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野草で取った出汁に野草を入れて、良い香りのする野草を散らして野草汁が完成。
焼き野草をおかずにして、野草の実を炊いたものを食べる。
「…草ばっかりなんだぞ」
「そうだね」
「………」
「不味くはないでしょ?」
「うん…。でも、ホントに草ばっかりなんだぞ…」
「夕飯は良いのを作ってあげるから我慢しなさい」
「むぅ…」
「食べられるだけマシだよ。野草も採れないときだってあるんだから」
「………」
食べられるだけ…マシなんだぞ…。
心の中でそう繰り返しながら、望が飲んでいる緑色の汁を見ていた。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした…」
「不満そうだね」
「そんなこと…ないもん…」
「はぁ…。仕方ないね。じゃあ、これ、食べよ」
そう言って望が後ろから取り出したのもやっぱり草だった。
ただ、さっき食べたのとは別の料理というだけで。
「………」
「ほら、食べよ」
「うん…」
渡されたものを受け取り、望の出方を見る。
望は何の躊躇いもなく、その草を食べていて。
…自分も食べないと。
「……!」
「どう?」
「すっごく美味しい!」
「でしょ~。スクンで作ったお菓子だよ。野草料理の口直しによく食べるんだ」
「へぇ~」
さっき食べたスクンよりもずっと甘くて。
味の薄い野草料理ばっかりだったのが吹き飛ぶくらいに美味しかった。
「美味しいものを食べて、お腹も心もいっぱいに。ということで、満足出来ましたか?」
「うん!」
「ふふ、良かった」
スクンのお菓子を頬張って。
お腹も、心も、大満足。
昼ごはんを食べてから、また森の中を歩いていた。
少し変わったのは、坂道が多くなったこと。
山を登ってるらしかった。
「明日には次のところに着けるかな」
「明日?」
「うん。明日」
「今日は?」
「今日は野宿だね」
「ノジュクって?」
「どこかその辺で寝ること。でも、明日香もいるし、大丈夫だよ」
「うん」
何が大丈夫なのかは分からないけど。
ノジュク…。
なんだかワクワクするんだぞ!
「疲れたら明日香に乗せてもらいなよ。まだまだずっと登り坂だし」
「うん。分かった」
そして、隣を歩いてる明日香の頭を撫でると、軽く尻尾を振ってくれた。
「今の時期、あまり良い木の実がないんだけどね。山の上の方に美味しいのがあるんだ」
「へぇ~」
でも、周りを見ると、木の実のなってる木はたくさんあった。
なんで、あれはダメなんだろ?
「あれはまだ熟してないからだよ」
「え?」
「ほら。たとえば、この木の実。青くないし、食べられると思うでしょ?」
「うん」
「でも、これ。見て」
そう言って、木の実を割る。
…中はスカスカで、実が詰まっていなかった。
「ね?今は、だいたいの木にとって、実を作る準備をする時期なんだ。この木の実も、あともうちょっと経てば良いかんじになるんだよ」
「へぇ~」
「でもね、それでも食べるものが無くならないように、少しずつ時期がずれてるんだ」
「みんなで考えたのか?」
「ふふ、そうかもね」
森や山に住んでるみんなが集まって話し合ってる様子は、すごく楽しそうで。
自分も、いつか入れるかな。
入りたいな。
「………」
「ん?どうしたの、明日香?」
「ワゥ…」
「…何?」
明日香は、一点を見詰めて動かなかった。
また…何かいるの…?
「ルウェ。そこで待ってて」
「うん…」
「明日香」
「………」
明日香に合図を送り、望が様子を見にいく。
草むらをかき分け、油断なく周りを見回しながら、少しずつ前へ進んでいく。
「………」
「望…」
背の高い草がどんどん望の姿を隠していって、それに合わせて不安が大きくなる。
「望…望…」
もうすっかり見えなくなった望。
名前を呼んでみても、返事はない。
それがさらに不安を加速させて。
「望…望ぃ…」
「………」
「うぅ…」
「ルウェ!ルウェ!ちょっとこっち!」
と、草むらの向こうの方から望の声がした。
考えるより先に、駆け出していた。
なんで呼ばれたのか、どこにいるのか。
そんなことは、ずっとずっと後回しで。
とにかく、一刻も早く不安を消し去りたかった。
「望…!望!」
「わわっ!どうしたの?」
「うぅ…。怖かった…怖かったよ…。望がそのままいなくなるんじゃないかって…」
「…ごめんね。怖がらせちゃって。でも、私はずっとルウェの傍にいるから」
「望…望ぃ…」
「ね?だから、泣かないで」
「………。うん…。泣かない…」
「ふふふ。良い子良い子」
望は強く抱き締めて、優しく頭を撫でてくれた。
ずっと、傍にいる…。
ずっと…。
「もう大丈夫?」
「うん…」
「よし。じゃあ、あそこ。見てみて」
望が指さした先には、龍の親子がいた。
綺麗な緑色をした、緑龍の親子。
向こうも、こっちをジッと見ていて。
「ゥルル…」
「な、何?」
「ちょっと待ってて」
「ゥルル…」
「………」
「ォオン…」
何か心まで響くような、不思議な声で。
今、この空間が、夢の世界のようなかんじがした。
「ルウェ、行くよ」
「…え?どこに?」
「あの親子のところにだよ」
「え?」
急に現実に引き戻されたみたいで、望が何を言ってるのか一瞬分からなかった。
でも、望はずんずんと進んでいくから、付いていくしかなくて。
そして、着いた先。
緑龍は、遠くから見ても大きかったのに、近くで見るともっと大きかった。
「ゥルル…」
「うん。旅の途中」
「………」
「私は望。この子がルウェで、あっちで不貞腐れてるのは明日香」
「ねぇ…望…」
「大丈夫。優しい子たちだから」
「で、でも…」
「ほら。触ってみなよ」
望は、親龍のお腹のあたりをゆったりと撫でる。
すると、それを見て子龍たちが集まってきて、望にねだるように纏わりつく。
「あはは、くすぐったいよ。もう、順番順番」
…龍なんて、セトしか見たことなかった。
セトは優しかったけど、この龍も優しいかどうかは分からない。
でも、望と子龍の様子を見てると、羨ましくなった。
自分も、触ってみたい。
「ォオン…」
「え?」
「触ってみなよ。最初は勇気がいるかもしれないけど、その一歩を踏み出すことが大事」
「うん…」
最初の一歩…。
望がやってたように…。
そっと、親龍のお腹に触れてみる。
「ゥルル…」
「わぁ~」
鱗ばかりの見た目に反して、すごく柔らかかった。
それが気持ち良くて、次は抱き付いてみる。
腕を回しても届かないくらい、身体の回りは大きかったけど。
でも、とっても温かくて。
「ギャオー、ギャオー」
「ふふ、妬いてるんだ~」
「温かい…。お母さんみたいなんだぞ…」
「お母さん、か」
「ゥルル…」
親龍は優しく包み込んでくれて。
胸のあたりが、ほっこり温かくなった。