
「…ルウェの家族の話を聞いてただけです」
「そう。それで、あわよくば紹介してもらおうと」
「ははは…。変な勘繰りはやめてください…」
「どうかしらねぇ?」
「………」
「佐兵衛はやらしいもん」
「なっ!お前、サン!」
「ふん」
「まあ、佐兵衛がやらしいのは事実だけど」
「シャルロットさん…」
「サン?佐兵衛をいじめるのも、それくらいにしておきなさいよ。もう嫌だって、遊んでもらえなくなるわよ?」
「いいもん。困らないもん。その方が、おやつも食べられないし」
「またそれなの?もう許してあげなさいって言ったでしょ?だいたい、お母さんが出したから、佐兵衛は食べたのであって…」
「でも、私が食べたかったのに!」
「あっ、サン!」
持っていた木の実を佐兵衛お兄ちゃんに投げつけて、サンはまた飛んでいってしまった。
ちょっと、哀しそうな顔をしてたけど…。
「ごめんなさいね。甘えてるのよ、佐兵衛に。一番よくしてくれてるし」
「いえ」
「ああなると時間も掛かるし、もう放っておきましょう」
「はい」
「ルウェも、ごめんね。ちょっと用事が増えちゃうけど」
「ううん。それはいいけど…」
「気になる?」
「うん…」
「大丈夫よ。ちゃんと、そのうちに反省して戻ってくるから」
「うん…分かった」
シャルがそう言うんだったら、それでいいんだろうけど…。
でも、少し気になった。
サンは、おやつを食べられたことだけに怒ってるのかな。
それにしては…。




