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「なんや久しいかんじがするなぁ。こうやって三人で話すのも」
「えへへ」
「気持ち悪いやっちゃな。顔がニヤけてるぞ」
「うん。だって、嬉しいんだもん」
「…まあ、せやろな」
「そういや、ルウェ。また契約したって聞いたけど」
「うん」
「えっ。なんやオレ、斡旋者として形無しやな…」
「カイトと悠奈だけだもんね~」
「五月蝿いわ。ほんで?何と契約したん?」
「んー…。ユヌトとクルクス」
「はぁ?ふたつも取り付けてきたんか?しかも、両方土…」
「うん」
「なんでそんな無理さすかな…」
「でも、若の契約はクノお兄ちゃんが取り付けてくれたんだぞ」
「若?」「クノお兄ちゃん?」
「あ…。若の名前、考えないと…」
「クノお兄ちゃんってどういうこと?」
「望。お前が期待してるクノお兄ちゃんとは違うと思うぞ。"遥かな大地"クノや」
「土を司る神様か…」
「まあ、肩書きではそうやろうけどな。実質、聖獣の総大将やって聞いたことある」
「つまり…一番偉い人?」
「そんなところやな」
「えっ。じゃあ、ルウェはすごい人と会ったってこと?」
「せやな…。オレもおうたことないわ」
「へぇ…」
「クノお兄ちゃんは、すっごくフワフワしてて、温かいんだぞ!」
「え?フワフワ?羊?」
「ちゃうちゃう。何ゆうてんねん。獅子や獅子。百獣の王!」
「ヒャクジュウノオウ…?」
「あらゆる獣の中で一番強いってことだよ。で、それが獅子」
「ふぅん…」
「でも、獅子ってフワフワな印象はないけどなぁ…」
「たてがみちゃう?」
「あぁ、なるほど」
「しかし、聖獣の長クノが取り付けた契約となると…相当な力の持ち主とちゃうんか…?」
「何か問題でもあるの?」
「力が強くなればなるほど、契約のときに使う力も多くなる。そうなると、ルウェは相当消耗してるはずや。現に、こうやって身動きひとつ出来んようになってるけど…。でも、この程度やったら、そんなに力は強くない…」
「え?」
「オレの経験からの話になるけど、たとえばルウェくらいの歳の子やったら、カイトくらいのやつと契約するだけで三日は目覚めへん。望はその分ちょっと歳上やし、カイトが上手くやったから、それほど大事にはならんかったけど。身動きが取れん程度やったら、いくら悠奈と七宝の補助があったとしても、大和くらいのやつ…」
「ふぅん…。よく分からないけど」
「別に理解せんでもええ。とにかく、聖獣の長が斡旋したにしては、力の弱いやつやと思ただけ。まあ、実際に会ったこともないし、その辺は分からんけどな…」
「いや、相当な力の持ち主だ」
急に空気が熱くなって、目の前でちょっとした爆発が起きた。
そして、いつの間にかカイトがそこにいて。
「お前なぁ。望が倒れてるときは静かに出てこれたのに、なんで治った途端これやねん」
「ん?ちょっとした祝砲のつもりだったんだが」
「外でやれ、外で!」
「そうか。それは配慮が足りなかったな」
「ホンマに…」
「それで、なんで力を持ってるかどうかなんて分かるの?」
「クノに聞いてきた」
「直接か?」
「ああ」
「ふぅん…」
「なんだ。私にも友人の一人や二人はいる」
「友人?総大将と、か?」
「おかしいか?総大将と言えど、聖獣であることに変わりはない。肩書きこそ長老や神であるかもしれないが、孤独では生きていけないのだよ、結局は」
「へぇ…。神様も聖獣だったんだ…」
「突っ込むとこ、そこかい!」
「神も聖獣…という言い方は少し語弊があるな。聖獣は聖獣だ。神というのは、言うなれば称号であり、その本質を表すものではない」
「ふぅん…」
「話を戻すぞ。ルウェが契約したのはユヌトとクルクス。ユヌトは琥珀という名前で、存在が安定するまでしばらく静養しているということだ」
「存在が安定するって?」
「琥珀は少し特殊な成り立ちがあってな。今ある存在が、この場所に定着していない。吹けば消える霧のようなものだ」
「えぇ…。どういうこと…?」
「ちょっと刺激を加えたら消えてまう…ってことかな。風前の灯火っちゅうこっちゃな」
「そうだな。だが、今は比較的安定しているらしい。クノによれば、存在の定着も時間の問題だろう、ということだ」
「よかった…」
「望が安心してどないすんねん」
「誰が安心したっていいでしょ」
「まあ、そうかもしれんけど…」
「それで?クルクスの方は?」
「ふむ。ルウェのことなのに、私から聞いてばかりではつまらないだろう。ルウェのことはルウェに聞いてみてはどうだ」
「えっ、自分はカイトに話してもらってもいいんだけど…」
「いいじゃないか。若の話はお前から聞かせてやれ」
「うーん…。若は、クノお兄ちゃんのホサをしてるんだぞ」
「総大将の補佐?すごいじゃない!」
「でも、頑固者だって」
「そうだな。あいつは仕事に関してはなかなかに頑固者だが、普段は融通の効く良いやつだ」
「そうなの?」
「ああ。またあとで話してみるといい」
「うん」
「それで、若に名前を付けてやるのではなかったのか?」
「あ、そうだ」
「名前?」
「若には名前がないんだって。契約をしたことがないから」
「なんで契約したことないんだろ…」
「年齢で言うと、大和より少し上といったところだ。それくらいであれば、契約をしたことがないという者も多い。さすがに、ルトほどになると滅多に見なくなるがな」
「ふぅん…。じゃあ、クノお兄ちゃんは?」
「あいつはかつて、捲土迅雷の獅子と呼ばれていた。地を駆ければ砂埃を巻き上げるほどで、しかし、誰もその姿を捉えることが出来なかったそうだ。そして、生涯でただ一人、その身を委ねた者がいる」
「相模の獅子、北条氏康か?」
「いや。…まあ、他人の過去にあまり踏み入るものではない」
「えぇ~…。しょうもな」
「あ、薫」
「カオル?」
「うん」
「何が?」
「若の名前!」
「あぁ…。しかし、また唐突やな…」
「薫…。若は薫!」
「若は若やねんな…」
気に入ってくれるかな?
早くこっちに来ないかな。
楽しみなんだぞ!