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「鎮静剤を飲ませたから、しばらくは大丈夫だよ」

「ありがと、ユゥくん」

「それにしても、聖獣にも人間の薬が効くんだね。新発見だよ」

「もう…そんな場合じゃないでしょ…」

「ごめんごめん」


ユゥクお兄ちゃんは、頭の後ろを掻いたりして。

なんだか、昨日とは違うかんじなんだぞ。

茜お姉ちゃんと結婚してるって、ホントだったってことなのかな。


「それで、茜。何があったんだ?」

「うん。如月の方がよく知ってると思うよ」

「…ツクシはどうしたんですか?」

「はい。この子…七宝が、庭の池に落ちてしまい、溺れかけたのです。幸い、深い池ではなかったので、すぐに足が着いたのですが…」

「ふぅん…」

「すみませぬ…。私の監督不行届がこのような結果を招いてしまって…」

「如月が謝ることはないと思うよ。それより、薫。話してくれるよね?」

「…致し方ありません」


薫は一度深呼吸をして。

何から話そうかと迷うように視線を動かす。

それから、口を開いた。


「ツクシは、私とは兄妹だという話は知っていますよね?」

「うん」

「ツクシとは、いわゆる義理の兄妹なのですが、私には他にミコトと千早の二人の妹がいます。二人とも、今では良き契約者の下に行けたようですが、それまでは向こうの世界で両親や如月のような指導役の庇護の下、のんびりと育っていました」

「ちょっとごめん。せっかちだとは思うけど、そのミコトと千早の話は、今回のツクシの話と関係あるんだよね?」

「茜。焦るのも分かるけど、薫だって無駄な話はしないって分かってるよね?」

「分かってるよ…。分かってるけど…」

「…関係はあります。申し訳ありません。しかし、まずは土台から固めた方が良いかと思いまして。…本題から入りましょうか?」

「ううん。…ごめん。話、続けて?」

「…はい」


また薫は何かを考えて。

たぶん、茜お姉ちゃんのことを考えて、話の道筋を整理してるんだろうな。


「ある日、両親も指導役も都合が合わなかったとき、私とツクシで二人の面倒を見たときがあったんです。その頃には、私たちはクノさまの補佐として働いていたので、交代で面倒を見ることにしました。ミコトと千早が本当にやんちゃな頃で、ふと右を見て左を見れば、もうどこかに行っているという始末でして、とにかく一人では家から出させないので精一杯でした」

「………」

「私の仕事が一段落つき、家に帰ったときでした。ツクシが血相を変えて飛び出してきたんです。何を言ってるのかは分かりませんでしたが、とりあえず家に入りました。すると、ミコトが部屋の真ん中でグッタリとしていたんです。どうやら、飛ぶ練習をしてたみたいで、高いところから落ちて気を失っているだけだったようですが、一瞬では何が起きたのか分からなかったらしくて。少し目を離した間に、ミコトに何かがあったとしか分からなかったようです」

「………」

「飛び始めの龍にはよくあることなので、普段のツクシならすぐに気付けたはずなんですが、身体的にも精神的にも疲れていたところに起こったことなので、いろいろと混乱してしまったのでしょう。千早も何が何だか分からなくなって泣いていましたし…」

「それが精神の大きな負担になって、今もその傷が残っている、と…」

「はい。おそらくは」

「なるほどね…」


ツクシは、自分のせいでミコトが大変なことになったと思ってるから怖いんだ。

今回の七宝のことも…。


「時間を掛けて…いや、それでは…。でも、それしか方法はないよなぁ…」

「どうしたんですか、ユゥクさん?」

「なんとか治療出来ないかなって。だって、ツクシ、子供が大好きなのに、子供が怖いなんて可哀想すぎるよ…」

「そうですね…」

「治せるの?」

「分からない。でも、傷はかなり深いみたいだから、すごく根気のいる治療になるかな…」

「私じゃダメかな」

「うん、いいと思うけど…」

「けど?」

「茜だけじゃ、根本的解決にはならないかもしれない。ツクシは、子供が怖いんだから」

「あっ、そっか…」

「でも、精神の病っていうのは、信頼の出来る人の助けっていうのも大切だから、茜が手伝ってあげることによる効果は大きいと思う」

「…うん」

「あのっ!」

「うん。出来れば、望さんたちにも何か手伝ってもらいたいね」

「でも、私たち、旅の生活だから…」

「そうだよね…。長い間の治療は難しい、か…」

「すみません…」

「謝るようなことじゃないよ。でも、なんとか上手くやる方法は…」

「私から、ひとつ提案があります」

「うん、如月」

「私と七宝は、クーアです。クーアは他と比べても術式適性が高く、この子でも転移が使えるほどです。そこで、この転移を使ってみてはいかがでしょうか」

「なるほど…。転移の術式か…。使えるかもしれないね…」

「でも、七宝はまだ未熟なんじゃ…」

「では私が、思い当たる者を連れていきます。それで、ルウェさま…」

「うん、いいよ。悠奈も、七宝も、琥珀も、手伝ってくれるよね?」

(うん)

「悠奈以外、寝てるけど…」

「大丈夫なんだぞ。みんな、協力してくれる」

「うん」


だって、みんなのお姉ちゃんだもん。

もちろん、自分にとっても。

…早く良くなってほしいんだぞ。

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