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楓お姉ちゃんのお店には、まだまだたくさん不思議なものがあった。
動物の骨で作った首飾りとか、何かよく分からない本とか。
「その指輪はね、古代に伝わる三種の神器のひとつである天叢雲剣の一部らしいよ」
「そういえば、ルウェとリュウ、指輪してたよね」
「うん。リュウに買ってもらったんだぞ」
「小遣いもろたしな。いくらやったん?」
「六千円なの」
「六千円?おい、楓。子供やからゆうて、えらい値段ふっかけたんちゃうやろな」
「そんなわけないでしょ。これでも半値なんだから」
「ふぅん…。ほんで、どっから仕入れたんや?こういうのは、どっかの物好きな金持ちの倉に押し込めたぁるもんやろ?」
「どこからかは秘密よ。まあ、そういうところからね」
「ラズイン旅団か?」
「…そうだよ」
「えっ、ラズイン旅団?」
「ああ。タルニアさんにはお世話になってるしね。それに、これはあの子たちのお金だし…」
「あの子たちって?」
「孤児院の子たちだよ。自警団や斑鳩組の人たちは、だいたいここの孤児院の出なんだよ。それで、各々の思う方法で孤児院を助けているんだ。斑鳩組は、質流れの品や盗品を売ってお金を稼いでるんだけど。自警団は、だいたい給料を寄付したりしてるみたいだね」
「へぇ…」
「自警団に斑鳩組…。まったく違う道を歩んでいるけど、心はどこかで繋がってると思ってる。この絆は、家族の絆だからね」
「…お前、臭いセリフを平気でゆうよな」
「いいじゃない。そういう性分なのよ」
「はぁ…」
なんだか、狼の姉さまに似てると思った。
クサイセリフってのがどういうのが分からないけど。
「ラズイン旅団は、うちの孤児院の経営には欠かせない旅団のひとつだよ。伝説の義賊なんて言われてるけどね。本物の義賊だよ、あの人たちは」
「………」
「まあ、金持ち連中は、見えない影に怯える毎日を過ごさないといけないけどね。そんな伝説なんて信じないのもいるけど。そういうやつらは、日に日に減っていく倉の中身も見ようともしないんだよ。金持ちなんて、愚かだね…」
「……?」
「あはは、なんでもないさ。ほら、湿っぽい話は終わりだよ。何か買っていってよ。安くしとくよ」
「無理矢理やな…」
「いいのいいの!」
楓お姉ちゃん、どうしたんだろ。
一瞬、哀しそうな、怒ったような、そんな顔をしてた。
孤児院の経営には欠かせないラズイン旅団。
ラズイン旅団に怯えるお金持ち。
ラズイン旅団に怯えないお金持ち。
それで、楓お姉ちゃんは…。
望は古ぼけた本を開いて、ゆっくりと読んでるみたいだった。
楓お姉ちゃんは、それを横から見ていて。
「面白い?」
「はい。私、興味はあるけど、北には行ったことないんです」
「へぇ、そうなの?良いところだから、一回は行ってみなさいな」
「そのつもりです」
「まあ、そうよね」
「でも、こんな本、どこにあったんですか?」
「ルイカミナの図書館よ。ほら、背中のところに」
「あ、ホントだ」
「盗ってきたんか?」
「失礼ね。ちゃんと借りてきたわよ」
「そりゃ、ええこっちゃ」
それから、お兄ちゃんは手に持ってた腕輪を元のところに戻す。
楓お姉ちゃんは、ちょっと不機嫌そうにお兄ちゃんを睨んで。
「ああいうイヤミなやつと旅してると疲れるでしょ?」
「あ、はい」
「そうよね~」
「お前らな…」
「事実なんだし。望も認めてくれてるんだし」
「オレのはイヤミやない。真実や」
「そういうこと言うのが、余計イヤミっぽいよね」
「………」
「あっ、ごめんなさいね」
「えっ?楓さん、今、何か言いました?」
「いいえ。それ、しっかり読んでなさいな」
「はい。ありがとうございます」
「ふふふ」
楓お姉ちゃんは望の横をそっと離れて、明日香が寝ているところに行く。
リュウも明日香と一緒に寝てて、とても気持ち良さそう。
「赤龍の子。可愛いわね」
「うん」
「あ、手の甲にも鱗があるのね」
「そうだよ」
「私、龍の子を見るのは初めてなんだけど、ルウェも龍なのよね?蒼龍?」
「うん」
「リュウとは、やっぱり違うのかな」
「コセイ、なんだぞ」
「個性かぁ。良い言葉、知ってるね」
「リュウに教えてもらったんだぞ」
「そっか。この子にね」
「うん」
楓お姉ちゃんは、そっと、リュウの頭を撫でる。
すると、鱗がキラキラ輝いて。
「龍紋、ね。綺麗なのね、やっぱり」
「うん」
「ルウェも出るのかな?」
そう言って、ギュッと抱き締めてくれた。
…良い匂い。
狼の姉さまとはまた違うかんじの甘い匂い。
でも、狼の姉さまと同じ、とても安心出来る匂い。
「あはは、やっぱり出るんだね。ルウェのも綺麗」
「えへへ」
「何しとるんや、お前らは」
「ほら、ルウェの龍紋、見てあげてよ」
「あー、うん。それが?」
「何も思わないの?」
「別に?」
「もう…。だから、感性の全くない、鈍感な男って嫌いなのよ」
「鈍感で悪かったな」
「ホントに悪いよ」
楓お姉ちゃんは、自分を庇うように抱いて、お兄ちゃんにあっかんべをする。
お兄ちゃんは、呆れたような顔をしていた。
…この二人って、どういう関係なのかな。
昔の友達って言ってたけど。
ちょっと気になるかも。




