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「何か欲しいのある?」
「んー…ないんだぞ」
「そう…」
リュウはちょっと残念そうに。
でも、欲しいものなんてないし…。
「あのね、リュウ…」
「ん?」
「お金は大事だから、大切にしといた方がいいと思うんだぞ…」
「…うん、そうだね。ありがと、なの」
「うん」
手をギュッと握ると、リュウも握り返してくれて。
それが、何か嬉しい。
「えへへ」
「どうしたの?」
「リュウと一緒に寄り道するのって初めてなんだぞ!」
「そうだっけ」
「うん!」
「わたしと一緒にいるの、楽しい?」
「うん。リュウは、自分のお姉ちゃんだもん。楽しいよ」
「そっか。じゃあ、同じだね」
「えっ?」
「わたしも楽しい。ルウェと一緒にいると」
「うん」
「ワゥ」
「あはは、明日香と一緒にいるときも楽しいよ。望お姉ちゃんとか、お兄ちゃんと一緒にいるときも。だから、ずっと一緒に旅をしたいと思った。桐華お姉ちゃんとか、遙お姉ちゃんと一緒にいるときも、もちろん楽しかったけど…でも、ルウェたちといるときの方が楽しいって思うの。えへへ、桐華お姉ちゃんと遙お姉ちゃんには悪いんだけど」
リュウは照れくさそうに笑って。
ほっぺたのところの鱗がキラキラと光っていた。
「そういえば、リュウはなんで鱗があるの?」
「え?これ?」
「うん」
「どうなんだろうね。でも、赤龍とか緑龍とかの人は鱗があるって聞いたよ。響とか光にはなかったから、龍の中でも珍しいのかな」
「ふぅん」
「ルウェにはないよね」
「うん…」
「あはは。残念そうにしないの。個性だよ、個性」
「コセイ?」
「うん。わたしにはわたしにしかないもの、ルウェにはルウェにしかないもの。それぞれ別のものがあるから、みんな違うんだよ」
「…うん」
リュウと違うからちょっと寂しかったけど、みんなと違うところはみんな持ってるから。
それがコセイ。
リュウにはリュウのコセイがあって、自分には自分のコセイがある。
だから、自分はリュウを好きになれるのかな。
「あ、そうだ。ルウェって、何か装身具って付ける?」
「えっと…」
「あはは…。そうだったね、いっぱい付けてるよね…」
「うん」
「うーん…どうしようかな…」
「どうしたの?」
「お揃いのね、何かを買おうかと思ったんだけど…」
「何かって?」
「そういう首飾りとか」
「これ、リュウとお揃いなんだぞ」
「うん。でも、団員証だしね」
「……?」
「みんなが持ってるようなものじゃダメなの」
「でも、これ、まだ二人しか持ってないって…」
「うん。それって、これから増えるかもしれないってことでしょ?それがちょっとね…」
「そうなの?」
「そうだよ」
「ふぅん…」
「だからね、何か違う、世界にひとつしかないようなものが欲しいの」
「コセイ?」
「そうだね。わたしとルウェだけの個性だね」
コセイ…。
コセイなのかな。
うん。
リュウと同じコセイ。
「何がいいかな」
「うーん…」
「んー」
いろんなお店を覗いてみるけど、いいのが見つからない。
リュウも悩んでるみたいで。
「あっ」
「え?」
「あっちに行ってみようよ」
と、リュウが指差したのは路地の方。
露店がたくさん並んでるみたい。
「ね?」
「うん…」
なんか、ちょっと不安だけど…。
明日香もいるし、大丈夫だよね…。
手を引かれて、路地に入っていく。
「わぁ、いっぱいあるね」
「そうだね」
「お嬢ちゃん。何か買い物かい?」
「うん。えっとね、わたしとこの子だけの、特別なものが欲しいの」
「へぇ。その子、彼氏?髪、長いねぇ」
「妹なの」
「えっ、女の子?」
「うん」
「そりゃ失礼したね。特別なものだっけ?じゃあ、この指輪なんかはどう?」
「わぁ、綺麗だね」
「うん。綺麗なんだぞ」
「これはね、真ん中の黒いところが黒曜石で、端の金属は白金なんだよ」
「白金?」
「そうさ。万金とどっこいくらいに貴重な金属らしいよ」
「ふぅん…」
「気に入った?」
「うん。ルウェはどう?」
「綺麗なんだぞ!」
「気に入ったみたいなの」
「そう。よかった。じゃあ、これ、言い値にしてあげる。間違った謝罪の気持ち」
「元はいくらなの?」
「二つで一万二千円だよ」
「じゃあ、六千円」
「半値?そんなのでいいの?」
「うん」
「そう。ごめんね、気を遣わせて」
「ううん」
「二人の名前は?」
「わたしはリュウで、この子はルウェ」
「リュウにルウェね。そこでちょっと待っててくれる?」
「うん」
露店のお姉さんは、指輪を持って後ろの建物の中に入っていった。
何なのかな。
とりあえず、待つ。
「………」
「おい、そこのガキ」
「………」
「おい」
「………」
…怖い人が、リュウに近付いてきた。
何なのかな、この人…。
いろんなところが破れてる変な服を着てるけど…。
「お前だよ、お前!鱗人がよ!」
「…何ですか」
「六千円だっけ?えらく持ってるじゃねぇかよ。犬コロまで従えてよ。番犬のつもりか?」
「ウゥ…」
「とりあえず、持ち金全部寄越せや」
「………」
「おい、チンピラさんよ。この露店街でカツアゲはやめといた方がいいぜ」
「黙れ、おっさん!」
「…ふん。忠告はしたからな」
「何が忠告だ!」
「さあな」
「とにかく、さっさと寄越せ!」
「………」
リュウは、怖い人のことをギッと睨む。
すると、怖い人は何か怒ったみたいで。
「なんだ、その目は!ガキのくせにナメてんじゃねぇよ!」
「…捕縛」
「な、なんだ?」
リュウを殴ろうとした腕を、誰かが掴む。
怖い人は振りほどこうとするけど、全然動かなくて。
「あらあら、どうしたのかしら。外が騒がしいようだったけど?」
「あ。姐さん」
「ほら、出来たよ。世界にひとつしかない、二人だけの指輪」
「なんか、模様が入ってる」
「二人の名前が彫ってあるんだよ。昔の文字でね」
「へぇ~」
「おい!お前らは何なんだよ!」
「五月蝿いねぇ。今はあんたみたいなやつと話す気分じゃないんだ」
「なんだと!?」
「ちょっと悪いけど、どこかに連れてってくれる?」
「…御意に」
そして次の瞬間には、二人ともいなくなってた。
…転移を使ったのかな。
あの黒い人は誰だったんだろ。
「これ、お代」
「はい。確かに六千円。ありがとね」
「うん。わたしたちも、ありがと」
「ありがと、鷹のお姉ちゃん」
「はは、鷹のお姉ちゃんはいいね。今度から、みんなにそう呼ばせようか」
「姐さん…。それはちょっと…」
「ははは。まあ、また来てね。安くしとくからさ」
「うん。今度は、お兄ちゃんとお姉ちゃんと来るの」
「是非ともそうしてちょうだい」
「またね」
「ああ、またね」
不思議なお姉ちゃんに手を振って、路地を出た。
何だったのかな、あそこは。
なんか、他とは違う雰囲気だった。
「ルウェ」
「え?」
「これ」
「あ、うん」
「嵌めてみようよ」
「うん」
リュウが嵌めるのを見て、同じ左手の薬指につける。
すると、なぜかピッタリで。
リュウもピッタリだったみたい。
「これで一緒だね」
「えへへ」
「二人だけの指輪」
「うん!」
リュウと、二人だけの。
二人だけの、コセイなんだぞ。




