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「いっぱい貰ったんだぞ」

「ホントだ。よかったね」

「うん!」

「でも、なんで、こんなにいろいろくれたのかな」

「ルウェとリュウが可愛かったからじゃない?」

「そうなんですか?」

「どうなんだろね」

「えぇ…」

「ルイカミナでは、馬車に乗ってる人に何かをあげる風習があるんだよ。昔、馬車に乗ってたのは割と裕福な人だったから、自分の店に興味を持ってもらうために、そういう人たちにチラシを配ってたんだ。馬車はだいたい、邪魔にならないように道の真ん中を走ってたから、店を見ながら端を歩いてる歩行者よりも目が行きにくかったんだろうね。それから、一般の人も馬車に乗り始めて、チラシよりも効果的な宣伝方法が出てきてから、商業的なものは廃れていったんだけど、馬車に乗ってる人に何かをあげるってのは、今も残ってるんだ」

「へぇ、さすがツクシだね。よく知ってる」

「まあね。自警団に所属してる人は観光案内も出来ないといけないから、ルイカミナについて網羅してる人も多いよ」

「茜さんも?」

「あはは。茜が覚えられないから、私が代わりに覚えてあげてるんだよ」

「…そうなんだ」

「あれ?ツクシって、望ちゃんあたりの聖獣だと思ったけど、違うの?」

「あ、はい。ルイカミナ自警団の茜さんって方と契約してるんです。茜さんが街を案内出来ないから、ツクシが一緒に来てくれてるんですが」

「へぇ~。でも、聖獣のことを知ってるってことは、誰かが契約してるか、斡旋者がいるってことなんじゃないの?」

「オレが斡旋者。望とルウェが契約者や」

「えっ、二人とも?」

「はい」

「へぇ~…」


遙お姉ちゃんは、なんだか珍しそうに頷いたりして。

…何なんだろ。


「で、お前はなんで知っとるんや?」

「情報屋だからね」

「…月読か」

「そうそう」

「月読って、情報屋なんですか?」

「そうだよ。いろんな情報があるから、興味があったらまた聞いて。だいたい答えられると思うよ。あ、でも、行方不明の人がどこにいるかとか、そういった個人的なものは、時間を貰って、依頼を受けた時点から調査に入るから。すぐに渡せるのは、どこで戦をやってるかとか、次はどこに来そうとかだね」

「…そっちは、オレらには関係ない話かもな」

「あはは、そうだね。でも、旅をしてるなら、戦は避けて通りたいでしょ?そういうときに役立つかもしれないよ」

「まあ、そうかもしれんな」

「でしょ?」


ニッコリと笑う遙お姉ちゃん。

でも、どうやって、そんな情報を集めるのかな。

すごく気になるんだぞ。


「あ、そうそう。そうじゃなくてさ。二人はそれぞれ、誰と契約してるの?」

「私はカイト…えっと、タルニアです」

「へぇ、タルニア」

「えっと、自分は、悠奈と七宝と琥珀と薫!」

「…え?」

「悠奈はルウェ、七宝はクーア、琥珀はユヌト、薫はクルクス。なんやいろいろおるけど、悠奈と七宝はまだちっちゃいから寝てる時間が多いし、琥珀はまだどうなってるか分からん。実質、薫だけが表に出てきてるな」

「え、いや、そうじゃなくて、なんでそんなにいっぱいいるの?一人二契約が限度って聞いたけど?それに、属性が入り乱れてるじゃない」

「分からん。オレにも。まあ、ルウェはなんや特別なんやろ」

「えぇ…」


また懐から紙を出して、何かを書く。

情報屋さんだからなのかな。

書き終わると、また何回か読み返してから懐に仕舞う。


「ふぅん…。みんなといると、勉強不足を実感するよ…」

「遙お姉ちゃんは、一所懸命お勉強してるの。だから、勉強不足なんて、そんなことないの」

「…ありがと、リュウ。そうだね。勉強が充分とは思えないけど、世の中には私たちが知らないことがたくさんあるってことだね。勉強不足じゃなくて、知らない世界に触れてるってことなのかな」

「うん」


自分の知らない世界。

まだまだ、いっぱい、いっぱいある。

全部見ることは出来ないかもしれないけど、全部見てみたい。

欲張り…なのかな。

でも、リュウの方を見ると、優しく笑ってくれた。

欲張りじゃないよって。

だから、安心出来た。



馬車はゆっくりと止まった。

それから、遙お姉ちゃんは飛び降りて。


「私はここで一旦別れるよ。用事があるから」

「あ、お疲れさまです」

「はい、どうも。ついでに、ルウェとリュウの越境証明も貰ってくるよ」

「えっ、そんなの…」

「大丈夫。二人とも天照の団員だから、審査も必要ないよ。夕飯には渡せると思うから」

「夕飯のときって…」

「じゃあね。タルニアさんやユゥくんによろしくね」

「あっ、ちょっと!待ってくださいよ!」


そのまま、遙お姉ちゃんはどこかへ走っていった。

馬車もまた走り出したから、望もどうにも出来なくて。


「もう…。夕飯ってどういうことなのかな…」

「ん?分からんかったか?」

「え?」

「ぼくたちのお茶会に、みんなを招待するよ!ってことだよ」

「えぇっ!?そんな、ダメです!」

「なんで?ぼくたちと夕飯を食べるのはイヤ?」

「そんな大事な会合に、私たちが参加することなんて出来ませんよ!」

「会合だなんて、大袈裟だよ。お茶会だよ、お茶会。夕飯も兼ねてるけど」

「無理です!」

「んー、でも、もうすぐ着くよ?」

「えっ!」


そういえば、遙お姉ちゃんが降りてから、人混みからは少し離れていた。

カタカタと、車輪の音がはっきりと聞こえて。


「まあ、諦め。夕飯ご馳走してくれるゆうねんから、好意に甘えさせてもらお」

「そんなぁ…」

「ごめんね、望。そんなことを話したら、望なら絶対に断ると思ったからさ。遙とこっそり決めたんだ。まあ、大丈夫だよ。本当に、ただのお茶会だから」

「うぅ…。また借りが出来ちゃった…」

「何言ってるのよ。貸しとか借りとか、そんなのはなしだよ。遙がリュウにも言ってたけど、ぼくたちはみんなに天照の団員証を渡したときから、みんなのことを家族だと思ってる。夕飯を一緒に食べたら楽しいと思うから、みんなを招待するんだし、それを取り上げてどうこうしよう、してもらおうなんて思ってない。ただ、純粋に、そうしたいと思うから、やってるだけだよ。だから、ね?お願い」

「うぅ…。はい、分かりました…」

「えへへ。ありがとね」


桐華お姉ちゃんは、望をギュッと抱き締める。

望は、なんだか複雑な顔をしてるけど。


「しかし、お前もまともなこと言えるんやな」

「何よ、それ。それじゃ、ぼくがまともじゃないみたいじゃない」

「まともであるかどうかは判断しかねるけど、子供っぽいのは確かや。お前のその性格が、丸ままリュウに移ってるしな」

「あー、うん。ごめんね、リュウ」

「……?」


リュウは、少し首を傾げて。

桐華お姉ちゃん、子供っぽいってことは認めるのかな。

まあ、遙お姉ちゃんがしっかりしてるから、たぶん大丈夫なんだぞ。

…それから、馬車はどんどんと進んでいって、見覚えのある場所で止まった。

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