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ずっと坂道が続いていた。
翔お兄ちゃんたちは、今はどこにいるんだろ。
もう山を越えたのかな。
「あー、やれやれ。しんどいなぁ…」
「ルウェとリュウは大丈夫?」
「うん」「大丈夫なの」
「ルウェは、なんやいろいろ契約してるしな。リュウは知らんけど」
「そうだね。特に、薫なんかはすごそうだよね」
「いえ…。それほどでは…」
「まあ、他はチビばっかりやしな。お前の貢献度が一番高いのは事実やろ」
「あ、そういえば、最近、悠奈とか七宝とか見ないよね。ずっと寝てるの?」
「うん。眠たいんだって」
「聖獣の子供はよく寝ますね。ミコトは比較的元気でしたが。そして、起きているときはその余りある力を最大限使って、こっちの世界に来てイタズラをしたりする困ったのもいます。まあ、契約をしさえすれば、そんなことはしなくなるんですが」
「なんで?」
「契約してしまうと、他のものに憑依出来なくなるということもありますが、やはり契約者のお陰であるところが大きいようですね」
「ふぅん?」
「契約するときはだいたい、お互いがお互いを気に入って…という場合が多いです。だから、イタズラしてるくらいなら、その力を契約者のために使いたいと考えるんでしょうね」
「ちょっと待って。お互いがお互いを気に入ってって場合が多いってどういうことなの?そうじゃない場合もあるってこと?」
「今はそんなことはないんやけど、昔は無理矢理契約させられてたこともあったらしい。戦乱が続いたときなんかは特にな。カイトもゆうてたやろ?力を求めてんのかって」
「あぁ、そのことを言ってたの?」
「せやな。あいつ自身は契約したことなかったみたいやけど、仲間がだいぶ酷い目に遭わされたらしい。だから、あんな質問したんちゃうかな」
「ふぅん…」
望は何かを考えるように、一瞬、宙を見つめる。
何を考えてるのかは分からないけど。
「まあ、今はもう聖獣の存在を知ってるんは、斡旋者と契約者、オマケ程度に周りのやつらくらいやから、そんな不届きな輩もおらんけどな」
「でも、なんで広がっていかないんだろ」
「ん?いるって噂が、か?」
「うん」
「なんでもそうや。人間は、実際に目にしてみやな信じられんもんやろ?幽霊がおるって触れ回ったところで、相手にしてもらえんやん。それと一緒やろ。聖獣は、その辺におる犬猫とかと見分けつかんしな。九尾の狐とかはあれやけど、でも、ジッと黙ってたら分からんやん」
「んー…。そんなものなのかな…」
「そんなもんやて。…望は、聖獣のことを広く知らせたいんか?」
「んー、どうなんだろ。そんな気もする。でも、さっきの話を聞いたら、やっぱりダメなのかなって思うんだ。戦は嫌だもん」
「まあ、せやな」
戦は喧嘩だって葛葉が言ってた。
でも、哀しみしか生まない喧嘩だって。
たくさんの人が巻き込まれて、それでいて、失うばかりで得られるものはない。
それなのに、戦をするのはなんでなんだろ。
葛葉はそれ以上は何も言わなかったけど。
…カイトの仲間が酷い目に遭ったって聞いて、今まで遠くにあった戦が、少し近くに来たような気がした。
本物の戦は知らないけど、でも、そんな気がした。
薫に乗ってると、見える世界が全く違う。
地面より木の枝の方が近い。
リュウは、寝転がって木の隙間から見える空を見ていた。
「ルウェさま。あまり木の枝を揺すると、毛虫が落ちてきますよ」
「えっ」
「せやな。刺されてもあかんし」
「毛虫…」
「あ、そういえばさ、ルウェ。その服はどうしたの?」
「なんや、今気付いたんか?」
「そういうわけじゃないけど…」
「向こうの世界の姉さまに買ってもらったんだぞ」
「へぇ。それで、前の服は?」
「んー…。置いてきたかも…」
「そっかぁ。また取りに行かないといけないね」
「うん」
また取りに行かないと。
葛葉にも会いたいし。
きっと、また行けるから。
「でも、こっちでもよく見るようなかんじだよね。向こうもあんまり変わらないのかな」
「そうちゃう?まあ、似たような世界なんやろ」
「ふぅん…」
「どちらにしろ、オレらでは知り得んことや。…いや、望は聖獣の世界は知ってるか」
「そういえば、あの世界も別の世界だったよね」
「なんや、その今気付いた感は…」
「だって、あのときは何も分からないうちに帰ってきたし、あれ以降一回も行ってないし」
「行こうと思てないだけちゃうんか」
「まあ…それもあるかな」
「なんや、それは…」
「聖獣の世界は、ほとんどの世界と密接に繋がっていますので、他の世界と比べても敷居は低いと思います。望さまは契約もしてますし、行こうと思えばすぐに行けるはずですよ」
「んー。まあ、そうかもね」
「はい」
「それにしても、タルクメス…だっけ。なんか良いかんじだったなぁ」
「なんや。格好良かったんか?」
「んー、どうだろ」
「タルクメスさまは虎ですので、あまりそういった基準では計りにくいかと」
「まあ、それもそうなんだけど、なんというか、優しいというか」
「火の神やのに?」
「タルニアやクィルは燃え盛る炎そのものですが、タルクメスさま自身やリュウは周りを優しく照らす…言うなれば、行灯の火ですね。火と言っても、いろいろあるんですよ」
「ふぅん…。火の聖獣はカイトしか知らんかったからな。似たようなもんかと思てたわ」
「火は水に並び、最も幅の広い属性だと言われていますので」
「そうか」
お兄ちゃんは納得したように頷いて。
何なんだろ。
何か分かったのかな。
「ふぁ…」
名前を呼ばれたときに、少し反応してたリュウだけど。
大きな欠伸をして、寝る体勢になっていた。




