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「狭いな…。さすがに」
「人数多いからね~」
「二班に分かれようか。オレの班と美希の班で」
「わたしたちは、美希お姉ちゃんだね」
「んー」
「じゃあ、ぼくは紅葉お姉ちゃんの方」
「俺はどうするかな…」
「翔は、こっちだよね」
「珍しいな、光が積極的になるなんて。翔のことが好きなのか?」
「えっ、あ、いや…。えっと…」
「ははは。まあいい。じゃあ、翔はこっちだな。弥生はどうする?」
「兄ちゃんと一緒に行く」
「そうか。ルウェはここから動けないとして…あとはリュウと望だな」
「私はルウェと一緒にいるよ」
「わたしも~」
「二人とも紅葉の方だな。よし、決まりだ。じゃあ、移動しようか」
「隣の部屋がいいだろ。俺たちがもともと取ってあった部屋だ」
「そうか。隣なら便利もいいしな」
「昼ごはん、そっちにも運ぶように言っておくから」
「ああ。頼んだぞ」
そして、美希お姉ちゃんの班は材料を持って隣の部屋に。
少しだけ広くなった気がしたけど、ちょっと寂しいかも。
「八人でも手狭だったけど、さすがに十人は無理だったな」
「うん。ちょっと狭かったの」
「今晩の部屋割も考えないとな。聖獣たちは、悪いけど向こうに帰ってもらうとして…」
「ねぇ、早く鞄の作り方、教えて!」
「あぁ、そうだな。今はそれが最重要事項だ」
「ルウェの分は、私が作ってあげるね」
「うん」
「さて、まずは何を作るかだけど…」
「えっ、鞄じゃないの?」
「望やリュウはともかく、ヤーリェとルウェはまだ鞄に余裕があるだろ。無駄に大きい鞄は、逆に荷物になるだけだ。ピッタリの大きさでも困るから、少しだけ余裕があるくらいがいい」
「へぇ~」
「だから、望とリュウは今の鞄の拡張を、ヤーリェとルウェは小さな携行鞄を作ろう」
「はぁい」「分かった」
「よし。じゃあ始めようか」
「はい、ちょっと待った」
部屋の戸が開いて、お兄ちゃんが入ってくる。
あとに続いて明日香、大和、薫も。
「ん?残りは?隣か?」
「ご名答。行ってらっしゃい」
「薫」
「はい」
薫は隣の部屋に回って。
お兄ちゃんは手に持ってた皿を下ろして、明日香と大和が背中から吊り下げてた袋を取る。
「薫って、身体が大きい分、力も強いな。オレら三人掛かりで半分やのに、あいつ一人でもう半分持っていきよるからな。びっくりするわ」
「びっくりしたのか?」
「んー。まあ、予想通りやな」
「それより、お昼ごはんは何なの?」
「なんや、望。治ってすぐそれか」
「ち、違うって!しかも、治る前だってそんなのじゃないし!」
「あー、はいはい」
「何よ、それ!私が食いしん坊みたいじゃない!」
「事実やし」
「食いしん坊じゃないもん!」
「ルウェ、リュウ。いつもこうなのか?こいつらは」
「うん」「そうだね」
「えぇっ、即答!?しかも、二人とも!」
「まあ、どうでもいいから早く準備をしよう」
「どうでもよくないよ!ねぇ、紅葉お姉ちゃん!」
狼の姉さまは、騒いでる望は無視して。
テキパキとお昼ごはんの準備を進める。
「それで、この料理は何なんだ?」
「それはご飯をパラパラに炒めたやつやな。なんや名前は忘れたけど」
「ふぅん…。オレは初めてだな」
「そうなん?まあ、大衆食堂で短期やったときに覚えたやつやしな。もしかしたら、そこでしかやってへんのかもしれん」
「ほぅ…」
そのご飯を取り分けながら、材料とかを調べてるみたい。
ジッと見つめたり、匂いを嗅いだりしてる。
「そんな真剣にならんでも、作りたかったら教えるし」
「ん?そうか?こういう技術や味は盗めって言うけどな」
「ここは料亭でもなんでもないからな。いくらでも教えたるし」
「そうか。すまないな。それで、これはご飯と卵と…あとはほうれん草と胡椒だけで作ってるのか?まあ、ほうれん草と胡椒は仕上げとして…実質ご飯と卵だけか」
「なんや、そこまで分かっとるんかい」
「いや、それしか入ってないし、簡単に想像がつくだろ…」
「ホンマやったら肉とか海老とかも入れるんやけどな。まあ、しゃーない」
「ふぅん…」
「ねぇ、早く!お腹空いたの!」
「あ、あぁ、すまない。ほら、まずはこれだ」
「食べていいの?」
「んー…まあ、全部揃ってからの方がいいかもな」
「じゃあ、もうちょっと待つの」
「ああ。もうちょっとだけ待ってくれ」
そう言って、またテキパキと取り分けていく。
…どれも美味しそうなんだぞ。
早く食べたいな。
「おかずに肉を回したから、こっちのご飯に肉が入らなかったのか」
「せやな。まあ、こっちのをちょっと減らして、そっちに回してもよかったかな」
「いや、これでちょうどよかったかもしれない」
「それやったらええけど」
「これって何の肉なの?」
「鹿肉や。朝から捕ってきたんやろ?」
「まあ、鹿が目的だったわけじゃないけどな。昼ごはんに出来ればいいと思って」
「紅葉お姉ちゃんが捕まえたの?」
「オレと大和だ。二人でやった方が楽だしな」
「へぇ。大和もこういうこと出来るんだ」
「…どういうことだよ」
「だって、大和ってなんか鈍臭そうだもん」
「はぁ…。全然分かってねぇな、望は。俺の狩猟能力をそんじょそこらの狼と一緒にしてもらっちゃ困る」
「ふぅん…」
「あっ、信用してねぇな!」
「だって、実際には見てないし」
「おぅ。じゃあ、また今度見せてやるよ」
「やめておけ。恥をかくだけだぞ」
「なっ!紅葉!」
「ワゥ」
「あ、明日香…」
「あはは。確かに、そんじょそこらの狼と一緒にしちゃいけないみたいだね」
「ち、違うぞ!本当に上手いんだからな!」
うーん…。
大和の腕なんてどうでもいいから、早くごはんが食べたいんだぞ…。
ヤーリェとリュウも、もう待ちきれないみたい。
はぁ…。
お腹空いたな…。