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「出来た!」
「おっ。見せてみろ」
「うん」
「んー…。よし、なかなか上手く出来てるな」
「えへへ」
「一所懸命作ったんだ。大切に使えよ」
「うん!」
狼の姉さまから鞄を返してもらうと、リュウはそれをギュッと抱き締める。
うん。
可愛くて良い鞄だと思うんだぞ。
「はぁ~。さて、私もおやつにするかな」
「早く食べないと、夕飯が食べられなくなるからな」
「もう…。子供じゃないんだから…」
「ヤーリェは子供だ」
「あ、そうだった。ヤーリェがまだだったよね」
「ああ」
「ヤーリェ、起きなよ。おやつにしよ」
「んー…」
「ヤーリェ」
「んぅ…」
「ほら、起きて」
「ふぁ…」
「おやつにしよ」
「うん…」
ヤーリェは目を擦りながら大欠伸をする。
次に伸びをすると、頭をフルフルと振って。
「おやつ」
「うん。はい、これ」
「あっ」
「え?どうしたの、リュウ?」
「お茶飲むの忘れてた」
「お茶…」
「お茶か…。よし。じゃあ、淹れにいこう」
「うん」
「オレは番茶がええな」
「一人一人の希望を聞く余裕はない」
「ほいほい…」
「わたしは玉露入りがいいな」
「玉露か。あればいいけどな」
「うん」
「なんや、リュウの希望は聞くんかい」
「今から淹れにいくのはリュウだ。ここでジッと待ってるだけのお前とは違うんだよ」
「よっしゃ。そこまでゆうんやったら、オレも行く」
「好きにすればいい」
そして、三人は部屋を出ていった。
お兄ちゃん…。
なんか、大人げなかったんだぞ…。
「ホント、子供だよね。すぐにムキになっちゃって」
「うん」
「紅葉さまの挑発が、よほど頭にきたんでしょうね」
「うん。短気だよね~」
「はい」
望はどら焼きを取って薫にもたれかかる。
そして、寝心地を確認してから、どら焼きを食べ始める。
「望さま。行儀が悪いですよ」
「んー。それより、薫ってフサフサだよね。私、龍って鱗ばっかりだと思ってたんだ」
「割合としては二八といったところです。鱗の龍の方が多いですね」
「へぇ、そうなんだ」
「龍は、私のような聖獣を含めても、なかなか見掛けないですけどね」
「前に、緑龍を見たんだぞ」
「あ、そうだったよね」
「緑龍ですか。あれは鱗ですね」
「うん」
「そうだ。龍と言えば、クノさんの聖獣も黒龍だったよね」
「うん。千早」
「ミコトも薫も黒龍だけど、黒龍ってそんなに多いの?」
「龍の中では一般的ですが、だからといって数が多いわけでもないです。一番数が多いとされてるのは、さっき言ってた緑龍ですね」
「へぇ~。そうなんだ」
「ええ。あと、千早はうちの末っ子です」
「えっ、兄妹なの?」
「はい。まあ、クノさまにベッタリのようですので、最近はなかなか会えないんですが…」
「会いたい?」
「そう…ですね。クノさまに迷惑を掛けていないか心配ですし…。でも、千早がクノさまのことを大好きでくっついているのなら、それはそれでいいです。私が口出しすることでもありませんし」
「そっかぁ。複雑だね」
「千早のしたいようにすればいいと思うんです。まだまだ子供ですが、クノさまなら安心して預けられます。他力本願と思われるかもしれませんが、クノさまにいろいろと教えてもらえばいいと考えているんですよ。一度しか会ってないですが、クノさまなら信じられる。そう確信してます」
「へぇ~。やっぱりすごいな、クノさんは。でも、の通りだと思うよ。クノさんは誠実だし、しっかりしてるし、一途だし」
「一途…ですか」
「あ、いや、なんでもないよ。それは忘れて」
「は、はぁ」
「うーん…。私も、クノさんみたいなお兄ちゃんが欲しかったなぁ」
「望さまは、一人っ子なんですか?」
「ううん。兄弟はいっぱいいるよ。ルウェもリュウも、みんなみんな」
「血の繋がった兄弟は…」
「それは分かんない。でも、血の繋がりなんて関係ないと思う。私は実の兄弟以上に、みんなのことを兄弟だと思ってるつもり。いるかどうかも分からない血の繋がった兄弟のことを考えるより、今ここにいる兄弟を想いたいから。想ってるから」
「…すみません。変なことを聞きました。どうか、ご容赦のほどを」
「別にいいよ。薫は、私のお兄ちゃんでしょ?」
「わ、私ですか?」
「うん」
「私は…」
モゴモゴと何かを言おうとする薫に、もう一度もたれかかって。
食べさしのどら焼きを薫の口に突っ込んで、何も言わなくていいことを示す。
「はぁ~。良い寝心地」
「んぐ…」
「ものを口に入れたまま喋らない」
「………」
「そうそう。それでいい」
「望お姉ちゃん、寒天食べていい?」
「いいよ。私のも食べなよ。私はもういいから」
「分かった。ルウェも欲しい?」
「うん。ちょっとだけ」
「じゃあ、半分こにしよっか」
「うん」
ヤーリェは匙で寒天を上手く半分に切って、さらに小さく切った切れ端を口のところまで持ってきてくれる。
さっきも食べたけど、やっぱり掛けてある蜂蜜は絶品で。
「美味しい?」
「うん!」
「えへへ。よかった」
「ほら、ね?」
「…はい。そうですね」
「え?何か言った?」
「ううん、なんでも」
「ええ。何もないです。どうぞ、おやつの続きを」
「うん」
望と薫は、顔を見合わせて笑っていた。
どうしたのかな。
何か良いことがあったみたいに。
…まあいいか。
それより、リュウたち、早く帰ってこないかな。
お茶が欲しくなってきたんだぞ。