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「集まれー。ほら、そこ、喋るな」
「今から何をするの?」
「すぐに分かるよ」
「喋るなって言ってるだろ。静かに」
「はぁい」
樹の根元のところにいるおじさんが手を叩くと、みんな静かになる。
帰ってきたサンも、口のところに指を立てて。
誰も喋ってないのを確認すると、おじさんは話し始める。
「よし。お前らの役割を言ってみろ」
「屋台巡視」「屋台巡視です」「早く済ませてください」
「せっかちなやつがいるな。おい、お前ら、気合い入れていくぞ」
「はぁい」
「さて、今年は、助っ人も何人か来てもらっている。うちにも、一人配置してもらってる。おい、サンと一緒にいるチビっこ!こっちに来い」
「分かった」
「勇作おじさんはね、口は悪いけど優しいから大丈夫だよ」
「うん」
「サン、余計なことを言うんじゃない。早くこっちに来るんだ」
勇作おじさんのところに急ぐ。
屋台ジュンシの人は十人くらいで、みんなお揃いのハッピを着ていた。
それから、横を通り抜けるときに、誰かがこっちに向けて手を出していたから、パチンと叩き合わせてから前へ出る。
「佐兵衛。余計なことをするな」
「へーい」
「よし。じゃあ、自己紹介だ」
「うん。…えっと、ルウェなんだぞ。えっと…ヤゥトから、ずっと旅をしてきてて…。よ、よろしくお願いします」
お辞儀をすると、パチパチと拍手が聞こえた。
…ちょっと緊張したんだぞ。
「よーし。じゃあ、ルウェはこれで俺たちの仲間だ。その証として、この法被を贈呈する」
「ありがとう、なんだぞ」
「よしよし。お礼を言えるのはいいことだ」
「姉さまに、お礼はちゃんと言わないとダメだって言われたから」
「そうか。いい姉さまだな」
「うん!」
「それじゃ、サン!こっちに来い」
「はぁい」
「ルウェに、法被を着せてやれ」
「うん」
サンは勇作おじさんからハッピを受け取って、後ろに立つ。
そして、広げてくれたハッピに腕を通して。
「よし。これで、ルウェも俺たちの仲間だ。…じゃあ、新任紹介は終わりだ。解散。ルウェとサンは残ること」
そう号令を掛けると、みんな一言ずつ挨拶をしてくれて、散っていった。
佐兵衛お兄ちゃんだけは、勇作おじさんに注意をされてたけど。
「まったく…。あいつだけはどうしようもないな」
「勇作おじさんによく似てるよ」
「シャルロットさんの真似をしてるんじゃねぇよ」
「えへへ」
「よし。サンは分かってるだろうが、ルウェのためにもう一度説明しておく。屋台巡視は、この祭りにおいて一番重要な役割だ。祭りを安全に執り行い、かつ、盛り上げるためにな」
「何をするの?」
「名前の通り、屋台を見て回ってもらう。準備、祭りの間、後片付けのいかなるときもだ。準備では、屋台の安全点検や調理班の衛生管理、あとは、各種雑用。祭りの間は、山車の先導、何か問題がないかの巡視、問題があれば解決する。後片付けのときは、屋台解体時の安全点検、備品の点検、各種雑用だ。まあ、言うなれば遊撃手だな。いろんなところに行って、いろんな手伝いをするんだ。分かったか?」
「うん」
「分からなくても、私がいるから」
「ん?あぁ、そうだな。じゃあ、ルウェはサンと一緒に行け」
「うん、分かった」
「よし。質問はあるか?」
「ううん」
「そうか。それじゃあ、行ってこい」
「はぁい」
勇作おじさんに見送られて、みんなが準備しているところに行く。
どんな用事を頼まれるのかな。
上手く出来るかな。
ちょっと不安だけど、ちょっと楽しみ。
サンとお喋りしながら歩いていると、広場の一番端っこの方で、人がたくさん集まっているのが見えてきた。
何してるのかな。
美味しそうな匂いがするけど…。
近付いて見てみる。
「あ、ルウェ。法被、似合ってるね」
「あ、望。何してるの?」
「屋台で出す料理を作る練習だよ。私は調理班だからね」
「試食?」
「あはは、試食はまだだよ」
「むぅ…」
「お昼ごはんのときには試食出来ると思うよ」
「そうなの?」
「うん。楽しみに待っててね」
「うん!」
「ねぇ、望お姉ちゃん。何かお手伝いすることはある?」
「えっ?んー…。ないかな、今は」
「そう…」
「ごめんね。班長さんに聞いてこようか?」
「ううん。いいよ」
「分かった。じゃあ、二人とも、またあとで」
「うん」
望と別れる。
…早く試食したいな。
でも、働かざるもの食うべからず、なんだぞ。
しっかり頑張って、しっかり食べられるように…。
「屋台巡視ってね、大変だけど、一番お祭りを楽しめるんだよ」
「えっ?」
「…ルウェ、今、食べることばっかり考えてたでしょ」
「うっ…」
「…まあ、仕方ないけどね。屋台の料理って美味しいもん」
「自分もそう思う」
「うん。それでね、屋台巡視って、一番重要な役割だけど、一番楽しいんだ。毎年十人くらいしか選ばれないんだけど」
「なんで?」
「なんでだっけ。忘れちゃった」
「えぇ…」
「ごめんね。勇作おじさんとかに聞いたら分かるんだけど」
「そっか…」
「またあとで聞きに行こうね」
「うん」
でも、毎年ちょっとしか選ばれないのに、なんで自分が選ばれたのかな。
…気になるんだぞ。
またあとで、絶対に聞かないと。




