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鷹は、またリュウの背負い袋に止まって、あたりを見回していた。
何を見てるのかな。
「あー、しんど。やっと頂上やな」
「良い眺めだね。ずっと向こうまで見える」
「でっかい盆地やからな」
「ヤマトのところも盆地だったよね」
「まあ、せやな。ちょっとした盆地やな。でも、こっちは、山を迂回して大きく向こう側に回っていったら、ユールオまで続いてる」
「へぇ。向こうと繋がってるんだ」
「もしかしてお前、ヤマト経由でしか行ったことないんか?」
「うん」
「…まあ、平地は森に入ったりしたら賊も多いしな。ああいうやつらは、いくら捕まえても減らん。山道は、ちょっと大変な分、そういうやつらも少ないし」
「ふぅん」
「まあ、護衛として雇われてる分くらいは守ったるけどな」
「それはもう、きっちり働いてくれないと」
「…賃金は貰ってへんけど」
「前に払ったじゃない」
「あれは、ヤマトまでの料金や」
「どうせ後払いでしょ。今、お金ないし」
「…踏み倒すなよ」
「踏み倒さないよ。たぶん」
「なんや、それは…」
そういえば、お兄ちゃんは護衛だったんだぞ。
護衛としては、あんまり働いてないけど…。
「……!」
「わわっ!な、何?」
「あ、飛んでいった」
「ホントだね。何だったんだろ」
「さあ?」
急に飛んでいった鷹は、遠くに小さく見える街に向かっていってるみたいだった。
あれが、ルイカミナなのかな。
「ねぇ、あそこ」
「あれがルイカミナやな。翔らは着いた頃やろか」
「そうなの?」
「見た目ほど遠くも小さくもないよ。周りに何もないから、そう見えるけど」
「ふぅん」
「まあ、充分景色も堪能したし、そろそろ行こか。頑張ったら夜までには着くやろし」
「うん」
ルイカミナってどんなところなのかな。
あんなに小さく見えるのに、そんなに遠くないって…。
なんだか、ちょっと不思議なんだぞ。
坂道を下っていると、前に誰かが見えた。
何かを探してるみたいで、草むらに頭を突っ込んでいる。
「あの…何してるんですか?」
「わっ、びっくりした」
「何してるんですか?」
「探し物だよ。キミたちは?」
「私たちは旅の者です」
「ルイカミナに行くの?」
「はい」
「そう。ようこそ、ルイカミナへ!…って、これは違うなぁ」
「何ゆうてんねん、お前は…」
「私はね、ルイカミナ自警団に所属してる茜っていうんだ。今のは、ルイカミナに来た人を歓迎する言葉だよ」
「ふぅん」
なんだか面白い。
…そういえば、茜ってどこかで聞いたような。
「茜さんって、もしかして、ベラニクにお母さんがいたりします?」
「うん。いるよ」
「あっ、じゃあ、ちょうどよかった。手紙を預かってるんです」
「手紙!そうだよ手紙!私の鷹子がいなくなって、探してたんだよ!」
「鷹子…」
「鷹子って鷹やろ?草むらん中探しても見つからんと思うけど。そんなとこ探すんやったら、空見てた方が早いんとちゃう?」
「あ、それもそうか。頭良いね」
「なんやねん、こいつは…」
「でも、心配で心配で。家出して一週間くらい帰ってこないから、ホントにもう…」
「はぁ?家出?鷹が?」
「鷹子だよ」
「そんなんどうでもええわ」
「私が鷹子の餌をちょっと食べたから怒ってるんだ…。あ、でも、美味しかったよ」
「鷹の餌を食う機会には、一生恵まれんと思うわ」
「そう。残念」
「…えっと、手紙なんですけど」
「手紙?鷹子がいなくなってから書いてないけど」
「いや、そうじゃなくて、茜さんのお母さんから手紙を預かってるんです」
「えっ、ホント?」
「さっきゆうてたやろ…」
「はい、これです」
「ふむ」
茜お姉ちゃんはすぐに封を切って、手紙を読み始める。
そして、すぐに目を上げて。
「大変だ」
「えっ?」
「団長に休暇届出すの忘れてた」
「支離滅裂やな、お前は…」
「いや、ここに書いてある」
「…よっぽどやねんな、お前のうっかりは」
「そうそう。この前も、うっかり鷹子の餌を食べちゃったんだよね」
「…うっかりで済む話やったらええけどな」
「まあいいや。私、一旦帰るね。街に来たら自警団の事務所に来て。たぶん、そこにいると思うし。いろいろ案内出来ると思うからさ」
「分かりました」
「じゃあね。またあとで」
そう言って手を振ると、小走りで山を降りていった。
…なんだか、すっごく元気な人だったんだぞ。
と、草むらがガサガサと動いて。
出てきたのは、見覚えのある赤狐。
「茜、ちょっと茜?」
「なんや、次から次へと…」
「ん?あれ?ルウェ、だっけ。なんでここにいるの?」
「旅してるから」
「あ、そっか。ベラニクにいたんだったよね」
「ルウェ、知り合い?」
「うん。ツクシお姉ちゃん」
「ツクシ…お姉ちゃん?」
「そうだよ。初めまして」
「…初めまして」
「薫は?帰ったの?」
「うん」
「そっか」
「ツクシは、何をしてるの?」
「ん?茜って子の鷹を探してるんだ。どっちか、見なかった?」
「茜さんは、ついさっき、街に帰っていったよ」
「あー、そっか。んー…もう見えないね…」
「茜の近くに転移でもしたら?術式は使えるんやろ?」
「んー。でも、私、転移は苦手だし。どちらかというと、変化ね」
そう言って、宙返りをする。
地面に着地したときには、茜お姉ちゃんの姿になってた。
「どう?」
「どうって言われてもなぁ…」
「まあ、そんなものよね。だから、聖獣の存在を知ってる人は、化かし甲斐がないのよ」
ツクシお姉ちゃんはまた宙返りをして、もとの姿に戻る。
でも、退屈そうに尻尾を振っていて。
「まあ、化かし甲斐とかそういうんは一旦置いといて、追い掛けやんでええんか?」
「茜?追い掛けなくても、どうせルイカミナに帰るのは一緒だし」
「そういえば、ツクシって茜さんと契約してるの?」
「うん。茜がルイカミナに来てからね」
「へぇ」
「なんや。それやったら、転移使わんでも茜んとこに行けるやん」
「そうだけどね。ルウェたちと行こっかなって」
「えぇ…」
「なんで不満そうなのよ」
「面倒くさいやつが、また増えた…」
「失敬な。これでも、薫と同じく、クノさまの右腕なんだから」
「余計面倒くさい」
「なんでよ~…」
お兄ちゃんは、ツクシお姉ちゃんの鼻をピンと弾く。
すると、ツクシお姉ちゃんはお兄ちゃんのことをキッと睨んで。
また新しい旅の道連れなんだぞ。
ルイカミナまでだけど。
でも、なんだか嬉しい。
たくさん、みんなと旅が出来るのは。




