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「あー、疲れた疲れた」

「響は、ほとんど、座ってばっかりだったじゃない」

「だって、釣れないんだもん」

「お前はせっかちなんだ。当たりも来てないのに、入れてすぐに上げて。釣り堀じゃないんだから、入れ食いなんてそうそうあるものじゃない」

「美希お姉ちゃんは、すぐに釣れてたのに…」

「魚が集まる場所で待っていれば、遅かれ早かれ魚は掛かる。お前は辛抱が足りないんだよ。魚が、今入ってきたものが餌だと分かる前に上げてるんだ」

「でも、ゆっくりしすぎて餌だけ取られるなんて勿体ないし…」

「だから、餌を取られることを、怖がってちゃ、魚は釣れないって、美希お姉ちゃんに、何回も聞いたでしょ?」

「でも…」

「私が教えたことを踏まえれば、すぐに釣れるようになるから。またゆっくり練習しよう」

「はぁ…」


響は大きなため息をついて。

釣りって、そんなに難しいのかな。

やってみたかったんだぞ。


「でも、お魚はいっぱい釣れたの」

「リュウは、一回釣ってからは負けなしだったな。一本釣りでもしてるのかと思ったよ」

「一本釣り?」

「魚の群れに針を下ろして、それこそ入れ食い状態でどんどん釣り上げる漁法だ。鰹の一本釣りが一番有名なのかな」

「ふぅん」

「たくさんの人で、漁に出て、たくさん釣ってくるんだよ」

「たくさん?」

「うん」

「美味しそうなの!」

「…美味しいかどうかは、食べてみないと分からないけどな」

「ぼくは素寒貧だった」

「リュウのすぐ下流で釣ってたからな。魚が回ってこなかっただけだろう」

「そうかな」

「ああ。今度また、紅葉と一緒に釣ってみるといい」

「うん」

「自分もやりたかったんだぞ」

「あぁ、そうだな。ごめんな。でも、望が釣りの名手だから、教えてもらうといい」

「そ、それほどでもないよ…」

「そんなに上手なの?」

「リュウよりもな」

「へぇ~」

「買い被りすぎだよ…」

「まあ、掴み取りはもっと上手いけど」

「み、美希お姉ちゃん!」

「掴み取り?」

「ああ。釣竿なんて使わずに、直接川に入って魚を捕まえるんだ。掴み取りなら、望は名手どころか達人級だな」

「もう!その話はダメ!」

「…なんで?」

「ははは。ダメと言われたら、話すことは出来ないな」

「ホントにもう…」


なんでダメなんだろ。

余計に気になるんだぞ。

望はバタバタと不機嫌そうに尻尾を振ってるし、美希お姉ちゃんはニコニコ笑ってるし。

なんだか、よく分かんない。


「さて、おかずはバッチリだな。あとは、ご飯と野菜だ」

「今日の夕飯、すっごく楽しみなの!」

「リュウは食いしん坊だしね」

「うん!」


食いしん坊じゃなくても楽しみなんだぞ。

今日の夕飯は、きっといつもの何倍も美味しいから!



畑仕事が終わって、みんな帰ってきた。

みんな、いろんなところに土を付けていて。


「あー…。明日は寝込むかもな…」

「兄ちゃん、だらしないよ」

「お前はずっと座ってるだけだったじゃないか…」

「そんなことないよ。兄ちゃんに、的確な指示を出してたでしょ?」

「何が的確なんだよ…」

「とりあえず、翔が軟弱やってことは分かったわ」

「はぁ…。軟弱で結構…」

「そういうお前も、ことあるごとに座り込んでたじゃないか。あれは軟弱とは言わないのか」

「紅葉が元気すぎんねやろ。なんで、あんな休みなく働けんねん」

「契約してるせいだろうな」

「あぁ…。でも、翔は全然やん」

「まだ力が馴染んでないんだろ」

「へぇ。馴染むんに時間掛かるんか」

「…斡旋者なのに知らないこともあるんだな」

「自分自身は契約してへんからな。ある程度の聖獣の知識と斡旋者としての知識しか持ってへんから、契約したあとのことは全然知らん」

「そうなのか」

「ご期待に沿えんで悪かったな」

「いや、別に期待してない」

「…酷いな、お前」

「どうも」


狼の姉さまは適当に返事をすると、肩に掛けてた手拭いで汗を拭いて。

でも、手拭いも泥だらけだから、余計に汚れてしまう。


「ふぅ…。先に風呂だな…」

「そうだな…」


翔お兄ちゃんは頷くと、何か呻きながら立ち上がって。

他のみんなも、用意をし始める。


「じゃあ、一旦宿に帰るか」

「うん」


お風呂に入りに。

自分は何もしてないけど…。

宿に帰る。



光はまた、なかなか来なくて。

響が押してきて、やっと入ってきた。


「紅葉。相変わらず、全裸でも平気なんだな」

「平気も何も、風呂場はそういうところだ。恥ずかしがることもないだろ?」

「そうそう。光も、ちょっとは見習えばいいのに」

「響。私は、こういうところでは、少しは恥じらいをもつようにと教えてきたつもりだが、どこで間違えたんだろうな?」

「さあ?」

「…とにかく。混浴なんだから、前を隠すくらいしろ。紅葉もな」

「善処する」

「同じく」

「ほんで、その会話も筒抜けやぞ。美希も、たいがいやと思うけどな」

「お前はこっちに来るな。子供たちに悪影響を与える」

「なんやそれは…」

「やらしいことばっかり考えてるってことでしょ?」

「はっ。ちんちくりんの響なんか見ても、そんなん考えられんわ。最低、紅葉か美希くらい大人っぽくないとあかんな、やっぱり」

「何よ、それ!」

「ゆうた通りや」

「じゃあ、お前はオレたちを見てやらしいことを考えているのか?」

「あー、無理無理。本性知ってたら無理やわ」

「そうか。残念だ」

「じゃあ、リュウは?リュウはちんちくりんじゃないでしょ」

「……?」

「リュウは、ルウェとかと並べても遜色ないくらい子供っぽいやん、性格は。せやのに、身体つきはええから、危なっかしくて逆に気になるわ」

「やっぱり、やらしいこと考えてるんだ」

「せやなぁ。男はやらしいことばっかり考えてるからなぁ。まあ、リュウに手ぇ出すようなやつは、オレとか紅葉あたりが成敗するやろうけど」

「もちろんだ」

「そうでなくても、旅団天照に所属してるんやし」

「まあ、その手を出すやつの中にらお兄ちゃんが入らないことを祈ってるよ」

「だから、入らんて…」

「それより、翔はどこに行ったんだ」

「向こうの方におるで」

「ふぅん…」

「望と光も端っこにおるしな。勿体ない」

「何が?」

「みんなでワイワイ入った方が楽しいやろ?ていうか、翔が向こうにおったら、オレ一人が男やから肩身狭いわ」

「はは、嘘つけ」

「あー、肩身狭いなぁ」

「可愛い女の子に囲まれて幸せ、の間違いでしょ?」

「ホンマに可愛かったらな」

「…そこは、嘘でも可愛いって言っとくところでしょ!」

「ん?あぁ。可愛い可愛い。響はちんちくりんで可愛いなー」

「もう!」

「痛っ!」


チンチクリンって何なんだろ。

響は怒ってるから、たぶん言っちゃダメなことなんだぞ。

…でも、望も光も翔お兄ちゃんも、ホントに勿体ないんだぞ。

みんなと一緒にいる方が楽しいのは、ホントなんだから。

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