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朝ごはんが終わると、ツカサとマオは話があると言って、お姉ちゃんとクノお兄ちゃんのところに行ってしまった。
さっき、自分と薫が散歩に行ってるとき、三人は何かを話してたらしい。
それで、何かを話しに、ナナヤだけを残して、のところに。
「私からも話があるんだ」
「ん?旅のことか?」
「えっ?」
「ごめんね。お兄ちゃん、よく先走るんだ。続き、どうぞ」
「う、うん…。まあ、旅のことなんだけど…」
ナナヤは少しモジモジとして。
それから、思い切ったように口を開く。
「私、みんなと旅をしたいの」
「ふぅん」
「ふぅんってね、お兄ちゃん…。でも、なんでツカサたちと一緒に行こうとは思わなかったの?ツカサたちはクーア旅団に行くんだよね?」
「…うん。そうなんだけどね。でも、私、世界を見てみたいんだ。大きな旅団の傘の下からじゃなくて。この傷と…私自身と向き合っていきたいから」
「そっか。うん。じゃあ、一緒に行こ。いいよね、みんな」
「うん」「よろしくね」
「お前らがええねやったら、オレはええ」
「明日香は?」
「…ワゥ」
「じゃあ、決まりだね。よろしく、ナナヤ」
「…うん!」
ナナヤは笑っていた。
本当の笑顔で。
大切な家族がまた一人。
これで、六人家族。
旅の家族。
向こうの話もすぐに終わったらしくて、自分たちが食堂から部屋に戻ってきてすぐに、ツカサとマオも帰ってきた。
そしてツカサは、ナナヤの様子を見て少し笑って。
「上手くいったみたいだな」
「うん!」
「ありがとう、みんな。ナナヤをよろしく頼む」
「もちろんだよ」
「それで、そっちはどうだったの?」
「上手くいったよ。二つ返事で。本隊に入れさせてもらうことになった」
「へぇ、すごいじゃない!」
「いや、研修期間中は必ず本隊に入れられるらしい」
「そうなんだ」
「でも、ツカサ、団長補佐見習いとして抜擢されたんだよ!見習いが取れたら、クノさんと同じ、タルニアさん団長補佐だよ!」
「えっ、そっちの方がすごいじゃない!」
「俺には、そんな大役は無理だって言ったんだけど…。それに、昨日今日会ったばかりの若造に、そんな役職を与えるべきじゃないとも言ったのに…」
「ええやないか、その役が似合うように努力したら。ターニャがなんでそんなことしたんかは分からんけど。でもまあ、なんか思うところがあったんちゃう?とにかく、お前はターニャに気に入られた。まずは、それでええやん」
「………」
ツカサは何も言わなかった。
ただ、少し頷いただけで。
それからその話は出なかったけど、ツカサはやっぱり黙ったきり。
ずっと、何かを考えてるみたいだった。
ゆっくりと、歩いていく。
静かな通りには誰もいなくて、でも、朝みたいな静かさではなかった。
なんか、ちょっと賑やかな静かさ。
「誰もいないね」
「住宅区ですから。みなさん、もう家を出たのではないでしょうか」
「そっか」
「はい」
薫は生垣の上から家の中を覗いたりして、ときどき軽くお辞儀したりしてる。
誰かいるのかな。
「それで、今日はなんで薫も一緒にいるの?」
「人がいないからなんだぞ」
「いちゃダメなの?」
「人がいたら、薫が喋ってるのが知られちゃうから」
「あぁ、そういえば、聖獣の存在はあんまり広く知られちゃダメなんだったね」
「うん」
「でも、静かとはいえ、家に人もいるでしょ?」
「はい。しかし、この辺りは生垣も高く、内外の様子がなかなか分からなくなっています。はっきりとは人数も分からないので、私が喋っているのか、別の人がいるのか、家の中の人には分からないということです」
「ふぅん。そんなものなんだ」
「ええ」
それでも周りをよく見回して、人がいないことを確認してから話してる。
用心深いんだぞ。
「あ、そうだ。ルウェには渡しておこうかな」
「何を?」
「えっとね…これ」
「うん…?」
ナナヤに渡されたのは、小さくて青く透き通った石。
何か細かい模様が彫ってある。
「生命の雫、ですか?」
「うん」
「何、それ?」
「ルウェさまと私の間にある、契約に似たものと聞きます」
「そこに彫られてるのは共鳴の術式。共鳴の術式は、ふたつでひとつ。もう一個はこれね」
そう言って、赤い透明の石を見せてくれる。
そして、その石にも細かい模様が彫ってあった。
「私もよく分からないんだけど、この術式は互いに共鳴しあって、うんぬんかんぬん」
「うんぬんかんぬん?」
「あはは、よく知らないんだ。ごめんね。でも、私の種族…つまり、獅子の間では、強力なお守りとして伝わってたんだって」
「私の聞いた話は、結婚した男女がそれぞれ持つと、家庭円満が保たれるということでした」
「へぇ、いろいろあるんだね」
「生命の雫は、その名の通り、保持者の生命を映し出す…とも言われているそうです」
「ふぅん。保持者の生命か…」
「ホジシャの生命…?」
生命の雫を見てみると、さっきはなかった光が見えた。
反射した光かと思ったけど、どこから見ても、石の中で小さな火が燃えていた。
でも、ナナヤのは燃えてない。
「ん?あれ?」
「え?」
「ルウェのは…」
「どうしたの?」
「んー?」
「まあ、伝承の域から出ないのですが」
「ふぅむ…?」
「ナナヤ、どうしたの?」
「いや…。まあ、いいか」
ナナヤはそのまま石を仕舞って。
結局、自分のだけ燃えっ放しで。
これ、何なのかな…?




