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周りは薄明るくなっていた。

昨日は暗くて分からなかったけど、自分たちが泊まることになった広い部屋じゃなくて、少し狭い部屋にいた。

望はいなくて、でも、ホッとする良い匂いがして。


「目が覚めましたか」

「うん…」

「でも、もう少し眠っていてください」

「…うん」


クノお兄ちゃんは、そっと頭を撫でてくれた。

目を瞑ると、空気が少し動いた気がした。

止まっていた時間が動き出したみたいに。

…なんで、クノお兄ちゃんは寂しい顔だったんだろ。

寂しい、笑顔。



眩しい光が、目に射し込んでくる。

朝…かな。


「おはようございます、ルウェさま」

「あ、おはよ、薫」

「昨日は大変だったみたいですね」

「うん…。全然覚えてないけど」

「そうですか。しかし、その方がいいこともあります」

「そうなの?」

「はい」


覚えてない方がいいこともある…。

なんでなんだろ。

そういうものなのかな。


「私…ルウェさまの緊急事態だというのに、傍にいられなくて…。本当に、申し訳ありません…。この償いは必ず…」

「薫は、いつもそんなのばっかりなんだぞ」

「いえ、しかし…」

「………」

「すみません…」


もう…。

本当に、薫は謝ってばっかりなんだぞ。

なんでなのかな…。


「あ、ルウェ。おはよ」

「おはよ、望」

「どう?調子は」

「うん。良いと思う」

「そう。よかった。朝ごはん、食べに行く?」

「うん!」

「薫は?」

「はい。同伴させていただきます」

「うん。じゃあ、行こっか」


立ち上がって、望の手を取る。

そしたら、望はニッコリと笑ってくれて。

…じゃあ、朝ごはん、なんだぞ。



食堂にはたくさんの人がいて、朝ごはんを食べていた。

卵焼きとか、焼き魚とか、美味しそうなんだぞ。


「望お姉ちゃん!ルウェ!薫!こっちなの!」

「リュウ。周りに人おるんやし、静かにな」

「あぅ…。ごめんなさい…」

「とりあえず、座れ」

「わぁ…。おっきい犬~」

「犬…?」

「龍だ!おっきい龍!」

「…私がついてきたのは失敗だったでしょうか」

「まあ…いいんじゃない?ちょっと目立つけど…」

「すみません…」


薫の周りには、たくさん子供が集まってきて。

離れて観察したり、ペタペタ触ったりしている。


「こらっ!先に朝ごはんを食べなさい!」

「はぁい…」

「ごめんなさいね」

「いえいえ」

「お父さん!龍がいるよ!」

「そうだな。でも、ごはんが先だ」

「うん…」

「すみません」

「いえ。いいですよ」


でも、お父さんやお母さんに叱られて、すぐに戻っていって。

こっちは見てるけど。

そして、誰もいなくなってから、お兄ちゃんとリュウと明日香がいる席まで行って、座る。


「なんで薫まで連れてくんねん」

「いいじゃない。人気者だよ?」

「そういう問題ちゃうわ」

「朝ごはんなの」

「あぁ、せやな。持ってきてもらおか」

「えっ」

「え?」

「持ってきてくれるの?」

「お前、こういうところに泊まったことないんか?」

「うん…」

「まあ、話はあとや」


お兄ちゃんは手を挙げる。

すると、近くにいた人がすぐにやってきて。


「お持ちしましょうか」

「ああ。頼む」

「畏まりました」


短い会話が済んでお辞儀をすると、その人はどこかへ歩いていってしまった。

結局、途中で横の部屋に入って見えなくなったけど、厨房に行ったのかな。


「あー、なんか緊張する…」

「なんでやねん。ちょっと上流なだけやん」

「木賃宿とか、大きくてもベラニクの旅館みたいなところにしか泊まったことないから、こういうところは苦手だなぁ…」

「まあ、そのうち慣れるて」

「お兄ちゃんは、こういうところに泊まったことあるの?」

「何回か、な」

「ふぅん…」

「あっ」

「どうしたの、リュウ?」

「翔お兄ちゃんなの」

「え?」


さっきの人が入っていったところに翔お兄ちゃんが立っていて、誰かと何か話している。

遠くてちょっと聞こえないけど…。


「何やってるんだろ」

「短期の仕事やろ。組合に斡旋してもらったんとちゃう?」

「それはそうだろうけど…」

「弥生もここで働いとるんかな」

「さあ…?」


翔お兄ちゃんは一旦部屋に入って、また出てくる。

それから、真っ直ぐこっちにやってきて。


「お待たせしました」

「お腹空いた~」

「お待たせして申し訳ありません」

「ここで何してるの?」

「見ての通り、給仕です。では、ごゆるりと」


ゆっくりとお辞儀をすると、またさっきの部屋のところに戻っていった。

…なんで、あんな話し方だったのかな。

ちょっと、変だったんだぞ。


「まあ、休憩時間にでも聞きに行こか。真面目にやってるみたいやし」

「そうだね。それにしても、街に来て早速仕事ってことは、何日か停泊するのかな」

「さあな。でもまあ、越境証明受けるにも審査に時間掛かるからな。ある程度は停泊するんとちゃうか?」

「そっか。…あれ?でも、越境証明を持ってなかったら、北から来れないんじゃないの?」

「越境証明の要らん国ばっかり通ってたんちゃうか?ルクレィも要らんしな」

「ふぅん。そうなんだ」

「ルクレィから出たことないんか?」

「うん。ずっとルクレィ」

「まあ、それもひとつの旅の形やわな。でも、国外に出るのもええで。国が違えば、いろんなもんが違う。今まで見えんかったもんが見えてくるからな」

「へぇ~」

「まあ、いっぺん行ってみ。楽しいで」

「うん」


ヤゥトから出るのも初めての自分は、ルクレィを旅するだけでも新しいことばかりなのに。

他の国はもっといろんなものがあるって聞いて、なんだかワクワクしてきた。

エッキョウショウメイ…。

自分も欲しいんだぞ!

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