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「ふぁ…」

「起きたか」

「うん」

「回復が速いんだな」

「悠奈と契約してるから」

「悠奈か。ルウェ…だったな。珍しいやつもいるものだ」

「なんで?」

「ルウェの力は、だいたいは平均的なものだ。体力にしても、術式を繰る能力にしても。それでも、他の者より疲れにくい…なんてのは割といるが、これだけの高負荷をこんなに短い時間で回復出来るだけの体力がある者は極稀だ」

「ふぅん」

「あるいは、タルニアを超える力の持ち主なのかもな」

「タルニア…。不死鳥なんだぞ」

「ああ。よく知っているな」

「望が契約してるんだぞ」

「ふむ、望」

「うん。自分のお姉ちゃん…大好きなお姉ちゃんなんだぞ」

「そうか、大好きか」

「うん!」


たてがみを握ると、また舐めてくれる。

望…。

大丈夫なのかな…。


「心配か?」

「うん…」

「では、ひとつ、おまじないだ」

「おまじない…」

「ああ。望の病気が早く良くなるように。私からの取って置きのおまじないだ」


クノお兄ちゃんはそっと目を瞑る。

自分も一緒に目を瞑って。

不思議な感触が、顔を撫でていく。

ゆっくりと。


「…さあ、もうそろそろ帰るがいい。琥珀はしばらく戻れないだろうが」

「うん」

「私はいつでもここにいるからな。好きなときに来るといい。次は、一緒にこの草原の果てを見に行こう」

「果てがあるの?」

「それは次のお楽しみだ」

「…うん、分かった」

「じゃあ、またな。楽しみに待ってるよ」

「うん」


もう一度、クノお兄ちゃんの大きな身体を抱き締める。

やっぱり、フカフカしてて温かい。

…また布団の代わりになってもらおうかな。



目を開けると、流星群の代わりに天井が見えた。

大きく伸びをすると、いろんなところの関節が鳴って。


「おはよう。帰ってきたか」

「うん」

「昼ごはん、出来てるぞ。食べるか?」

「うん」


身体を起こそうとすると、押さえられて。

そして、狼の姉さまは横に置いてあったお盆に掛かっていた布を取る。


「無理をするな。身体は動いても、完全には回復していないこともある。それに、悠奈や七宝に聞けば、ごく短い間隔で契約を繰り返しているそうじゃないか。そんなことをしてると、いつか大変なことになるぞ」

「むぅ…」

「とにかく、今日は安静にしておけ」


そっと身体を起こさせて、背中に枕を当ててくれる。

そして、お粥をすくって口元まで持ってきてくれた。


「冷めてないか?さっき持ってきたんだけど」

「うん」

「そうか」


またもう一杯。

何が入ってるのか知らないけど、なんだか少し甘かった。


「翔の特製お粥だ。この甘いのは蜂蜜。村で貰ってきたらしい」

「帰ってきてたの?」

「ああ。昼ごはんを食べて、今度はヤーリェたちも引き連れて、また出ていったけどな。お菓子を作らせてもらっているようだ。ここは野菜くらいしかないように見えるけど、実は良質な蜂蜜が採れるってことで熱心な愛好家の仲間内では隠れた人気があるそうだ」

「ふぅん」

「はは、興味ないか?」

「ううん。蜂蜜はとっても好きなんだぞ。でも、そんなに美味しい蜂蜜なら、みんなと一緒に食べたかった…。みんなと、美味しいねって言いたかったんだぞ…」

「…そうか。それは残念だったな」

「うん…。でも、過ぎたことは仕方ないんだぞ。姉さまも、よくそう言ってた」

「姉さま、か」

「うん」

「過ぎたことは仕方ない。でも、ちゃんと取り返せるものもあるんだ」

「え?」


狼の姉さまはお粥を一杯すくうと、自分で食べてしまった。

そして、それをゆっくり味わうと、静かに飲み込んで。


「口に広がる甘味と香り。それと、ほのかな酸味。全体的に控えめでありながら、はっきりとした主張を持っている。さすがに美味いな」

「……!」

「ほら、ルウェももう一杯」

「うん!」


匙を口元まで持ってきてくれる。

それを口に含んで、さっき狼の姉さまが言ってたことを、自分でも味わう。

…うーん。

あんまり分かんない…。

でも、さっきより、ずっとずっと美味しいのは分かるんだぞ!



狼の姉さまは横に寝転がって、そっと頭を撫でてくれる。

欠伸をしてる間に口の中に指を入れてきたから、そのまま甘噛みをすると、ニッコリと笑いかけてくれた。


「オレも、よくこうやって甘噛みをしたものだ。それが今となっては、される側だからな。なんだか不思議な気持ちだ」

「……?」

「はは、独り言だよ。それにしても、ルウェは立派な歯を持ってるんだな。龍なのに、狼のオレにも負けないくらいじゃないか?」

「んー。自分では分からないんだぞ」

「まあ、そうだろうな」

「うん」

「二牙症…ではないんだな。臼歯なのに、こんなに鋭いのか」

「二牙症?」

「ああ。牙、つまり、犬歯が二本生えてくる病気だな。オレもそうなんだけど…」

「狼の姉さま、病気なの…?」

「はは、心配しなくていいよ。二牙症が何か身体に変調をきたすことはない。ただ、歯並びが少し悪くなる可能性があるから、生え変わりの時期に気を付けておいた方がいい、ということだ。親知らずも生えきったオレにはもう関係ないよ」

「ヤーリェは?」

「ヤーリェ?あいつも大丈夫だよ。ちゃんと綺麗に生え揃ってる」

「よかった…」

「ていうか、ヤーリェが二牙症だなんて言ったか?」

「うーん…。分かんない」

「ふむ、そうか…」


狼の姉さまは、あれこれ考えているみたい。

でも、たぶん狼の姉さまは言ってないんだぞ。

じゃあ、なんで分かったのかは分からないけど…。


「まあいいか。ヤーリェが二牙症なのは事実だ。それはそれでいい」

「うん」


そして、頭を撫でてくれた。

眠たくなって欠伸をすると、今度は指を入れてこなくて。

代わりに、優しく背中を叩いてくれた。

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