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翔お兄ちゃんが帰ってきた。
何かいろいろなものを背負って。
それを下ろすと、周りの布団を片付け始める。
「それで?その大きいのは何なんだ?」
(お兄ちゃん!)
「お兄ちゃん?」
「ミコトと薫は、実の兄妹だって、クノお兄ちゃんが言ってたんだぞ」
「ふぅん…。クノ…」
「薫というのは、私の名前でしょうか」
「うん」
「名前、まだ貰ってなかったのか?」
「はい。今回が初めての契約で…」
「兄妹揃って名無しの権兵衛だったのか」
「お恥ずかしながら…」
(恥ずかしいの?)
「あ、いや…」
「そういえば、望は?治ったんだろ?」
「うん。今、お兄ちゃんと厨房に行ってるんだぞ」
「厨房か…。紅葉姉さんたちと鉢合わせしてるだろうな」
「狼の姉さまも厨房に行ってるの?」
「ああ。紅葉姉さんと、あとは弥生とリュウだな。他の三人は村に行ってる」
「なんで?」
「昨日のお菓子を取りにいってるんだ。少し時間の掛かるやつもあったからな」
「ふぅん」
「まあ、またあとで一緒に食べよう」
「うん」
「あの…」
「ん?」
「ミコトの契約者はあなたでしょうか」
「そうだけど。あ、ミコトの兄貴だったな。よろしく」
「は、はい…」
「固くなるなよ。それより、布団を片付けるの、手伝ってくれないか?」
「あ、はい。ただいま」
そして、薫と翔お兄ちゃんは一緒に布団を片付け始める。
薫が立ち上がると、床から背中までで翔お兄ちゃんと同じくらいの高さがあった。
「立つと余計に大きいなぁ。ミコトもこれくらいになるのか?」
「いえ。もう二回りほど小さいです」
「ふぅん。よかった」
「え?」
「いや。大きいとさ、かさばるな…とか思って。自動三輪だし、宿もあんまり大きな部屋は取れないから。小さい方が便利だし」
「かさばりますか…」
「あ、いや…。そういう意味じゃなくてさ…」
(お兄ちゃん、おっきいもんね~)
「はぁ…」
ミコトに言われて余計に落ち込む。
…なんか、ちょっと面白いかも。
「あー、うぅ…。と、とにかく、ごめん…」
「もう大丈夫ですから…」
(あはは、なんか面白い~)
「ミ、ミコト…」
「はぁ…」
薫はもっと落ち込んで。
うーん…。
翔お兄ちゃんが大変そうなんだぞ。
大きな袋からは、本当にいろんなものが出てきた。
何かの木の実とか、何かの毛皮とか、何かのツルとか…。
これで鞄を作るのかな。
「薫。そっちは何個ある?」
「カシュの実は三十七個、ナルの実が八十四個です」
「うん。ちょうど百個ずつあるな」
(食べてもいい?)
「ダメだ。これは大切な材料なんだから。それに、さっきしこたま食ってたじゃないか」
(うぅ…)
「すみません。迷惑を掛けます」
「いいよ。すでに、うちにも似たのがいるし」
「はぁ、誰でしょうか」
「弥生だよ。そのうち帰ってくると思うけど」
「弥生さまですか。ご兄妹なんですか?」
「ああ。まあ、血は繋がってないけどな」
「へぇ…」
「それより、クノってどんなやつなんだ?」
「え?クノさまですか?」
「うん。気になってるんだ。俺のときはツクシってやつだったけど…」
「クノさまは、私とツクシが仕えさせていただいてる方です。今は少し休養なさっていますが、昔は捲土迅雷の獅子と称えられていたそうです」
「捲土迅雷の獅子…。聞いたことがあるな…。どこで聞いたかな…」
「生涯にただ一人だけ、クノさまが契約を交わした者がいると聞きます。その誰かの逸話の中で…ということではないでしょうか」
「んー…。そうなのかな…」
翔お兄ちゃんは首を傾げながら、次の材料の数を確認し始める。
カイトも言ってたけど、クノお兄ちゃんが契約してた人って誰なのかな…。
自分も気になるんだぞ…。
「ただいま…って、なんだこれは…」
「あ、えっと…誰だっけ?」
「私は美希だ。ちゃんと覚えておけよ」
「あー、そうだった」
美希お姉ちゃんは部屋に入ると、適当に場所を作って座り込む。
すると、すぐにミコトが近付いていって。
(んー?)
「なんだ。私の顔に何か付いてるか?」
(ううん)
「そういえば、お前と会うのは初めてだな。そっちの大きいのも」
「私は薫と言います。現在はルウェさまと契約をしていて、クノさまの補佐もさせていただいております」
(美希お姉ちゃんは、赤狼なの?)
「ああ」
「ミコト!自己紹介が先だろ!」
(うぅ…)
「すみません…」
「頭ごなしに叱ることもないだろ。それで、お前の名前は?」
(ミコト…)
「ミコトか。良い名だな。翔と契約してるのか?」
(うん。ツクシがね、フラフラしてるより良いだろうって言って)
「薫に、じゃなくてか?」
(うん。なんで?)
「薫とは兄妹なんだろ?」
(うん)
「よく分かりましたね。さっき叱ったからですか?」
「まあ、それもあるな」
「えっ、他にもあるんですか?」
「さあな。秘密だ」
「…気になります」
「ははは。まあ、企業秘密だ」
「えぇ…」
何だろうと首を傾げる薫。
でも、美希お姉ちゃんはニッコリと笑うばっかりで。
…なんで分かったのかな。
不思議なんだぞ。
あ…カイトに聞いてたとか?
うーん…。